「わたしがたべちゃうよ?」


わたしの幼なじみの一人であるまなかはちっちゃくてぴょこぴょこしてて、けれどひたすら真っ直ぐで。笑った顔はお日さまみたいで。とてもとても可愛い子だ。わたしなんかが隣にいるのは勿体無いくらい。

「なまえ、なまえ〜!!」
「わ、なあにまなか。」

休日、家の自室でのんびり本を読んでいたわたしに大きな声で呼びかけたのは、幼なじみのまなかだった。わたしの名前を呼んだと思ったら急に窓に張り付いてきたので、わたしは少しぎょっとしながら窓を開ける。そんなわたしを見て、びっくりした?なんてくすくすと笑うまなかだけれど、その笑顔はいつもどおり可愛くて憎めない。

「まなか、わたしに何か急ぎの用事?」
「あ、そうだった!なまえちゃん、これからピクニックに行こう!」

わたしの問いかけにこれまたにこにこしながら、持っていた可愛らしいバスケットをわたしに見せてきたまなか。ピクニック?と首を傾げるわたしにかまわず、うん!行こ!!と本を読んでいたわたしの手を引くまなかに、わたしは反論する間もなく連れて行かれてしまった。

***

「みてみて、なまえちゃん!この場所綺麗でしょ?ピンクの珊瑚がいっぱいで!あ、あとね、なまえちゃんが好きな甘い玉子焼き、いっぱい作ってきたんだよ!」

わたしを外に連れ出すなりバスケットからお弁当を広げて、くるくると表情を変えるまなか。彼女の口からどんどん出てくる言葉にわたしはちょっとぴり着いていけなくなりそうだけれど、一つだけはっきりしているのはやっぱりまなかは憎めないということ。だってどんなに強引なことをされても、わたしに向けられるまなかの眩しい笑顔を見たら全部許してしまうんだもの。

「ほらなまえ、遠慮しないで食べて食べて!」
「ふふっ、うん。わかったわかった。」

にこにこと楽しそうに箸で掴んだ玉子焼きを向けてくるまなか。わたしはそれに笑みをこぼしながら頷く。それと同時に、わたしの口の中に甘い玉子焼きの味が広がった。とけそうなくらいやわらかくて、甘くて…なんだかまなかみたい。

「ど、どう?美味しい…?」
「うん、すっごく美味しいよ。」
「本当に!?よかった…!」

わたしが心の中で玉子焼きと重ねていることなんて知らないまなかは、もっと食べて!と、さらにわたしに玉子焼きを差し出す。一つ、また一つ。甘い甘い玉子焼きなのに、それはどんなに食べてもあきなかった。ちょっと、不思議。差し出された玉子焼きをぱくぱくと食べているわたしを見て、まなかは相変わらずにこにこと笑っている。まなかの隣に置かれているバスケットには玉子焼きの他にも美味しそうなものが入っているのに、まなかはわたしを見てばかりで一向に手を付けない。自分ばかり見られていることがなんだか恥ずかしくなったわたしは、ちょっぴり彼女から顔を背けながら、食べないの?と問いかけた。

「だって私が作ったものを食べてるなまえちゃん、すっごく可愛いんだもん。」
「か、可愛い…?わたしが?」
「うん…あ。」

わたしの問いかけにこくりと頷いたまなかだったけれど、突然何かに気がついたように、更にわたしの顔をじっと見つめてきた。わたしがそれにどうしたのと尋ねる前に、頬に感じたやわらかい感触。ぺろり。やわらかくて、可愛らしい感触でわたしの頬を滑ったのは、まなかの小さな舌だった。わたしとまなか。限りなく近い距離に、わたしの胸はとくんと鳴る。けれどまなかはそんなわたしを気にもせずに、わたしの耳元で小さく囁いた。

「えへへ、付いてたから食べちゃった。」
「ま、まなか…!」
「なまえちゃん、真っ赤だよ?可愛い。」

まなかの言うとおり真っ赤になって固まるわたし。そんなわたしに対して、まなかはにこにこと笑みを浮かべる余裕まであるようで、笑みを浮かべながら更にわたしにぎゅうっと抱きついてきた。鼻をくすぐる甘いにおい。身体に感じるやわらかい感触…とっても甘くてちょっぴり意地悪な、女の子の感触。あっという間に見たことないような姿に変わってしまった彼女。わたしは何も変わっていない自分が恥ずかしくて、必死にわけのわからない話を続けた。

「ま、まなかは、なんで今日わたしに玉子焼きを作ってきてくれたの…?光だって、ちさき達だってよかったのに。」

わたしの頭に浮かぶのは、三人の幼なじみ達の姿。今は少し減ってしまったけれど、昔は出かける時も、どんな時も五人一緒だった。だから、今日のピクニックだってわたし達二人ではなくてもよかったのだ。わたしの言葉にまなかはというと少しむっとした表情を見せた。彼女はぎゅうっとくっついていた身体を離すと、なまえちゃんといつもより低い声でわたしの名前を呼ぶ。わたしがそれになあにと答えようとすると、わたしの唇をまたやわらかい感触がなでた。それがまなかのピンク色の唇だと気がつく前に、彼女が言葉を続ける。

「だって、私が二人きりでいたいのはひぃくんでもちぃちゃんでも要でもなくて、なまえなんだもん。」

少し前までわたしの唇をかすめていたまなかの唇は、あっという間にわたしの耳元にうつった。わたしの耳朶に唇をくっつけながら言葉を続けるまなかに、わたしはどきどきと胸を鳴らしながら目をぎゅうっとつむって、まなかの服の裾を掴む。まなか、頼りない声で彼女の名前を呼ぶと、返事の代わりに聞こえてきたのは鈴の音のような笑い声。

「なまえちゃん可愛い。そんなに可愛いと、私がたべちゃうよ?」

まなかの手がわたしの背を滑った。でも、やっぱりわたしの傍にいてくれるまなかを憎めないのは、彼女の方がずっとずっとかわいいせいだ。

徒花ならばつぼみのままで

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