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01



「んっ……」

「あ、起きたか?」

目を覚ますと、知らない天井。
思わずガバッと起き上がった。
嘘、ここどこ?
てか私トリップ? して……あれ。

何がなんだか混乱してきた。
私はぐわんぐわんと鳴り響く頭を手で抑える。
つか今の声誰?
ふとそう思いその声の主の方向を向いた。

「おはよう」

「お、おはようございます」

って、何で返事してるんだ私!
くっそぉ、訳が分からないぞ。
一体どうなってるんだ?

「お前さんは倒れていただろう? そこをワシが見つけてな、連れてきたんじゃ。ここはワシの家だ」

「え、あ! そうだ私倒れて……」

なんか恥ずかしいな、お腹がすきすぎて倒れたとか。
私は密かにお腹を抑えた。

ぐううぅぅ。

お腹の音、っ。
恥ずかし!!
私は俯いて赤面しながら黙り込んだ。
その音を聞いてジイさんはあっはっはと笑った。

くそ、笑うなよ!
なんて助けて貰ったのに思ってしまう。
ジイさんは立ち上がり、隣の部屋の戸を開けた。
何をするんだろうと思って横目で見ていると、ジイさんが言った。

「腹減ってんだろ、なんか食わなきゃな」

また、ニッコリと笑う。
私は赤くなりながら小さな声で「ありがとう」とボソリと呟いた。
……それにしても、なんか古き良き日本の家って感じの家だな。

床は畳で、壁には掛け軸が飾ってある。
戸も障子だ。私は紫色の布団から出て、布団をキレイに直した。
一応、ご馳走になるか。
お腹空いたしな。

私は未だにぐうぐうと鳴り止まないお腹を両手で抑えた。
……いい加減鳴り止めよ!!
心の中での私の叫びは悲痛にも空に消えた。

「よし、あんまないけど。食いな」

「あざっす、いただきまーす」

両手にはおぼんの上にご飯と麻婆豆腐と青椒肉絲が乗せられていた。
ジイさんは足で戸を閉め、木製のテーブルにそれを置く。
美味しそ、麻婆豆腐とか中華系好きなんだよね。
ラッキーなんて思いながら箸を伸ばした。



「ご馳走様です」

「いいや良いって事よ、それにしてもなんでお前さんはあんなところで倒れていたんだ?」

なんて説明したら良いんだろう。
取り敢えずあの事だけは避けて言えばいいか。
お世話になったし、それくらいは話さないと。

「お腹がすきすぎて倒れちゃって……はは」

「……あっはっは! 腹が減って倒れたのか!」

「笑うところじゃないっすよ、もー」

そんなに笑わなくても良くね?
私はムッとして少し口を歪めた。
ガラスのコップに入った冷たい水を一気に飲み干す。

「あそこに居たのは野宿です」

「家は?」

「ない、消えた」

私がそう言うとジイさんは「は?」と言った。
何言ってんだコイツ、見たいな顔で見るな!
目の前で見たわけじゃないけど、家が消えたんだ。
完全に、跡形もなく。
これはもう何かの陰謀だろ!

「つかお前親は?」

「いない」

この世界には、ね。
お母さんもいなかったし。
早く会いたいなぁ。
早くもホームシックです。

少し暗い顔をしながらジイさんは「悪いことを聞いたな」と言った。
え、ちょっと勘違いしてますよ!?
親いる! ピンピンしてるっつの!

「親は遠いところにいるんス、死んでないっつの」

「あーなんだ吃驚した、そうか家がないのか」

「うん」

それからジイさんは少し悩む素振りをしてから顔を上げた。
何だよ、吃驚するじゃないか。
私はジイさんから目をそらすように窓の外を見た。

夏だなぁ。
それにしても木が見えないな、遠くだけど。
ここは都会なのかもしれない。
私が住んでるところは田舎だったからな。

都会に出るのは生まれて初めてだ。

「お前ここに住むか!」

「え、つか何で疑問系じゃないんだよ!」

「うるさい、ワシも老人一人で寂しいんだ」

私はあっけらかんとした。
老人一人で寂しいんだ、って言われてもな。
でも良い提案かもしれない、私の家は今ないんだ。
お金もない、無一文だし。

というかあっても日本円は絶対に使えないな。
ここの通貨はゼニーだし。
私は少し考えてから「よろしく」と頭を下げた。

ジイさんは満足そうに「おう!」と言ってウンウンと頷いていた。
よーし、これで住居は確保だ。
それにしても住むって事はお金も負担して貰うと言うこと。

やっぱり悪いよな、私もバイトをしよう。
時間だけならいっぱいあるるんだ。
私はもう義務教育を終えた学生だからな!

「あーそうだお前、名前は何だ?」

あ、そう言えば聞いてなかったな。
私は一つ咳払いをしてから答えた。

「片桐ハルカだ」

「ほぅ、苗字と名前が分かれているのか。珍しいな」

こっちでもそうなのか。
一つだけここがドラゴンボールの世界である事に近づいたな。
私は同じ質問をそっくりそのままジイさんに返す。

「ジイさんの名前は?」

「ワシはボクサーじゃ」

「うん、これから厄介になるよジイさん」

「ちっ、あんま食い意地を張って食い過ぎるなよ。ワシも貧乏なんじゃから」

ならなんで私を引き取ったんだよ。
私はそう質問した。
その質問にジイさんは真顔で「楽しそうだから」と一言答えた。

「……なんだそれ、あはは」

「余生を謳歌せんとな」

「はは、そうかよ」

そう言いながら私とジイさんは笑いあった。





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