「えっと、まずは何と言っても… 可愛い笑顔、ですよね」
「…まぁ、一つ目としては妥当だな」
「それから、なんでも美味しそうに食べるところ…」
「それも当然の答えだな。 …口いっぱいに頬張って本当に美味しそうに食べるんだよなぁ」
「ふふっ、ご飯を食べる時のなまえちゃん。 本当に可愛いですよね」
「…ふんっ! 当たり前だ。 俺なんて昔からずっと隣で見てきたんだからな。 …まだ二つ目だが、まさかもう終わりなんてことないよな?」
「とんでもない! まだまだ沢山ありますよ。 …何かを尋ねるときに首をこてんと傾げるところ、怖いものが苦手ですぐに涙目になるところ、それから… 美味しそうなものを見るとキラキラ瞳を輝かせるところ、あとは…」
「ちょっ、ストップストップっ、止めてーーっ!!!」
「どうした、なまえ!?」
「どうしたのなまえちゃん!?」
突然、大声でストップをかけるなまえちゃん。 そのあまりに焦った声色に、お兄さんと私はバッと彼女へ視線を向ける。 すると、顔を真っ赤にしたなまえちゃんがこちらを恨めしそうに見つめていて… 私たちは思わず、何事かと彼女に問いかけてしまった。
「っ、どうしたのじゃないよ…っ!! よく考えたらこれ… 拷問じゃない!? 私はどんな顔して聞いていればいいの!? めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど…っ!!!」
「ご、ごめんね、なまえちゃん… 恥ずかしいと思うけど、その、我慢してもらえると…」
「じ、地獄ですか…っ!! もう無理です…っ! 私、別室に移動しますから…!」
「何を言ってるんだ、なまえ!! お前たちの婚約の話なんだ。 お前がこの場にいなければ、意味がないだろう!?」
「たっ、確かに、そうだけど…!!こんな時だけ正論言わないでよぉ…ッ!」
ここぞとばかりに、ド正論を繰り出すお兄さんに私は思わず苦笑い。 なまえちゃんも、これ以上お兄さんの言葉に返す言葉が思い浮かばないのか、困ったように眉を下げている。 しかし、少し離れたところで私たちを見守っていた魔王様たちを視界に入れると、ハッと何かを思いついたように口を開き始めた。
「ほ、ほらっ! タソガレくんたちもいることだし…っ! これ以上は、身内だけで… ねっ!?」
「あっ、いや、我輩たちのことはお気になさらず…! な、なぁ、皆…!?」
「お、おう…! オレたちのことは気にすんな! なまえ!」
「諦めなさい、なまえ… 皆さん、この戦いの行方が気になって仕方ないんですのよ」
「そ、そんなぁ…っ!」
味方がいないと察知したのか、半泣き状態のなまえちゃんには申し訳ないが、正直なところ… この状況を楽しんでしまっている自分がいるのも事実だった。 …これも私たちふたりのためなのだ。 少しの間、我慢してもらうしかない…!! そんな言い訳を心の中で呟く。
「…よし、そうと決まれば次だ次!! まだ5個しか言えてねぇぞ?」
「そ、それじゃあ… どんどん進めていきますね? …仕事中に目が合うと、嬉しそうに笑ってくれるところ、」
「っ、!」
「ご飯を食べ過ぎたかもって心配するけど結局デザートも食べちゃうところ、」
「ッ〜〜っ!」
「私が作ったココアを一生懸命フーフーするところ、」
「っ、や、やっぱり、私…っ ここにいるの無理ですーーーーーッ!!!!」
「なまえちゃん…っ!?!?」
「あっ! こらっ! 待つんだ、なまえ!! …おいっ! あくましゅうどうし! そっちに回れっ!!」
「は、はい…っ!」
「さっきまでの険悪なムードはどこにいったのよぉーッ!?!?」
叫びながら逃げ回るなまえちゃんを、お兄さんと私で挟み込むようにして追い詰める。 私たちの息の合った動きにより、両サイドを取られたなまえちゃんは為す術もなく…
「…いい加減、諦めるんだ。なまえ!!」
「ごめんね、なまえちゃん…っ! これも私たちの婚約のためだと思って…」
「っ、〜〜!!!」
何かを言いたそうな表情を浮かべながらも、観念したのかがっくりと項垂れるなまえちゃん。 お兄さんはそんな彼女の肩をポンっと優しく叩き、椅子へ座るよう促している。 恨めしそうにお兄さんと私を交互に見つめるなまえちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、これはやむを得ないんだ… ごめんね、なまえちゃん…っ!! 私は心の中で、彼女に謝罪したのだった。
「あとは… でびあくまを見ると触りたくてうずうずしちゃうところ、なんてどうですか!?」
「おお! なまえは可愛いものが大好きだからなぁ!」
「そうなんですよね…! でびあくまとナスアザラシを一緒に抱き上げてる写真なんて、もう…! 可愛いの極みですよ…!」
「なにっ!? そんな写真があるのか…っ!?」
「はいっ!! あっ、良かったら焼き増ししますよ!」
「ほ、本当か!?」
「もちろんです!!」
「くぅ〜ッ!! あくましゅうどうし、お前…っ イイ奴だなぁ…っ!! よしっ! それなら俺は… 今度、なまえの小さいころの写真を見せてやろう!!」
「えっ!? 本当ですか…っ!?」
「もちろんだ、義弟よ…!!」
「っ、あ、ありがとうございます!! お義兄さん!!」
ガシッと肩を組み、わははは!と笑い合うレオ君とお兄ちゃん。 そんなふたりを見つめながら、私は思う。
「…えっ? 何この状況…ッ!?!?」
「……すっかり意気投合しているな」
「…気づいてます? 呼び方も『お義兄さん』 と 『義弟』 になってますわよ…」
「マジで軽くホラーなんだが…」
「まさに "同類" って感じよねぇ…」
あまりに急激に仲良くなったふたりに、皆も相当困惑しているのが伝わってくる。 普段から飛び抜けて明るいはずのシザーさんまでもが戸惑っているのが見て分かり、何だかとても申し訳なくなってきた。
「ほ、本当に…っ! 私の愚兄がご迷惑を…!!」
「あー… いや… なまえは、何も悪くないだろう?」
「そうだよな… むしろ、一番の被害者じゃねぇ…?」
「あ、あはは… 否定は出来ない、かも」
憐れむような視線を向けてくれるポセイドンくんに、私は苦笑いを返すことしか出来なかった。 私の恥ずかしい癖や特徴を延々と語り合うふたりを見て、何度この場から逃れようとしたことか…!! 私が少しでも席を立とうとしようものなら、すぐにふたりのどちらかが、私を止めようと背後に飛んでくる。 そんな状態が続き、さすがの私も逃亡は諦めた。 レオ君とお兄ちゃんの語り合いは止まることを知らず… 気がつけば何故か意気投合。 仲良しこよしの義兄弟となっていて。 …まぁ、仲が良くなったのは良いことなんだけども…! 私の心的被害が、かなりのものとなったのは間違いない…
「なまえ! おまえ… 良い男を捕まえたなぁ!」
「その言葉、少し前のお兄ちゃんに聞かせてやりたいよ…」
「ご、ごめんね、なまえちゃん…! なまえちゃんのことを話してると、つい楽しくなっちゃって…」
「っ、もう! そんな風に言われたら… 怒るに怒れないじゃないですか…っ!」
申し訳なさそうに眉を下げるレオ君を見ていると、私の心的被害なんて、些細なことに思えてくるから不思議だ。 …それに、実を言うと。 レオ君がこんなにも私のことを熱く語ってくれたことが、少し。 いや… かなり、すっごく。 嬉しかったり…
「さぁ、次で最後だぞ! あくましゅうどうし!」
「えっ!? まだ終わってなかったの…!?」
「これで最後か… ふふ、あっという間だったなぁ」
「だよなぁ…」
「っ、…そう思ってるの、レオ君とお兄ちゃんだけだよ」
心底楽しそうに目を細めるふたりに、何だか少しむず痒くなってくる。 照れ隠しにぼそっと呟いた私に気づいたレオ君は、とっても優しい笑顔をこちらに向けてくれて…
「なまえちゃん、」
「っ、」
とても穏やかに、愛おしそうに。 私の名前を呼ぶレオ君。 そんな彼に私の胸は、性懲りも無く… キュンッと音を立てる。
「好きだよ」
「っ、なっ、!」
更に追い討ちをかけるかのように囁かれる 『好き』 という言葉。 そのあまりにも甘い声と表情に、私の顔はみるみるうちに熱を持ち始める。
「ふふっ、その照れた顔が… すごく可愛いんだよ?」
「っ、〜〜!!!」
そしてトドメの、この一言。 …もう、こんなのずるい!! ズルすぎる…っ! こんなに甘い言葉を、大好きな人に言われて… 喜ばない女なんているわけないのに!! そう心の中で悪態をつきながら、私は熱くなった頬を隠すように両手で覆う。 …絶対、真っ赤になってるっ! 恥ずかしい…っ!
「…確かに、可愛い。 とんでもなく可愛いが…っ!!! くそ…っ! 兄である俺では、そんな表情をさせることが出来ないじゃないか…っ!!」
「いや、そこ張り合うとこじゃねぇからっ!!」
的外れなことを言うお兄ちゃんにポセイドンくんの的確なツッコミが入ったところで、恥ずかしすぎるこのお遊びは無事終了を迎えた。 何もしてないはずの私が疲労困憊なのに対して、レオ君とお兄ちゃんは清々しい笑顔でお互いを称え合っている。 最初はどうなることかと思ったけど… ふたりが仲良くなってくれたので結果オーライ… ということにしておこう…!
「…あくましゅうどうし、いや、レオさん」
「は、はい…!」
「なまえを… 妹を、よろしくお願いします」
「お兄ちゃん…」
突然、ピシッと頭を下げてお願いするお兄ちゃん。 その姿に、思わず涙がじわりと滲んでしまう。 過保護で、心配性で、ふざけたことばかり言う兄だけど、私のことを誰よりも大切に想ってくれていることが伝わってきて… 本当に。 昔から憎めないんだよなぁ、お兄ちゃんのこと。
「これだけなまえのことを大事にしてくれる男なら、安心して任せられる。 …俺のワガママに付き合ってくれて、ありがとな」
「お義兄さん…っ! ありがとう、ございます…っ!」
『必ず、なまえちゃんを… 幸せにします!!』 そう言って私の肩をギュッと抱いてくれるレオ君。 そんな彼の言葉が嬉しくて… また少し、涙がじんわりと滲んできたけど、溢れないようにグッと堪えた。
「それから、魔王と十傑の皆も。 迷惑をかけてすまなかった」
「えっ!? あ、いや… 我輩たちのことは、その、気にしなくても…」
「妹のことになるといつも暴走しちまってな。 申し訳ない… それから、なまえ」
「っ、?」
「今日は突然悪かったな。 すまん」
「…ふふっ、もういいよ。 皆も許してくれるみたいだし、私の方こそ… キツい言い方しちゃってごめんね…?」
「っ、〜!!! なまえーーッ!!!!」
「きゃあっ!?」
いつになく真剣な態度のお兄ちゃんのしんみりとした雰囲気に、私もきちんと返事をしなければと、自分の想いを伝える。 けれど… お兄ちゃんは突然ガバッと私に抱きついてきて、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃんっ! 恥ずかしいから…! 離れて…っ」
「ううううっ、そんな寂しいこと言うなよぉ…っ! くそぉ…っ、やっぱり、なまえを嫁になんて…っ」
「っ、お、お義兄さんっ!?!?」
またもや勝手なことを言い始めるお兄ちゃんに、素早くレオ君が反応する。 レオ君のあまりの慌てっぷりが可笑しかったのか 『冗談だよ! 冗談!』 なんて豪快に笑うお兄ちゃんだけど… 何だかその声には、少し寂しさを含んでるような気がしてしまって。
「( お兄ちゃん、ありがと… )」
レオ君と笑い合うお兄ちゃんを見つめながら、思わず私は、そっと心の中で呟いたのだった。