赤で隠して

積もる赤は真白を想うの続き


カスミは、白薔薇を空に翳した。
太陽の光がキラキラと白薔薇を輝かせている。
ふわふわ、香りが漂った。

「……ふふっ」

カスミは笑った。
思い出すのは、噴水の前での出来事。
男は白薔薇、女は赤薔薇。
それを好きな人へ贈る。
赤薔薇と白薔薇の交換、それは互いの想いを受け取るということ。
つまり、カスミは受け取ってしまったのだ。彼の想いを。

「知らなかったとはいえ、まさかコジロウの薔薇と交換しちゃっただなんて……変な感じ」

ただ、互いに色が合わないから交換しただけだったのだけど。
ふふっ。
カスミはおかしそうに笑った。

「…………なぁ、タケシ」
「何だ?サトシ」

そんなカスミの光景を眺めていたサトシの目は据わっていた。
拗ねてるな、とタケシは内心呟く。

「さっきからカスミのやつ、ああやって白薔薇を眺めてるよな……」
「そうだな……」
「……あのさ……まさか、カスミって、コジロウのこと……」
「ハハ、あるわけないって。カスミも知らずに交換したって言ってたじゃないか。コジロウはないって。多分」
「多分!?多分って何だよ!否定するならちゃんと否定してくれ!」

サトシはタケシの胸ぐらを掴むと、勢いよく揺らした。

「なあ、ピカチュウ!あるわけないよな、そんな事!」
「ピ!?ピ、ピカ〜……チュ」
「何で目をそらすんだよピカチュウ!」

急にふられても、とピカチュウは視線を泳がせた。
タケシもピカチュウも、それはないとは思っているが、カスミの気持ちはカスミにしかわからないもの。
サトシのように、わかりやすければ別なのだが。

「おーい……!」

遠くで声が聞こえた。
何だか聞き覚えがある、とサトシは眉を寄せ振り返った。
こちらに走ってきているのは、やはり。
サトシが今一番会いたくないコジロウだった。

「ジャリボーイ、ジャリガールはいるか?」
「カスミに、何の用だ?」
「お、おお……近っ……」

ずい、とサトシはコジロウに詰め寄る。
コジロウが持っている赤薔薇。カスミが持っていた赤薔薇だ。
む、とサトシの不機嫌さが上がる。

「カスミなら、あそこにいるよ」
「お、ホントだ。おーい、ジャリガール〜!」

タケシがカスミを指差すと、コジロウはホッとしたような笑みを浮かべ、カスミの元へと走っていく。
サトシが慌てたようにコジロウの跡を追おうとするが、タケシはそれを引き止めた。
ジッ、とタケシを睨むサトシ。
タケシは苦笑した。

「ジャリガール!」
「ん?あら、コジロウ。どうしたの?」
「あ、ああ……その……なんだ……」

どう言ったものか。
コジロウは困ったように頭を掻いた。
クスッ。カスミは微笑する。

「薔薇のことでしょ?」
「ん……うん……。聞いたか、この薔薇を交換する意味」
「ええ。まさかだったわね」
「あの後、ムサシとニャースに思いっきり笑われてさ……ロリコン扱いだよ……」
「ぶっ!……っふふふ……!や、やっぱり……?」
「笑うな。知らなかったんだから、仕方ないだろ!」

コジロウは心底困ったように眉尻を下げた。
お腹を抱えて笑っていたカスミは、ふと自分が持っている白薔薇に視線を落とした。

「何か……勿体ないな。コジロウは赤が似合うのに」
「それは、オレに薔薇を交換する相手がいないと言ってるんだよな?」
「ええ、そうよ。まさか、ムサシと交換?」
「笑えない冗談はやめてくれ」

ぞわり、コジロウは体を震わせた。
クスクスと、カスミは愉快そうに笑う。
何だか今日は笑ってばかりだな、と小さく呟いて。

「まあ、オレもお嬢さんには白の方が似合うと思うぜ」

コジロウは言うと、赤薔薇をカスミに差し出した。

「またすぐに、白を貰えるだろ?」

ニッと、笑うコジロウはまるで近所に住む世話焼きなお兄さんのように見えて。
カスミはその言葉で、無意識にサトシの方に顔を向けた。
不機嫌そうなサトシと目が合う。
つい勢いよく逸らしたカスミの頬は、可愛らしい色をつけた。

「…………」

スッと、無言のままカスミは白薔薇をコジロウに差し出す。
互いに薔薇を交換して、元通り。
コジロウの手には白薔薇、カスミの手には赤薔薇。
カスミは赤薔薇に顔を近づけた。
この真っ赤な色で、顔の熱を誤魔化せないかな。
そんなカスミの心情を知ってか知らずか。
コジロウは、顔がその薔薇みたいになってるぞと笑った。

(タケシ……何でカスミの顔が赤いんだ)
(さあ……。でもこれで、お前たちで薔薇の交換できるじゃないか)
(ピ〜カ〜)
(何か釈然としないんだけど!)


end


以前書いたサトカス+コジの続き。
ずっと書きたいと思ってたら、何だかずいぶん月日が経ってました(笑)
サトカス表記していいんだろうかコレ。コジ+カスがメインになってるものね……!
あの話は個人的に気に入っているので、今回も楽しく書けました!
最後においしい思いさせないままでごめんよ、サートシ君!
お粗末さまでした!

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