刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 10.壁に耳あり障子に目ありゴミ箱に(1/2)

やめろ、消えるなよ。
銀時にそう言われた時、俺は考えた。

子供達は大人になった。言うべくもなく俺や松陽にとって、アイツはいつまでも憎たらしくて愛しい子供だけど、この町の人間たちにとって万事屋銀ちゃんは一人の大人だ。

なら、今の坂田銀時に俺は必要だろうか。
もうお役御免なんじゃないかってな。

……でもきっと、俺が急にいなくなって不安だったんだろう。自分を責めたこともあったかもしれない。あいつは幼い心に付けられた傷を癒す暇もなく大人になってしまった。それをわざわざ掘り返すことは俺も本意じゃない。

ああ、話は変わるが。例のデータな。
そ。あれは俺の、俺自身のデータだよ。胸糞悪い代物さ。
大人しく捕まって拷問まで受けてやったんだ。あれが俺の手元にないこと、俺が場所を吐かないことは嫌でも分かったろう。こないだ釘も刺しといた。直接捕まえに来ることはもうないはずだ。……だからって、こうして間接的ならいいと思ってるのかは知らねーが。

まァ、それなら次は何をするかって、そんなの猿でも分かる。本人が駄目なら周りを探るしかない。
研究所を出て俺が訪れた場所、塾や、そこに至る道のりなんかはもうあらかた調べ終えてるだろうな。あれだけ痕跡残して終わってなかったらビックリだわ。だが今もアタフタしてんのはそこからは見つからなかったってことだ。

ん? ああ、正直俺も今どこにあるか分からないんだ。これは内緒の話だけどさ。必死こいて探ってた相手が実は何もしらなかったなんて、奴らが知ったらどうなるか……考えただけでドキドキする。あ、もちろんワクワクの方のドキドキな。
……いや、いいよ、アンタは漏らす心配もないし。

話を戻そう。

奴らは考える。一人の経歴を調べ尽くしても目的の物が出てこなかった、それは他の人間に託したからだと。
俺が懇意にしていた人間とあれば、吉田松陽……虚と、松下村塾の生徒。中でも有力候補は塾が一度燃えた後にも残った子供達だ。
桂と高杉は反幕府勢力として既に指名手配されてる。虚の方は、まあ……今頃どこで何やってんだかな。

とにかく、4人の中で狙われるとしたら銀時だろう。そんな訳で、俺はここに居座ることにするぜ。老害と呼ばれるのは流石に心に来るが、事実だから仕方ない。繰り返すようだけど、あの子ももう大人だからさ、あんまり口出す気は無いんだわ。ええと何だっけ、火事と喧嘩は江戸の華? 俺は万事平穏が一番だと思うけど、まあそんな言葉があるくらいだから、敵は見逃してやろう。だが刺客は逃さない。いや、アンタも運が悪かったな。一つだけ言えるのは、仕事相手は選ぶこった。反省が生かされる機会はもう無くなっちまうが。来世に期待して、辞世の句でも唱えてくれや。

「化け物が……楽に死ねると思うなよ」
「アンタに言われると重みが違うなぁ」

おやすみ。許してくれとは言わないよ。



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