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■12 毛ぶらっし

「うわ、兄さんの尻尾のココ、すんごい毛玉できてるんだけど」

「あ?毛玉?知らん知らん」

「ダメだよ、ほら、フェレス卿からもコレ頂いたから」

「…雪男…なんだそれ…」

 雪男が手に持っているのはどこからどう見てもブラシ。

 しかも、犬猫用のブラッシングブラシだった。

「地肌に優しい、毛先が丸いやつだよ。使いやすいMサイズ」

「…ちきしょうヒトをペット扱いかあのオタク道化野郎」

「クロにも丁度いいかな、このブラシ」

「しかもクロと共用かよ!!」

 チラ、と雪男がクロを見ると、黒い猫又は明らかに嫌そうな顔をした。

 燐がブラシを受け取らぬまま部屋を出ようとするので、雪男は彼の腕をグイと引っ張り、無理やり椅子に座らせる。

「はい、梳いて。ちゃんと毛玉取って」

「めんどくさ…髪ならともかく尻尾なんか気ィ回んねえし…」

「じゃあ僕がやるから。動物の尻尾の毛ってすごく細かいんだよ。気をつけないと毛玉と埃塗れになっちゃうよ。こんなのモップを引きずって歩いてるのと同じ。兄さんいつもこんなの体に巻いてるの。汚いよ」

 ダラッと腰掛けている燐の尻尾の先のほうを掴み、ブラシで梳く。しかし雪男の手つきはいささか乱暴だった。

「…ぎああああ!気持ちわりー!!」

 急に燐が騒ぎ出したので、雪男は眉をひそめる。

 燐の首筋には鳥肌が立っていた。

「やめろっ、背筋がぴりぴりする!さわんな!へたくそっ!!」

「…面倒だな、ブラッシング嫌いなほうの犬か…あ、犬じゃない悪魔か」

「おい、今わざと“犬”っつったろメガネ」

「仕方ないからハサミで毛玉だけ切ろう」

「無視すんなメガネ」

 引き出しからハサミを取り出し、毛玉のついた燐の尻尾の毛先を躊躇い無く切ろうとする雪男の手を、燐は顔を青くしながら止めた。

「…おい、“身”まで切る気じゃねえだろうな」

「は?なに、身、って。ブラシが嫌なら切っちゃえばいいんだろ」

「いい、自分で切る!何でそういうトコは雑なんだよ、ふざけんな雪男のバカッ」

 尻尾の中の肉まで切られてはたまらないので、燐は雪男からハサミをひったくるようにして受け取り、しょうがなく自分で毛玉を切り取った。

 その後はクロと一緒に尻尾のブラッシングをこまめにしている…か、どうかは定かではない。

<飼い犬の毛玉を切るとき肉まで切らないかいつも不安、終わり>


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