秘する

図らずもの続き


今まで、それはどこに在ったのだろう。
その存在と、どう向き合ってきたのだろう。


「――上」
「…………」
「姉上!」
「え?」
「それ、味噌汁に入れる気ですか!?」

慌てた様子の新八。
あら、私は今何してたかしらと頭の隅で考えながら、新八の指差す先を見つめる。
味噌汁に入れる気ですか。って。

「姉上、それいちご牛乳ですけど……」
「……!?」
「うわっ!あぶな!」

持っていた紙パックから思わず手を離せば、当然重力のままに落ちていくが、新八がギリギリのところで受け止めた為中身が零れることはなかった。
しかし、妙はそれを気にするどころではなく。

「な、なんでウチにいちご牛乳なんか……!」
「え?何でって……この間銀さんが来たときに買ったじゃないですか」

大丈夫ですか姉上。新八が心配そうな顔をするが、妙の目には入らない。
銀さん、と名前を聞いただけで思考はフリーズ。

「姉上?」
「な、何もないわよ別に!?本当に何もないの!!」
「え?あ、はい……」

圧倒されたように新八は頷いた。
何を言ってるの私は。妙はふいと顔を背けた。
自分でおかしい事は解っている。
新八に心配をかけ、仕事も失敗ばかりで店に迷惑ばかりかけている状況だ。
しっかりしろと思ってもうまくいかない。
こんな事はじめてだ。
その原因も、解ってはいるのだが。

「……何で私がこんな風に悩まなきゃいけないのよ……」

数日前、新八の忘れ物を万事屋に届けに行った時。
不在だったようで、誰もいなかった。
だから下のスナックお登勢に預けようと、階段を降りたところでたまと会った。
銀時なら中で酒を飲んでいると。
新八の忘れ物を届けるついでに、昼間からいいご身分だと文句のひとつも言ってやろうかと思っていただけだった。それだけなのに。
中から聞こえてきた長谷川とお登勢、そして銀時の話は、想像もしなかった内容で。

「めちゃくちゃ抱きしめて愛の言葉でも叫んでやるわ!」

豪快に笑いながら放たれた言葉。
心臓が止まったような気がした。
銀時に好きな人がいただけでも驚きなのに。
その相手が、自分だなんて。
今までずっと、どう隠してきていたのだろう。

「…………っ!」

痛い。
ズキズキするこの痛みは何。

「お、お妙。んなとこで何やってんだ」
「!?」

痛む胸を押さえながら振り返った。
よお、と片手をあげる死んだ魚のような目をしたちゃらんぽらん。
何で、いるのよ。
顔に熱が集まるのを感じた。

「買い物か?」
「え……?」
「あ?違うのか?」
「違う……?えっと……あら、ここどこかしら……?」
「はぁ?お前、大丈夫かよ」

一体いつ外に出てきたのかも覚えていない。
さっきまで新八と朝食をとっていたはずなのに。
時間に置いていかれたような気分だ。

「顔赤いぞお前。熱でもあるんじゃ……」

銀時に顔を覗き込まれ、息が止まった。
近い。心の中でどうしようどうしようと落ち着きなく鼓動が音をたてる。
ふと、視界が陰った。銀時の手のひら。

「ひぁっ!」
「え!?」

出したこともないような悲鳴が口から飛び出し、妙は慌てて手で塞いだ。
ぱちくりと目を瞬かせる銀時は、妙の額に伸ばしていた手をおろした。

「……何?」
「……な、なにも、ありません……」
「何もないわけねーだろ」
「本当に、何も……ないわ……」

銀時はいつもと変わりない。
私ひとりで悩んで焦って戸惑っているだけ。妙はキュッと唇を噛んだ。
この人は本当に私のことが好きなの?そんな素振り、ないじゃない。ただの酔っ払いの戯れ言?その場のノリ?この人の本心はどこに在るの。
自分とでは釣り合わない。そんな事をこの男は言っていたけれど。

「ぎ、銀さん……」
「なに」
「あ……貴方の目には……私は……どう見えますか……?」
「は?」

何を聞いているのだろう。
バカみたい。

「ごめんなさい。何でもないわ」

にこりと笑って、銀時に背を向ける。
胸が苦しくて仕方がない。
誰かを好きになると、嬉しくて恥ずかしくて、痛くも心地いい音をたてる。
誰かに好きになってもらえると、例えその人を好きでなくても、嬉しくて恥ずかしくて、痛くて不思議な音をたてる。
今の私の胸の痛みは……何?
想われた嬉しさ?
それとも。

「おい、やっぱお前何か……」
「……!」

腕を掴まれ、思わず振り向く。
至近距離に銀時の顔。

「き……きゃぁぁぁ!!」
「ぶべっ!!」

拳は震えていて、同じように殴ったつもりでも、いつもの半分も力が出なかった。
それでも銀時から解放されるには十分で。
妙は顔を真っ赤にさせ、逃げるように走り去った。

「……なんなの、あいつ……」

残された銀時はぽつりと呟いた。


end


図らずもの続きっぽいもの。ホントはこっち書くつもりだったのに……!
でも思った以上にお妙さんがわたわたしませんでした(笑)
お妙さんは基本的に大人っぽくて物事にあまり動じない姿勢でいるからかな……。
あまり乙女化するのも違う気しちゃって……!
お粗末さまでした!

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