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▼ 師が、走る

 最近スネイプが忙しそうだ。

 いつ見ても手を動かしながら受け答えしているし、食事の席にだってものの10分程度しかいない。
 廊下は早足…ってこれはいつもか。


 という訳で、お見舞いにいくことにしました。


「病気になどかかっていないが」

 案の定彼は眉をしかめた。
 失礼なことに、採点中のレポートに顔を向けたままだ。

「よって、お前に構ってやる暇も義務もない。用がないなら帰れ」
「陣中見舞いですよ」
「なんだそれは」
「頑張ってる人を励ましにいくことです」
「我輩としては、お前がここに来ないことが一番嬉しいのだが」
「はい、パンとワイン。それから来る途中できれいなお花を見つけたので」

 私は白い花を一輪、うつむいたままでも彼の視界に入るように差し出す。
 邪魔だろう。当たり前だ。
 もちろん分かってやっている。

「いつお前は赤頭巾に転向したのだ!いい加減に…!」

 スネイプはようやく羽根ペンを置き、私の手をどけようとしたが…
 そこでなぜか怪訝そうな顔になった。

 雷が落ちるとばかり思っていた私は、肩透かしをくらう。


「どうかしましたか?」
「……お前の手が…」

 私の手を握ったまま離さない。
 それどころか、両手で包み込むような仕草をした。

「私の手がなにか」
「やけに熱くないかね」
「先生の手が冷たいんだと思いますが」
「…ふむ」

 彼はこちらをようやく見た。
 眼差しは真剣この上ないのだが、なんというか目が合わせづらい。

 …ちょっと待て。
 そこではたと気付いた。


 なんか、普段のスネイプっぽくなくない?


 怒らないし、嫌味ないし、
 つかむしろその気遣わしげな態度は、まるで恋人にでもするようn



 そんなバカな――っ!



 だってまだ告ってないし!
 まだ告られてないし!
 まだ押し倒してないし!!


「…お前、顔が赤いぞ」
「そ、そうですか?気のせいでは」

 思わぬ接触で妄想先走ったあまり赤面したなどとは、まさか口が裂けても言えない。


「もっと近くに寄れ」
「な、なんで!?」
「…いや、我輩が動けばいいことか」


 訳がわからないまま、危機を感じてじわじわと後ずさる私。
 それよりも早く歩み寄るスネイプ。

 顔がぐんと近づいてきたところで、なんだか頭がくらくらした。
 雰囲気にあてられてる?
 これはやばい…やばいぞ…!

「ちちちちょっと待ってください!」
「待つ訳にはいくまい」

 なんと頬に手も添えられてしまった。
 もはや意味が分からない。現実が理解できる範囲を超えている。

「お前だけではない、我輩の問題にもなり得るのだ」


 もう駄目だ。
 おしまいだ。
 さよなら私の純情…
 観念してぎゅっと目をつぶったら、




 ぺちょ。




 額に手の感触があった。
 冷たい。
 けどなんか、やけに心地いい。


 納得したように彼は一言、つぶやいた。





「…やはり、風邪か」





 結局、お見舞いどころか、
 ただでさえ走り回ってる師を、余分に走らせる羽目になってしまった訳で。




End. 

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