ロールケーキ
「若松さん、ちょっとええかの」
放課後を告げるチャイムが鳴り、皆帰り支度をはじめる。俺はそんな慌ただしい中若松さんを引き留めた。幸い用事はないらしく、とりあえず人気がなくなるまでいつもの他愛のない会話をした。けれど、いつも以上に余裕はない。昨日ブンちゃんに吠えてしまった手前、引き返せなくなってしまった。そして、自分自身早く決着をつけた方がいい気もした。
若松さんからは甘ったるい匂いがする。どうやら飴を嘗めているらしい。
「俺……」
言え、言うしかなか! なのにいざ若松さんを前にすると緊張してしまう。昨日あんなに脳内シュミレーションを積んだのに、情けない。
改まっている俺に只事じゃないと感じたのか、苺さんも俺に向き直った。
「何、もしかして悩み事? そんなときは飴を嘗めたら落ち着くよ!」
はい、と渡されたのは可愛い絵柄の飴。若松さんらしくて、食べる前から気持ちが和む。
「俺、おまんが好きじゃ」
脈絡のない唐突な言葉。なんでもっと綺麗に言えないのか。
若松さんは、少し驚いたのか飴をころころ転がす音が消えた。
「仁王君……飴嘗める?」
前言撤回、少しではなくとても動揺しているようだ。
「え、あ、ごめん。告白されたの初めてだったから、びっくりしちゃって!!!」
若松さん顔真っ赤じゃ。多分俺の方が凄いんやろうけど。夕焼けを浴びてるみたいじゃけど、まだまだ日が沈む気配はない。空は憎たらしいほどに青い。
若松さんが口を開く。それは一瞬なはずなのにひどく長く感じて。耳を塞ぎたい衝動をじっとこらえる。そんなことして、後悔するのは紛れもない自分なのだから。
「私も、仁王君が好き」
「ホンマ……?!」
若松さんも恥ずかしいのかただこくんと頷いた。その仕草がとっても可愛くて。
今ここにブンちゃんがいたら「仁王尻尾振ってやんの!」と茶化してきそう、それくらい俺は今幸せなんじゃ!
「好いとうよ、苺」
初めてのキスはイチゴの味がした。
END
ベタベタですみません。最後までお読みいただきありがとうございました。
20111003
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