泡になっても愛してる


あれはきっと偶然ではなくて、きっと運命だったのだと信じたい。
あの日、木の葉の里の外れにある湖でこっそり歌を歌っていた私に声をかけてきたのが、あの頃はまだたくさんの家族に囲まれながら過ごしていた幼いサスケだった。サスケは私の歌を聞くなり、今では考えられないほどきらきらと目を輝かせながら言ってくれたのだ。''きれいな歌声''だと。
私達の一族は血継限界によって言霊を操る一族だ。だからこそ、話すことはもちろん、大好きな歌を歌うことさえ人前では気をつかう。けれどサスケは、私の歌をなんの戸惑いもなくきれいだと言ってくれたのだ。私はただそれが嬉しくて、たまらなかった。あの時に見たサスケの笑みを、私は今でも覚えてる。あの笑みが始まりとなって、その後の出来事がどんなに悲惨なものだったとしても…私はたくさんの大切な気持ちを知ることができたから。
大嫌いだった筈の世界が、サスケから始まって、第七班に所属されて、たくさんの人に出会って……とても大切で大好きになった。誰かに名前を呼んでもらえて、必要とされて、涙を流してもらえることがこんなにも愛おしいものだなんて知らなかった。

「……あんなにちいさかった私のことを、見つけてくれてありがとう。」

月の光が揺らめく湖の傍で。誰にも知られることなく、一人涙を流す誰より愛おしいひと…サスケに、私は手を伸ばす。けれどその手は彼には決して届くことなく揺らいでいった。静寂だけが残る夜に響くのは、あの時私が紡いだ声。あの時願ったのは私なのに、後悔は決してしていない筈なのに。あの時の自分の声を聞くと、何故か胸がざわつく。
こうして、大切なひと達が生きる世界から切り離されるまで気がつかなかった。私が消えても、誰かに名前を呼んでもらえて、必要とされて、涙を流してもらえることがこんなにも…切ないものだなんて。知らなかった。

あなたが深い闇の中でも
迷わないように
わたしが光を灯すから
だからどうか

あなたの傍に

そしてどうか
わたしの名前を呼んで欲しい


私が紡いだ音は、透明な風となって愛しいひとの背を通り過ぎていく。もし、この歌が歌い手である私の願いも叶えてくれるというのなら。私にほんの少しの希望を見せて欲しい。自分勝手な我が儘だってわかっているから。今は届かなくてもいい。でもどうか、次にまた歌を歌う時が来たのなら。

「私も……大切なひとの傍にいたい。」


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