図らずも

「え、それですっぽかしたの?」
「そうそう。いや〜惜しいことしたわ」
「銀さんって、爛れた恋愛しかしてなさそうなイメージあったけど、本当だったんだな」
「別に言い訳にするつもりねーけど、時代ってやつだよ。常に戦場だったからな。女とはそれなりってね。長谷川さんならわかってくれんだろ」
「理解はできても、共感はできないなぁ……。俺はハツの事しか考えてなかったし……」

開店前のスナックお登勢。
銀時と長谷川が酒を片手に話しているのは、昔の恋愛のこと。
長谷川が振った話に、銀時が答える。
あまり話したがらないかと長谷川は思っていたが、そうでもないようで、普通に話してくれた。酒のおかげもあるのだろうけれど。

「昔の話なんてしたって仕方ないだろ。あたしゃ、アンタのこれからが心配だよ」

コトンと銀時の前に酒を置いたお登勢がため息混じりに言う。
それに対して、長谷川が笑いながら確かにと同意した。
で、どうなの?と二人は銀時を見つめる。

「……何かあるように見えんの?常にガキ二人も連れてんのに」

ムスッと銀時は目を逸らした。

「でも銀さんさ、仕事柄知り合い多いじゃん。いいなと思う子いないわけ?」
「そうだよ。あたしはあと何年生きられるか分からないんだし、さっさと結婚して安心させて欲しいもんだ」
「勝手言うなっての」
「ハハッ、銀さんの奥さんになってくれるような人かぁ……あんま想像できないけど……」

長谷川はふっと思案する。
どんな人なら銀時が幸せになれるだろうかと。
ロクな恋愛をしてきていない銀時だが、本人が言うように時代もあったのは間違いない。
死と隣り合わせの日々の中、甘酸っぱい青春などあるはずがないのだ。
だからといって、恋愛が理解できないわけではないだろう。
長谷川は唸った。

「うーん……例えばさ、お妙ちゃんとか」
「何でお妙の名前が出た」
「例えばって言ってんじゃん。銀さんの身近な女の子を考えたら普通だろ」
「卵焼くだけでダークマター作るような女を例えに出さねーだろ、普通」
「例えなんだから合わせてよ銀さん……話にならないじゃん」

別に誰でも良かったのだ。例えなのだから。
身近だったから妙の名前を出しただけで。
だが、銀時の機嫌は悪くなったように思え、長谷川は僅かに眉を跳ね上げた。

「お妙ちゃんは新八君のお姉さんだし、身内みたいなもんだろ」
「そうだな」
「もともと銀さんは新八君の兄貴分なわけだから、本当の兄弟になるってだけで、大きく関係が変わることはない」
「そうか?」
「確かに料理はアレだが、美人でしっかり者だし、銀さんのこともよく見てて理解してるし、侍の嫁に相応しい精神を持ってるし……あれ、案外お妙ちゃんとお似合いなんじゃないの銀さん。あんま関係性変わらない感じだし、結婚願望なさそうな銀さんにはいいんじゃない」
「グラサン変えた方がいいんじゃねーの。結婚願望ならあるし?結野アナと今すぐにでも結婚したいくらいだからね」

さっきまでノリノリで昔話していたのにと、長谷川はため息をついた。
やっぱり身近な子はダメらしい。
お登勢に視線を移し苦笑をこぼすも、お登勢はフッと何もかもお見通しという表情で銀時に酒を注いだ。
その酒を一気に呷った銀時は、ダンと拳をテーブルに叩きつけた。

「関係性が変わんねーのに、結婚する意味ねーだろ!」
「え?」
「だいたい、俺がアイツを幸せにしてやれると思うか?思うわけねーよな!」
「ぎ、銀さん?」
「金もなきゃ甲斐性もねェ男の嫁ってどんな拷問だよ!」
「ご、拷問?ちょっと銀さん……酔いがだいぶまわったか?」

一気に顔の赤みが増した銀時の目は焦点が合っておらず、呂律も怪しい感じになってきていた。

「金がないなら仕事すればいい話だろ」
「うるせーババア!自由業なめんな!」

銀時はまたグイと酒を呷ると、テーブルに突っ伏す。
ふてくされた子供のように。
その様子を唖然と眺めていた長谷川は、ポリポリと頬をかいた。

「……もしかして、いきなり当たりだった?」
「そうみたいだね」

愉快そうにお登勢は笑った。
マジか……と長谷川も笑ってみるも、うまく笑えない。
本当に、ただ例えただけで意図があったわけではなかった。
不機嫌になったのは、本命の名前が出たからだったということか。
長谷川も銀時と同じように酒を呷ると、バンと丸くなっている背中を叩いた。

「興味ないふりして、本当はずっと好きだったわけ?」
「悪ィかよ……」
「悪くはないけどさ、何、遠慮してたの?お妙ちゃんに対して」
「遠慮じゃねェ。ハナからそんな気なかったんだよ」
「つまり遠慮だろ?お妙ちゃんのこと思って身を引くなんてな……銀さんらしいような……らしくないような……」
「どっちだよ」

銀時は面白くなさそうに呟く。
ふと、長谷川は脳内で万事屋三人と妙を並べてみた。
違和感などあるはずもなく、容易に想像できるその光景こそが銀時の幸せ。
何も壊す事もなく、今までの繋がりのままいられるのだ。
身近だから、例えた。
けれど、考えてみれば一番良い形におさまる。
妙と結ばれれば、銀時の欲しいものはそのままにより多く得られるのではないだろうか。
銀時からしたら、だが。

「……確かに、銀さんのこと思うとお妙ちゃんが一番いいと思うけど……。お妙ちゃんのこと思うと、銀さんじゃなぁ……とはなるな」
「だろ。自分で言ってて虚しくなるけど、実際そうだからな」
「そうだねェ。お妙にこんなろくでなし押し付けるのもねェ……。器量のいい娘だからこそ銀時を任せられるけど、だからこそお妙にはもっと相応しい男がいると思うのは当然さ」

う〜ん。長谷川とお登勢は揃って腕を組み唸る。
銀時を思えば妙を嫁に。
妙を思えばいいひとの所へ嫁いで欲しいと思う。
それに対して言いたいことがあるような顔をする銀時だが、その当然を理解しているため何も言わない。

「お妙ちゃんがどこかに嫁入りとかなったらさ、銀さんはそれでいいわけ?」
「いいだろ。あいつが心底相手に惚れてて嫁いでいくならな」
「……まあ、そうだけどさ……。もし、お妙ちゃんが銀さんのこと好きだったら?」
「ありえねーよ」
「もしだよ。今はそうじゃなくても、この先そうならないとは限らないだろ」
「…………そう、だったら……?」

考え込むような銀時の様子を、長谷川は前のめりに興奮気味で見つめる。

「そうだったら……」
「そうだったら……!?」
「めちゃくちゃ抱きしめて愛の言葉でも叫んでやるわ!!」
「おー!いいねいいね!」

わっと一気に盛り上がった。
お登勢が酒をなみなみと注いで二人の前に出せば、次には空になって返される。
やれやれ、とどこか嬉しげに口元を綻ばせたお登勢は、フッと店の入口に目を向けた。
そろそろ看板の拭き掃除を終えるころだろうかと。

「おいバーさん!酒早くよこせ!」
「ったく……ちゃんと金は払いなよ」
「ツケだツケ!」
「おいおい銀さん、そんなんじゃお妙ちゃんに好きになってもらえないぞ!」
「アイツは俺のことこういうヤツって理解してるだろ!その上で好きになってくれるってなら、それ以上に愛してやるっつーの!」
「ハハハ!お妙ちゃんに聞かせてあげたいもんだ」

豪快な笑い声が店内に響き渡る。
それは店の外まで聞こえるほどで。

「……用があったのではないのですか?このままでは銀時様、酔いつぶれてしまいますよ」

店の看板を拭き終え、雑巾を軽くたたみながらたまが言った。
出入口の前で突っ立ったままの妙。

「お妙様?」
「…………」
「お妙様」
「え……!?な、何ですかたまさん」
「銀時様に用が――」
「へっ!?な、なななな何もありません!!違います!!違うの!!」
「はあ……」
「あ……か、帰ります!!」

茹で蛸のように顔を真っ赤にさせた妙は、全速力で行ってしまった。
見送ったたまは不思議そうに首を傾げる。

「たま、お疲れ」
「あ、お登勢様。今お妙様が……」
「ああ、ほっときな」
「はあ……」

たまは頷く。
お登勢は滲み出る嬉しさを隠すように、煙草に火をつけた。

「お妙の婿は俺以上じゃねーと認めねェ!!」
「んなのゴロっと山ほどいるっつーの!!」

銀時と長谷川の笑い声は、スナックお登勢が開店したあともしばらく響き渡っていた。


end


お妙さんが好きだと酔いに任せて言ってしまう銀さんと、偶然聞いてたお妙さん。
銀妙二次創作ではわりと定番ネタのスナックお登勢でのやりとりですね。
うん。これね、銀さんにわたわたと慌てふためくお妙さんが書きたくて、それ書くための前の段階書いてたらそっちが本編になってた(笑)
最近そんなんばっかだ……!
という事で、わたわたするお妙さん篇書きたいと思います!
お粗末さまでした!

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