1


その日は雨で湿度が高く、気分もどこかじめじめしていた。



「真田、どうかしたかい? 何度も後ろなんか見てさ」

一日を終えるチャイムが鳴り、いつものようにテニスが始まる。
テニスは好きだ。だが雨のため外で練習はしまい。幸村の機嫌によっては早く終わるかも知れない。そう思っていると本人である幸村に遭遇した。目的地が同じなのだから別段問題はなく、自然と一緒に部室へ向かうことになる。
それは良いのだ。だが。

「い、いや。なんでもない」
「ふーん…………恋ならさっさと俺に白状しないと自分のためにならないよ?」
「何故そこで脅しになるのだ!」
嫌だなあ、お前を脅すわけないだろう。カラカラと笑う幸村につられ、自分も笑うがどうにもぎこちない。
何故だろう、最近妙に視線を感じるのは。
幸村が気づかないほどの小さな違和感なのだ、恐らく自分の気のせいだろう。そう思い込みさっさと部室に入った。





「あ、部長副部長ちわっす!」
雨だというのに後輩の赤也は元気で既に着替えも終えていた。彼は勉強が大の苦手だが、テニスとなると意地でも出てくる。そのこと自体は誇りに思えるが、あとはキレたときの理性を保つことが必要だろう。

「赤也、早いじゃないか。今日は英語の小テストにひっかからなかったようだね」
「別に毎日ミスってる訳じゃないっすよ!」
「おい赤也、ロッカーに置いていた俺のタオルは知らんか?」
「へ? 見てないっすけど」

今日は午後から雨だと天気予報でわかっていた。そのため朝練に来て少しでも腕慣らしはしておこうと思ったのだ。
結局始業直前まで集中してしまい、タオルくらい放課後までなら自分のロッカーに入れても大丈夫だろうと、確かにここに入れたのだが。一番乗りの赤也も見てないとは、誰か昼休みに練習にでも来たのだろうか?



「不憫だね、間違って真田のタオル使っちゃった奴」
「……どういう意味だ!」
「そりゃ、純粋に返しにくいってのもあるけど、まさか使い終わった奴を触ったなんて知ったら…………」
「…………」

そう、ここにはないということは部員が誰か間違えて持っているということだ。ロッカーを区切ってはいないのでレギュラーじゃない奴かも知れない。



だが、今日欠員はいないにも関わらず誰一人タオルを持っている者はいなかった。

[*prev] [next#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -