リベンジ・パジャマパーティー!


「スヤァ…」
「ふふっ… 姫、お腹いっぱいになって眠っちゃいましたね」
「また姫と、恋バナ出来ませんでしたぁ…」
「もう姫との恋バナは、諦めた方が良いんじゃないかしら…」

ソファに座る私の膝を枕にして、気持ちよさそうに眠る姫。 サラサラと綺麗な銀髪がとっても気持ちよくて、つい何度も撫でてしまう私を羨ましそうに見つめるハーピィちゃん。 その隣には、呆れつつも優しい眼差しを姫に向けるアルラウネさん。
今日は、いつかのリベンジ!ということで、私の部屋でパジャマパーティーを開催している。 ソファの前のテーブルに広がるのは、クッキー・ドーナツ・チョコレート… 沢山の甘い誘惑に負けて、皆でお菓子を食べながらお話をしていたのだけど、お腹いっぱいになった姫は毎度のことながら、早々に眠ってしまったのだった。

「…さて。 姫も寝た事ですし。 なまえ?」
「? どうしたんですか?アルラウネさん」

姫の可愛い寝顔を見つめていた私を呼ぶアルラウネさんの声に、パッと顔をあげる。 視界に入ったアルラウネさんの表情は、何だかとっても怪しい笑顔。 …これはとてつもなく、嫌な予感がする…!!

「あくましゅうどうしさんとは、どこまでいってますの?」
「っ、!」
「ふぇっッ!?」

私の予感は大当たり。 何故か私よりも驚き照れているハーピィちゃんは、とりあえず置いておいて… どうにかこの質問から逃れられる術はないかと頭の中で模索するが、中々良い案は浮かばず…

「ちなみにそれは、デートをどこまで行った、とか、そういう類いの話って可能性は… 」
ゼロですわね。 そんなことを素面しらふで言ってのける天然記念物がいるなら連れてらっしゃい。 わたくしがその女の正体を暴いてやりますわ」

バッサリ。 私の一縷の望みは、一瞬で断ち切られた。 目の前には、ニッコリと笑うアルラウネさん。 とっても美しい笑顔だが、後ろには黒いオーラが渦巻いている。

「あ、あはは… そうですよね…!」
「…なまえさん、ごめんなさいっ! 私も、なまえさんとあくましゅうどうし様のこと、気になります…!」
「は、ハーピィちゃんまで…?」

顔を少し赤らめながらも、興味津々とばかりに瞳をキラキラさせるハーピィちゃん。 その隣には、いまだにニッコリと笑顔を浮かべるアルラウネさん。 …こ、これは、逃れることなんて、不可能なんじゃ…?

「さぁ。 洗いざらい、話してもらいますわよ?」
「わ、わかりました… もうここまで来れば、ドンと来いです…っ! なんでも聞いちゃってください…っ!」
「なまえさんっ、かっこいいです…!!」

ハーピィちゃんは、はわわと私に尊敬の眼差しを向けていて、何だか少しこそばゆい。 こんなところで尊敬されてもなぁ… なんて思いながら、私はふたりからの質問攻めに立ち向かうべく、よし、と心の中で気合を入れた。




「前回のパジャマパーティーの時は確か…」
「なまえさんとあくましゅうどうし様が、お互いの呼び方のことですれ違っていた… って話をしてましたよね?」
「そっか…! そういえば、その頃だったね。 前にパーティーをしたのって」

ハーピィちゃんの言葉に、懐かしさが込み上げてくる。 今では当たり前のようにお互いを名前で呼んでいるレオ君と私だけど、あの頃は名前を呼ぶだけでも顔を真っ赤にしながら、ドキドキして…

「( ふふっ、今では考えられないなぁ )」
「あの頃は、キスもまだだったでしょう?」
「っッ!?」
「きっ、きき、キス…っ!!」

つ、ついに、始まった…!と、アルラウネさんからの鋭い指摘に、私は思わず身構える。
一方、ハーピィちゃんは、というと… キスという言葉に照れたのか、あわあわと真っ赤になっている。 初々しくて可愛いなあ、もう…っ!

「アルラウネさんの言う通り、あの時、キスはまだでした…」
「わたくしの予想では、初めてのキスは新年会の日だと睨んでいるのですけど…」
「っ!? ど、どうして、知って!?」
「うふふ。 当たりですわね?」

まさかのピンポイントである。 一寸の狂いも無く言い当てるアルラウネさんに、私は驚きを隠せない。 私の反応に『ふふふ』と笑みを浮かべる姿が、何だか神々しく見えてきた。 あなたが神ですか…!アルラウネさん…!

「新年会の時、あなた酔っ払っていたでしょう? …随分と彼に甘えていたみたいだから、恋に臆病なあくましゅうどうしさんも、ついに我慢できなかったんじゃないかと思っていたのだけど…」
「うぅっ…! あ、あの時のことは、忘れてください…ッ!」
「あの時のなまえさん『恋する乙女』って感じで、本当に可愛かったですよね!」
「はっ、ハーピィちゃんまで、見てたの!?」
「…むしろ見られていない方がおかしいですわ。 あんなに白昼堂々とイチャコラしていたら、誰だって気になってしょうがないでしょうに」
「普段はしっかり者のなまえさんがふにゃふにゃになってて、私もキュンキュンしちゃいましたもん…! さっきゅんも『これがモテの秘訣かぁ…!』って、めちゃくちゃ尊敬の眼差しを向けてましたよ!」
「モテ、とは違う気がするけど…! 何だか居た堪れない…っ! ごめんね、さっきゅん…っ!!」

とりあえず、ここにはいないさっきゅんに謝罪する。 モテることは彼女にとっては生きる為に必要なことだと言うのに、私と来たら…! 酔っていたとはいえ、自分の欲望を満たす為だけにあのような行動に出てしまったのだ…!( 1st Season / 10「レオ君の、ばか…」参照 ) それを皆に見られていたなんて、は、恥ずかしすぎる…!

「それはそうと、あの日が初めてのキスってことで良いのかしら?」
「はい… アルラウネさんの言う通り、です」
「ひゃああ…っ!初キスイベント!!すごく、恋人っぽいです…!」

潔く認める私に、ハーピィちゃんはキャアキャアとはしゃぎ出す。 そ、そんなに騒がれると、何だかこっちが恥ずかしくなってくるじゃないか…! 徐々に顔に熱が集まってくるのが分かり、パッと俯く。 しかし、次のアルラウネさんの言葉に私はすぐさま顔を上げることとなった。

「それは、どちらからしましたの?」
「えっ!?」
「ちなみに『度重なるなまえからの誘惑に耐え切れず、あくましゅうどうしさんから手を出した』というのが私の予想なのですけど…」
「アルラウネさん、エスパーか何かなんですか…っ!?さっきから全部当たってるんですけど…ッ!!」

もはや見ていたのではないかと疑うレベルである。 まさか、あの場にアルラウネさんが…!?なんて馬鹿なことを考える私を見越してなのか、アルラウネさんは続けて口を開いた。

「嫌ですわ。 こんなの年の功ですわよ。 ふたりを見ていれば何となく、分かりますわ!」
「何となくってレベルの話じゃない気がするんですが… でもたしかに、アルラウネさんの想像通り、初めてのキスはレオ君の方から、してくれました…!」
「きゃあ〜! 素敵です!!」

『素敵です』ハーピィちゃんの言葉に、初めてキスをした夜のことを思い浮かべる。 …とろけるような優しいキス。 触れる唇が熱くて、甘くて、とんでもなく気持ち良くて… レオ君で頭がいっぱいになってしまったことを思い出し、胸がきゅんと疼いてしまう。 うぅ…っ、もう長い付き合いだというのに、レオ君のこと思い出すだけで、コレだもんなぁ…!

「と、まぁ。 ここまでは、わたくしも予想出来ていたことなのだけれど… この先が、ねぇ?」
「えっ?」
「あなたたち、セックスはもう済んでますの?」
「せっ、せせせせ…っ!?」

初々しい気持ちから一変。 話はやはり、ソッチの方向に。 真っ赤な顔で口をパクパクと動かしているハーピィちゃんの為にも、話題を変えようと試みるけれど…

「…やっぱり、そこまで言わなくちゃいけません?」
「モチのロン、ですわ!」

キッパリと答えるアルラウネさん。 チラリとハーピィちゃんを盗み見れば、赤くなりながらも話の続きが気になるのかこちらを見つめていて、思わずハァ、とため息が出る。 …これは、話さなきゃダメなやつだな。

「えー、えっと…、その…」
「勿体ぶらずに! さっさと吐いちゃいなさい!」
「い、…」
「「い…?」」



「いたし、ました… 」
「「きゃあああああ!」」

今日1番の盛り上がり。 バッと立ち上がり、大きな声で叫ぶふたりに、私は慌ててシーッ!!と、口元で人差し指を立てて静かにするよう促す。 私の膝元にいる姫が眉間に皺を寄せて唸っているのが見えて我にかえったふたりは、口を押さえながら静かにソファへと座り直した。

「やっぱり…! あのムッツリスケベのことですから、ヤることはヤってると思っていたんですのよ…!」
「あ、あはは…む、ムッツリスケベって…」

アルラウネさんのあまりの言いように、思わず苦笑いがこぼれる。 が、よく考えれば確かに。 ああ見えてレオ君は、とても欲深い。 そんな自分を必死に隠そうとしているが、実のところは、かなり欲に忠実である。 …えっちの時は、少しSっ気が出ることが多いし! も、もちろん!そんなところも大好きで仕方ないのだけれど!

「あ、あの…! 私、気になることがあるんですけど…」
「? どうしたの?ハーピィちゃん」

もじもじと恥ずかしそうにするハーピィちゃんは、超絶ド級に可愛い。 そんな彼女の姿を微笑ましく思いながら、私は彼女の問い掛けに返事をする。 が、しかし…

「そ、そういうことって、どんなタイミングで始めるんですか…っ?」
「「えっ……?」」

まさかの質問の内容に、一瞬フリーズしてしまった。 …ハーピィちゃんからそんなことを聞いてくるなんて思わなかったから、油断していた。 チラリとアルラウネさんを見れば彼女も驚いているのか口をぽかんと開けている。

「た、タイミングかぁ… 」
「なまえはいつも、どうしてますの?」
「うぅ…っ! やっぱり、私が話すんですか?」
「当たり前でしょう? 今恋人がいるのはあなただけなんですのよ!」

ビシッとそんなことを言われてしまっては、反論のしようがない。 私は今までどういったタイミングで事に至っていたのかを、必死に思い出す。

「う、うーん… ふたりでまったり寛いでる時に、くっついたり、キスしたり… そしたら、自然の流れで…?」
「す、すごいです…! さすがは恋愛マスター…っ!」
「は、ハーピィちゃん!? その呼び方はやめて!?」
「……本当に、仲がよろしいこと」
「アルラウネさんが言わせたんでしょ…!!」

ツッコミのオンパレードだが、さらに追い討ちをかけるように『相変わらず、ゲロ甘ですわね』なんて言うアルラウネさんに『もう、からかわないでくださいっ!』と反論する。 確かに自分でも恥ずかしいことを言ってる自覚はある…!が、正直なところ。 タイミングなんて本当に些細なことなのだ。

私よりも大きくて逞ましい手を見ていたら、無性に彼に触れたくなったり。 『なまえちゃん』と、優しい声で名前を呼ばれたら、ギュッと抱きつきたくなったり…
そんな胸がギュッと締め付けられるような感情の昂りが、彼との甘い時間へと、私を誘ってくれる。

「本当に… 仲良くやっているみたいで安心しましたわ」
「えっ…?」
「わたくし、あなたたちが婚約したと聞いた時、本当に、嬉しかったんですのよ?」
「アルラウネさん… 」

ニコリ。 先程の黒い笑みとは全く違う、穏やかな美しい笑顔。 そんな表情でこちらを見つめるアルラウネさんに、私はじぃんと胸が熱くなる。 …心配、してくれていたんだなあ。

「まぁ、あのあくましゅうどうしさんのことですから、あなたにぞっこんなのは、分かりきっていたことですけど…」
「ぞ、ぞっこんって…っ」
「本当に愛されてますよね! なまえさん!」
「っ〜〜ッ!」

ニコニコと満面の笑みを浮かべるふたりに、私はタジタジだ。 本当に、嬉しいことを言ってくれる…!!

「その愛がすごく重そうなのは、少し心配ですけれど…」
「あはは… 確かにレオ君の愛はものすごく大きく感じますけど、でも…」

アルラウネさんが苦笑いしながら言った言葉に私もつられて苦笑いを浮かべる。 それでも、ひとつだけ断言できることがあった。 それは…

「私の愛も、重いですから。 ちょうど、釣り合ってるんです、私たち!」
「…ふふっ、ふふふっ、そうですわね!」
「とっっっっても、お似合いの、おふたりです!」

笑顔で言う私に、ニッコリと笑い返してくれるふたり。 …本当に私は、良い友人を持てて幸せ者だ。

「そんな『釣り合っている』あなたたちなら、もっと色んなお話を聞かせてもらえますわよね?」
「ちょ、ちょっと!せっかく感動してたのに…! 私の感動返してくださいよ…! それに、アルラウネさん、絶対面白がってるでしょう!?」
「そんなことないですわ! …そうですわねぇ、次は、いつもどんなプレイをしているか、なんてどうかしら?」
「ぷ、ぷぷぷぷ、ぷれい!?」

相変わらず真っ赤になるハーピィちゃんは、さておき… 前言撤回。 『良い友人』から『ちょっと強引だけど、良い友人』へと格下げである。 全く、もう…!!
ぷりぷりと怒る私なんてお構いなしに、アルラウネさんからはどんどん質問の嵐が。 …まだまだ、夜は長くなりそうだ。



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