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■13 睫毛が眼に入る

「いだっ」

「どうした雪男」

「…何か左の目に入った…まつげかな…」

「取ってやるよ」

 雪男が返事をする前に燐は彼の襟を掴んでグイと引き寄せ、彼のメガネを頭に上げて指で左目を開かせると、スッ、と撫でるようにして、雪男の左の白目に張り付いていた細く短い睫毛を指先で取り除いた。

「ほい、取れたぞ」

「…ありがとう…?」

「なんだよ、その微妙な顔」

「いや、…ホントに手先、器用だな、って。一瞬目を潰されるかと思ったけど全然痛くなかった…すごいね兄さん」

「俺を何だと思ってんだこのメガネ」

 悪態をつきながらも燐は雪男の頭の上に上げた彼のメガネを元に戻した。



「…っだぁ…」

「どうしたの、兄さん」

「右目に何か入った、いた、いって、何だ、睫毛かな」

「じゃあ今度は僕が取ってあげるよ」

「…えっ?」

 雪男は燐の顔を無理やり掴み、彼の右目をこじ開ける。

 白目と黒目の境あたりに張り付いている一本の睫毛を取ろうと指先を伸ばしたが、睫毛は眼球の上を移動するだけで、どうやっても取れない。

「…あれ?取れないな…」

「いだい!!いでで!痛って、痛ぇえ!やめろ雪男!」

 仕方ないのでティッシュを一枚取り、先をこよりにして再度取ろうとしてみる。

「ぐあああ!!目が!やめろ、目が乾く!いたっ、ティッシュ痛ぇ!」

「動かないで…もうちょっと…あれっ、くそ、この…睫毛のくせに…」

「ああああ!もうやめろ!自分で取ったほうが早い!」

「ちょっと黙って。…もうすぐ…あっ、しまった、下のまぶたと白目の隙間に横向きになった…」

「そこまで来たらもう涙で取れる!やめろ、雪男ホント頼むマジで!」

「…………」

 騒ぐ燐を押さえつけながら、雪男は息を止めて、細くしたティッシュの先で睫毛を掬い上げた。

「…やった、取れた!兄さん、ほら、取れたよ」

「………」

 しかし燐は雪男の腕を振り払い、目を閉じて手のひらで目元を押さえ、上半身を屈めた。

「兄さん?」

「雪男のバカ。乱暴メガネ」

 …相当痛かったらしい。


<終>


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