前以て用意していたらしい、注射器を取り出し、アルエの腕へ針を宛がう。

「…自白剤ですか?」
「似たようなものさ」


『無駄なことを…』


何をしても吐かないと宣言した上で、このような無駄なことを行うアレクセイが滑稽で仕方なかった。
此処で笑い飛ばしたらどうなるだろうか?

アルエは他人事のような表情で自分に打たれる注射液を眺めていた。

「こんなもので私が情報を漏らすとでも?」
「一種の賭けさ」

にこり、と聴衆に見せるような笑顔を向ける。

「先にお前が堕ちるか、それともその前に此方が根をあげるか、のな」

その後ろでシュヴァーンが妖しげな笑みを浮かべたのを確認したとき、‘それ’は起きた。



――な、に…?



全身から汗が噴き出す。
動悸が激しい。
火傷しそうなくらい、熱い。

ギリギリと奥歯を軋ませながら、目の前に立つ二人の男を睨む。

「自白剤ではないのか…」

いつもの冷静さを欠くほどの効果だ。
只の薬ではないことくらいは解る。

「似たような物だと言っただろう?少しきつい発熱剤だよ。…媚薬効果付きのね」

事も無げに言うアレクセイを殴り付けたいと思った。
ふらりとよろけながら立ち上がるが、立った所で力が入るはずもなく、アレクセイの肩を掴むところに留まった。



「始めようか」



自白剤

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