8
「――――くん、さなだ君」
誰かの呼ぶ声が聞こえる。ここはどこだ。俺はどうしたんだ。
「……忽那?」
「真田君、良かった起きた。もう二度と起きないのかと思った」
俺は夕方、忽那の家に物を返しに貰いに行った。玄関で良いと言い張ったが、すぐ返さなかった詫びがしたいと押し問答になり、折れた俺は忽那の部屋に上がり……そこから記憶がない。
「何をっ……!」
「真田君、意外に甘いのね。さっさとバレて怒鳴られるかと思っていたのに」
目が覚めると目の前には忽那がいて、俺の服の下に手を入れているではないか。
「静かにして。もしも誰か来ちゃうと最後まで出来ないでしょ?」
まあ、今夜は誰も帰ってこないはずだから大丈夫だとは思うけど。その笑い方に狂気をも感じる。どうにか忽那の腕を振り払おうとするが、がちがちに手足を縛られていて身体が言うことをきかない。
「何をする気だ?!」
命が狙いか、何かの復讐がしたいのか。だが俺は忽那に恨まれる覚えはない。そもそも接点が少ないのだ。忽那は「本当にわからないの?」等と抜かしている。
「本当にうぶで可愛いのね。ほら、喚かないの」
上半身はとっくに脱がされ、狙いはズボンとなった。
それは、つまり、そういうことなのだろうか。
そんな、まさか。俺は男だぞ?
考える間もなく下着ごと一気に下ろされ、自分の一物が露わとなる。羞恥と憎しみが渦巻くが、触られる内に脳が溶けて何も思わなくなる。自らの意思とは反対に、ソレは熱く硬さを帯びてくるではないか。なんて気持ち悪い!
「お前、こんなことしてただで済むと思っているのかっ。
お前だって両親が帰ってくれば……」
「いないよ、親なんて」
その顔は、いつもの忽那だった。儚くて、優しくて、悲しそうな忽那の顔。
だがすぐに再度顔を歪め、これから起こることについ笑みを零してしまったようだ。
何かがおかしい。
「もうどうでもいいの。どうせもう、真田君に会えなくなっちゃうんだもん。
どうせ会えなくなるんなら、今後刑務所で過ごすことになっても真田君が欲しいの。だから……」
忽那はスルリと自らの服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となる。そのまま滑らかな仕草で俺を跨ぎ、馬乗りになった。次の瞬間、俺は記憶の糸が途切れた。
『今だけ真田君を私に下さい』
翌日。
忽那を問い詰めたい気持ちと顔も見たくない気持ち、訴えたい気持ちと女にヤラれたとは到底言えない恥じる気持ち。ぐるぐると自分の脳内をかけまわり、全く眠れず気分が悪い。よほど顔色が悪かったのか母に休めと言われたが、それよりもまだ理性が勝った。
怠い身体を言い聞かせ、家を出る。そういえば俺はどうやって自宅に着いたのか。思い出せない。出したくもない。今、忽那を見たら俺はどうするのだろう。自分で自分がわからない。気持ちが悪い。やはり帰ろうか、いやそれでも……うじうじと悩んでいると、いつの間にか学校に着いていた。これではもう帰れない。
教室のドアがこんなに重いとは、誰が想像できるだろう。いつもはほぼ一番に来るのだが、今日はこのような状態のため、始業ギリギリだ。それでもあるはずの女の姿がなく、俺はまず安堵した。
着席とほぼ同時に始業のチャイムが鳴り、それでも忽那は登校しない。
いつもの顔で担任が来て、出席確認の前に「えー……」と喉を鳴らす。
「忽那だが急遽転校することが決まった。学級委員は朝礼後机と椅子を倉庫まで持ってきてくれ」
今なんと言った?
軽い放心状態に陥る。
確かに昨日言っていたが、まさかこんなに急だとは。
ぽつりと空いた忽那の席は、感慨もなくすぐさま倉庫に仕舞われてしまった。
私物はおろか忽那を連想させるものは何も残っておらず、まるで全ては夢だったのではと思えるくらいあっけなく終わったのだ。
だが、家に帰れば一つだけ。
忽那から返されたあのタオルは、いつまでもほのかに体温をともしているのだった。
END
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ちぐはぐな文章でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
2012420
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