少し前に、私がマネージャーを務める帝国学園サッカー部の佐久間と源田がいなくなった。世の中はちょうどエイリア学園が来たとかで混乱していて、学校が休みだということを利用して散々二人を探したけれど、結局見つかることはなかった。なのに、しばらく経つと学校から、いなくなった二人が見つかって今は入院しているということを聞いた。そこからは、頭がこんがらがってしまうような話ばかりでよく覚えていない。少しだけわかったことは、死んだと思っていた総帥が実は生きていて、佐久間と源田にサッカーが二度と出来なくなってしまうかもしれないほど危険なことをさせたってこと。特に佐久間は、まだ歩けないくらいに重傷のようだった。

「……私、馬鹿だなあ。」

お見舞いなんて行ったことないから、何を買っていいかわからなくて、とりあえず部活帰りに佐久間と源田と私と三人で食べたことのあるカップラーメンを買ってみた。スープが真っ赤な辛いやつ。それから温泉卵も。私がなんとなく買って乗せてみたら、おいしかったから。二人にも教えてあげたいし。
ビニール袋片手に病室の前まで来た私だったけれど、入ったら何て言ったらいいのかわからなくて、どんな顔をしたらいいのかわからなくなってしまって。病室の外のベンチに何時間も座っていた。そのうち外も暗くなってきて、面会時間も終わりそうになってきたから、とりあえず病室に入ることにした。カーテンは閉まっていたけれど、奥のベッドにいることは知っていたから、ゆっくりとカーテンを開けてみる。そのベッドに寝ていたのは、佐久間だった。彼は私の姿を見て少しびっくりしていたけれど、それ以上に動揺してしまっていた私に気がついたのか、座れよと傍の椅子を指さす。

「源田は今日、検査で別の病室にいるんだ。わざわざ来てくれてありがとな。」
「…わざわざなんかじゃないよ。当たり前でしょ?チームメイトだし……友達、なんだから。」

私の言葉に佐久間は少し驚いていたようだったけれど、それ以上何も言わなかった。そして私も、次の言葉が見当たらなかった。白いベッドに横たわる佐久間は、私の想像以上にボロボロになってだったのだ。佐久間はこんなに追い詰められていたのに、隣にいた私はなんで、こんな佐久間に気がつかなかったんだろう。でもやっぱり私は馬鹿だから、それでも何を言っていいのかわからなくて、買って来たカップラーメンをベッドのテーブルの上へと置いた。

「これ…帰り道に食べてたやつか?」
「そ、そう!ご飯はもう食べて平気でしょ!?」
「あ、ああ…」
「じゃあお湯入れてくるから!!」

ぽかんとしている佐久間に対して、私はただ勢いでカップラーメンに持ってきていたお湯を入れて、温泉卵も入れて、割り箸で蓋をして、携帯のタイマーをセットした。三分間。やっぱりどちらも喋らなかった。今までだったら、佐久間と一緒にいる時にこんなに気まずくなることなんてなかったのに。佐久間は真面目そうに見えて結構ノリが良くって、けど気づかいができて。困った時には助けてくれる。すごくいい奴。気の合う友達。
二人で黙っている間に、三分経ったことを知らせるアラームが鳴る。二人分の割り箸を割って、カップラーメンの蓋を取ると、私達の前を白いもくもくとした煙が覆った。そして、辛い物特有のツンとした匂いが漂ってくる。

「…おいしそうでしょ?病院じゃこんなん出ないだろうし。」
「…ああ。毎日粥ばっかり。最近の食事の楽しみは、デザートの果物くらい。この間、源田が俺の分のみかんを勝手に食った時は、丸一日口きかなかった。」
「二人して病室で何してんの…まあ、そりゃこんなとこにずっといたら気が滅入りそうだけどさ。」

少しずつ、いつもみたいに話せてきたら、さっきまで何を言おうか悩んでいた自分が馬鹿らしくなってきた。そうしているうちに佐久間がカップラーメンを食べ始めている。私も食べよう。
カップを混ぜる度にツンとする食欲をそそる匂いが漂う。辛いスープと、ちょっと甘い温泉卵を合わせると、最高に美味しい。

「やっぱうまいな、このカップラーメン。それにこの温泉卵。あー白米食いたくなってきた。持ってきてないのか?」
「えーさすがに米まではないよ。そんなに食欲あると思ってなかったしさー」
「これ食ったら食欲出てきたんだよ。源田、タイミング悪くて残念だったな。」
「あはは、この間のみかんのバチが当たったんじゃないの?」
「かもな。」

佐久間が白米とか言うから、私までご飯が食べたくなってきた。辛いスープに甘みのある白米を絡めたら、それはもう悪魔のスープだ。そのくらい美味しいんだ。真っ白なご飯を想像しながら、今日のところはそのままスープを飲み干していると、一足先に食べ終えていた佐久間が言葉を続けた。

「明日さ。」
「ん、なにー?」
「明日には源田も戻って来てるから。明日また来てくれよ。三人分のカップ麺と、白米持ってさ。」

いつかの部活の帰り道みたいに、佐久間が笑う。そんな佐久間の言葉に迷うことなく頷いた私は、早速新たな辛いカップラーメンをスマートフォンでリサーチし始める。それを佐久間が横目で覗き込んで、ああでもないこうでもないと言葉を交わす。そうだ。私達はこうでなくちゃ。
今日の間食は、とろとろの温泉卵を乗せた、食欲をそそる辛いカップラーメン。次こそは辛いスープと白いご飯を絡めて、いただきます。


あなたの檻に触れる

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