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就寝時間はもうとっくに過ぎている。
明かりも消え暗い部屋で、レイはベッドに潜ってカードを眺めていた。
赤とピンクと白、色は違えどみんな美しい模様や飾りがある。
書いてある文句はどれもが、今日にふさわしい甘い言葉。
結局、カードの収穫は3枚。あの朝届いたきりだった。
けれど大して期待もしていなかったし、こんなものだろうと思う。
3人も自分を好意的に見てくれていることに、むしろ驚くべきだろう。
まずありえない、でももしかしたら、と、
本当に待ち望んでいたものは、なかったのだし。
満足しなきゃ。
レイは自分に言い聞かせる。
祭りが終われば、いつもと変わらない日常が戻ってくる。
それは少し(本当に少し)残念だけれど、
でも、本当はいいことなのだ。
ゆるゆると、暖かい日常が、続く。
たまに今日みたいな祭りの日があって、皆で盛り上がって。
充分に幸せだ。
それを噛み締めなきゃバチが当たる。
自分から動かないで、何が『もしかしたら』だ。
傷つくのが怖くて動かないなら、高望みするな。バカ。
そのまま自己嫌悪に陥りそうだったので、もう眠ろうとカードをサイドテーブルに置く。
その時。
ふくろうが、ほう、と鳴いた気がした。
カツカツとガラス戸を叩く音がする。
気のせいじゃなかった。
レイはベッドから降り、窓を開いて鳥を招き入れた。
学校のふくろうだ。物腰は落ち着いていて物わかりがよさそうだが、目つきに妙に険があった。
足についたカードを受け取り、手元にあったナッツを与えて帰らせる。
バレンタインのカードにしては、遅い。
もう日付は変わってしまったはずだ。
杖先に光をともし、レイはカードを覗き込んだ。
黒いカードには、白いインクでこう書いてあった。
『来年のプレゼントは、一人だけにしておきなさい』
隅に一言添えてあるのを見て、レイは目を見開いた。
そして一気に、破顔した。
「…黒いバレンタインカードなんて、趣味悪すぎ」
愛を込めたメッセージなわけではないし、プレゼントも付いてない。
なんてそっけないのだろう。
けれどレイは、そのカードを、大切そうに抱きしめた。
心当たりの人物は、一人しか浮かばない。
実のところはわからないけれど、もし本当に彼だったら。
その幸せな想像を、信じていたい。
差出人はこう書かれていた。
『Secret Admirer ―― you too.』
ひそかにあなたを慕うもの…
――私を慕うあなたと同じように。
End.
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