吸血鬼の特性の話(2)


「摂取する血は誰のものでも構わないのかい?それとも、きゅうけつきくんが飲んでいる輸血用パックの方がいいとか…?」
「あ、いえ、誰の血でも効果はあるんですけど…」

頼ってもらえたことがよほど嬉しいのか、心なしか生き生きとしている様子のレオ君。 そんな彼を微笑ましく思う一方、彼からの質問の内容に私は少したじろいでしまった。 そんな私に目敏く気づいた彼は、ニコリとこちらに笑顔を向ける。

「…今更、隠し事は無しだよ?なまえちゃん?」
「うっ…」

爽やかな笑顔に反して、真っ黒なオーラが見えているのは気のせいだろうか…?そんなことを考えて、再度チラリとレオ君へと視線を向けるけれど、彼はいまだにニコニコと笑顔を絶やさない。 これ話さないと絶対ダメなやつだ…!レオ君からの笑顔の圧力に私はすぐさま観念して、効率の良い血の摂取方法について明かすこととなった。

「じ、実は、直接摂取するのが一番効果があるんです…」
「直接…?」

意味が分からないとでも言うように首を傾げるレオ君は、先程の悪魔の微笑みとは打って変わりとんでもなく可愛らしい。 うん、可愛い。 可愛いんだけども…!私が今話している内容はなんとも可愛くない、かなり刺激的なお話なわけで…

「昔、父や兄に血を分けてもらっていた時は、首元にその、がぶり、と…」
「っ、なっ…!」

私の言葉の意味を理解したのか、顔を真っ赤に染めながら咄嗟に首元を隠すように手で覆うレオ君。 そりゃあ首を噛まれるなんて聞いたら、そういう反応になるよね…!

「や、やっぱりやめておきましょう!!こんなことお願いするなんて、厚かましいですよね…!きゅうけつきくんに頼んで輸血用パックを分けてもらいます!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「っ…!」
「少し驚いただけで、私はダメだなんて一言も…っ!」
「えっ?で、でも…」
「いいから!!」

『ちょっと待ってね』そう言うと、レオ君はシャツのボタンを外し始める。 3つ程ボタンを外し終えると、修道服とシャツを少しだけはだけさせ、顔を傾けて首元を私の目の前に晒してくれた。

「こ、これでいいかな?」
「っ、!」

血液の摂取は普段は必要ないとはいえ、吸血鬼の性なのか…普段はきっちりと修道服を着こなしているレオ君の無防備に晒された首元に、何だか気分が少し高揚してくる。 男性特有の喉仏や血管、骨張った鎖骨が目に入り、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。

「遠慮せず、がぶっといっちゃっていいからね」
「っ、あ、あんまり痛かったり、気分が悪くなったりしたらすぐに言ってくださいね…?」
「うん、了解!」
「そ、それじゃあ、失礼します…っ」
「っ、ん…!」

レオ君の肩にそっと手を置いて、はむっと首筋を咥える。 ゆっくりと歯を立てて皮膚に突き刺さった瞬間、じわりと滲み出た血が口内に流れ込んできた。

「れお、くんっ、いたく、ないれすか…?」
「んっ、うん…だ、いじょうぶ」

ニコリと笑顔を浮かべてはいるけれど、やはり少し痛むのかくぐもった声を出すレオ君。 不謹慎にもその姿がとっても色っぽく見えて、胸がキュンと高鳴った。 それに久々に味わう生の血のせいか、身体がじーんと熱くなってくる。 チラリと彼の表情を盗み見れば、痛みを堪えるようにギュッと目を閉じていて、その表情に更にムラムラと欲が顔を出し始めた。

「(…かわいい、レオ君。 あぁ、このままレオ君の唇にかぶりついて、キスして、それから…って何考えてんの私っ!!ダメだ!これ以上、血を飲んだら…っ!)」

湧き上がってくる欲を必死に振り払うように、パッとレオ君から離れる。 このまま続けていたら、自分が何しでかすか分からない…!

「っ、ありがと、ございましたっ」
「ん…もう、大丈夫なのかい…?」
「は、はいっ、大丈夫です…!これで少し休めば、すぐに熱も下がると思いますっ」
「そっか…!よかったよ」

心底安心したように微笑むレオ君の姿に、罪悪感が押し寄せてくる。 自らを犠牲にしてまで協力してくれているのに、私はなんてはしたないことを…!

「…よし! それじゃあ、ベッドに横になろうか!なまえちゃん!」
「えっ?」

ベッドに腰掛けていたレオ君がスッと立ち上がる。 そして、私の背中を支えながらベッドへと優しく寝かせてくれた。 チラリと彼の首元を見れば、肌蹴ていたシャツはすでにきっちりと整えられている。

「君のことだから『もう治った!』なんて言って、家事でもしかねないだろう?」
「…そ、そんなこと、ないですよ!」
「……今、間があったよ」
「ないない!ないです!今日はもうジッとしてますから!(言えない!!家事どころか、エロいことしようとしてたなんて、絶対に言えない…っ!)」

ジトっと怪しむようにこちらを見つめるレオ君。 先程の自分の痴態を悟られないように、私は必死に取り繕った。

「…本当に、無理は禁物だよ」
「で、でも、もう熱も下がってますし!血も分けてもらいましたから…!」
「だーめ。 今日はちゃんと休むこと!…早く元気になってね、なまえちゃん」

チュッと、おでこに触れるだけのキス。 ひどく優しいそのキスに、きゅんと胸が痛いくらい高鳴った。

「……そんなことされたら、また熱あがっちゃう」
「ふふっ、なまえちゃんの看病なら、いくらでも」
「っ〜〜!!もうっ、またそうやって…!」

とんでもなく優しい笑顔で頭を撫でられて、身体に熱が集まるのが分かる。 心底機嫌良さそうにこちらをニコニコと見つめる彼に、さすがの私もお手上げだ…こうなったら、今日はとことん甘えさせてもらおう。

「レオ君、今日は一緒に寝てくれる…?」
「うん、ここにいるよ。 だから安心して」

トントンと一定のリズムを刻むレオ君の優しい手。 空いている方の手は、私の手をギュッと握ってくれて、とっても暖かい。 瞬く間に、自然と瞼が落ちてきて、意識がだんだんと薄れていく。

「れお、くん…あり、がと」
「おやすみ。 なまえちゃん」

いつもの穏やかな優しい声で囁かれて、私は夢の中へと落ちていった。



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