刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 11-2.割らずに愛の中身がわかるものかよ(1/1)

「勘七郎は私の子供です。でもまぎれもなく……あなたの孫でもあるんですよ」

「だから今度ウチに来るときは橋田屋の主人としてではなく、ただの孫思いのおじいちゃんとして来てくださいね」

「茶菓子くらい出しますから」




「解決してよかった〜いやー勘七郎くんかわいかったな〜」
「ハイハイ百回聞いたもうソレ百回聞いた」
「あっもちろん銀時の方が可愛かったぜ♥」
「誰がフォロー求めたんだっつーの♥」
「銀時にもあんな頃があったなァ〜」
「赤ん坊の頃会った事ねーだろ」
「こーんな小さかったのに今ではこうして酒も飲めるようになって……」
「枝豆見ながら言わないでくれない」
「落ちてるエロ本堂々と拾うくせに捨てる時はコソコソしてた銀時クンがなァ〜……」
「ねえ俺の声聞こえてる? いい加減にしろよ施設に叩き込まれてーかクソジジイ」

最後に撮らせてもらった銀時と銀時ジュニアのジト目ツーショ。スマホを眺めて溜息を吐く俺に本物の銀時が白けた視線を向けてくる。よせやい照れるじゃねェの。

「銀時ィお前イイ子いねーの? お妙ちゃんとかさっちゃんとかさァ」
「あー年に1回親戚の集まりがある家に生まれた奴ってこんな気分なんだァー」
「もちろん結婚したら孫の顔見せてくれるよな?」
「二十歳半ばになって親から重圧かけられる独身男ってこんな気分なんだァー」
「と言いつつ〜?」
「と言いつつ〜?じゃねーよ。結婚して所帯持つなんざ興味もないね。あと俺テメーの息子じゃねーし」
「ええ、うーん、そうかァ。まあそういう生き方もあるよな……」
「……お前は」
「俺? いや俺の一番はずっとお前らだし、このまま当分変わらねーと思……銀時下、下!」

銀時がグラスを煽る姿勢のまま固まった。酒が注ぐ先からドバドバ下に落ちていく。手からグラスを取り上げて、居酒屋の親父から受け取った布巾でテーブルを拭いた。

「…………お前さァ、ホントそーいう……ハァ………」

新しく一杯頼んで振り返ると、なぜか意気消沈した様子の銀時が生娘のように顔を覆っている。俺はといえば再び腰を落ち着けながら、ソイツの白い着流しに汚れが無いのを確認してホッと胸をなで下ろした。どうせ洗うの新八くんだろうし。……嫁は新八くんだった……? 銀時ジュニアを抱く姿も妙に堂に入ってたし……イヤイヤイヤ、ンなわけ……いやでも………

「銀時って男が好きだったりすんの?」
「ブッッッッ」
「汚っ、えっ、その反応ガチ?」
「ッんなわけねーーーだろ!! 見ろこの鳥肌!!」
「あっ、そう……まあお前が婿連れてきても俺は怒らないからさ」
「最悪な気の使い方してんじゃねーか、表出ろ」

ダンッ!と叩き付けられたお冷が波を立て、吹いたばかりのテーブルに水滴を散らした。あーあ。……ごめんな。こういうせっつき方、お前が嫌がることくらい分かってるよ。自分だけの人生だ、結婚も子供も自由にすればいい。本当はさ、お前が女が好きでも男が好きでもイ○ポでも構わないんだ。

「その生ぬるい眼差しイライラするんですけど、絶対ェ失礼なこと考えてるって分かってすげーイライラするんですけど」
「大丈夫、イン○でもお前の未来は明るいぞ」
「衝動的に殺したくなる誤解してくれるな、殺したくなる」
「殺意の二乗じゃん……」
「ずっと思ってたけどお前デロデロに酔ってんな」
「酔ってませんけど」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよバカ」

親父が置いてった注文の酒を銀時が引っ掴んでぐんと煽った。だいたいお前は……と一息に赤らんだ顔で小言を並べていく先生想いの教え子に、俺は枝豆をプチプチしながら心の中でこう投げかけた……いや超素面です。毒物は体内で分解されるから酔っ払うワケがねーんだよなァ……。ほらアレ、場酔いってことで許して。

「分かった分かった、もううるせえこたァ言わねーよ」
「もうだいぶ明け透けだったけどこれ以上があんの?」
「たださァ、何これ、親心っつーの? お房ちゃんの旦那さんの話聞いて勘七郎くんに触れて、銀時にも一生隣にいてくれる人がいればいいと思ったんだよなー……あ、だから言うこと聞いとけってワケじゃねーから。そういう選択肢もあるって話」
「……テメェが」

打って変わってボソボソと不貞腐れたような声。
喧騒にかき消えてしまいそうなそれに自然と意識が向かう。

「テメェがいるなら、それでいい」
「あは、なんだ、甘えんぼか? かわいいなァ。俺は嬉しいけどそのうちお前の方が嫌にな、る…………」

突然だが俺は鈍い方ではない。

模造品(クローン)と自覚してるからか客観視は得意なモンで、己が持て囃されていることをよく知っている。見目がよくて愛想がよくて、振る舞いに気を使ってりゃ好意を持たれるのはまあ当然ってヤツだろう。性格はそんなによくないからたまーに人をからかったりもするけれど。

つまり言いたいのは、人のソウイウ好意には敏感な方だってこと。だから、コレもなんとなく察してしまう。

合わない視線、赤い目元。
つんとそっぽを向いた横顔。
グラスに隠されてしまった、拗ねたような唇の形──そこから零れた小さな本音。

そのすべてが雄弁に答えを告げていて……イヤ、イヤイヤイヤまさか……考えすぎだって……流石に自惚れが過ぎるわ……また虫けらを見る目で鳥肌を見せつけられるぞバカ……


『好きだ。董榎は俺のこと……』


「ブーーーーッ」
「うわ汚ねっ」

頭をよぎった過去の情景。濡れた口元から酒が滴る。テーブルの上の酒臭い水溜りを眺めながら、脳内は塾時代のあれやそれやこれや、ひいてはあの冬の日のあれとかそれとか入り混じり上から下への大騒ぎ。

………えっマジで? コイツあの頃からずっと俺の事好きなの?

「……………」
「ど、どした?」
「…………………かえる」
「は?」
「急用思い出したので帰ります。これ金。じゃ」
「待て待て、…はあ?? いきなり帰るって何?」
「いや気にすんなこっちの話だから、手放してくれ」
「いや気にするだろ普通に、顔色やべーぞ」
「いや本当に大丈夫だから……あと手、放して……」
「ちょっ待てよ」

「放せつってんだろーがァァァ!」

腕を引っ張って踏み込み。流れるような左肩背負い。

ドンガラガッシャーン!

一本! 間抜けな幻聴を耳にしながら店の奥に銀時を投げ捨て、その日は真っ直ぐ帰ってすぐ寝た。不死身の体は通常であればほとんど睡眠を必要としないので、寝たというか寝転んだ。いつもなら夜は読書をしたり資格の勉強をする時間だが、集中できる気がしないので開きもしなかった。

瞼の裏に映る過去と現在の記憶にうんざりしながら迎えた朝。白みだした窓の外をぼうっと眺め、俺はある決意をする。

あとで店に謝りに行こう。



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