CHAPTER 01 /
02「か、彼女にも、監視の強化を……」


「えー、本日は、姫の蛮行が更に目立つようになってきたので、監視の強化について話し合いたいと思う」
「まず手始めに本日の姫の動向をチェックし、姫がいかに人質らしからぬ行動をしているか、今一度皆で確認していきたい」

十傑衆が集まり、会議が始まる。 今日の会議は、姫の日々の暮らしを監視し、何かあればすぐに対応できるよう対策を練るのが目的だ。

「監視の準備は出来ているか?」
「はい、SHOW・ジ・メアリーの映像を流します」

私がポチッと手元のボタンを押すと、画面にSHOW・ジ・メアリーの映像が流れ始める。 映し出されたのは、攫われてきた当初とは変わり果てた様子の姫の牢。
ベッドの上で、でびあくまのブラッシングをしている姫が画面中央に映っていた。

「…今のところ、脱走する様子はないですね」
「うむ…だが気を抜くなよ、姫のことだ…いつ何をしでかすか分からんからな!」

改くんと魔王様の会話に、私、ポセイドンくん、アルラウネ、かえんどくりゅう、代理のシザーマジシャンがコクリと頷く。 本当に姫は何をしでかすか分からない。 私たちは固唾を飲んで、何かおかしな行動を取らないか様子を見守った。

『姫〜!おばけふろしきの回収に来たよ〜!』
『あ、なまえちゃん』

ガタガタッ!!!!

いきなり画面から聞こえた、おんなドラキュラちゃんの声に、私は驚き、思わず椅子から転げ落ちる。

「ど、どうしたのだ?!あくましゅうどうし!!」
「す、すみません魔王様、何でもな『ふかふかだぁ〜気持ちいいねぇ』『むー!』
…ん゛ん゛ん゛!」

またもや声が聞こえ画面に目を向けると、でびあくまを抱きしめながら満面の笑みを浮かべる彼女の姿が。 そのあまりの可愛らしさに口を押さえて悶えてしまった。

「だ、大丈夫か?」
「は、はい、申し訳ございません、私は大丈夫で『はぁぁぁ可愛いなあ、あくましゅうどうし様と良い勝負だよ』……だ、大丈夫ですので、続けてください…」
「あ、ああ、わかった」

魔王様や他の皆から、憐れむような視線を送られるのを感じる。 こ、これ以上の失態を見せるわけにはいかない!!しっかりしなければ!!邪な想いをかき消し、映し出される映像を注視した。

「なまえのやつ、おばけふろしきの回収と言っていましたね」
「ああ。 なまえが回収しているのか、全く… 我々も暇ではないというのに…」
「おばけふろしき達も諦めが悪いですからね… 何度やられても、自ら仕掛けにいってるようです」

何とか平静を装って、魔王様達の会話に素知らぬ顔をして参加する。 正直なところ、画面越しに彼女を見るだけでドキドキと心臓がうるさくて仕方ないというのに、私の名前まで呼ばれてしまっては……ああ!!早くおばけふろしきを回収して牢から出て行ってくれ!!!!

『また派手にやったねー…あくましゅうどうし様、大丈夫かな…』

ガタッ!!!

『なまえちゃんも蘇生できるんでしょ?』
『出来るんだけど、あくましゅうどうし様とは持ってる魔力量が違いすぎて、効率悪いんだよね…あくましゅうどうし様なら、すぐに蘇生出来ちゃうし、あの声で蘇生直後にお目覚めかな。 なんて言われたら、きゃー!!もうたまんないよね!!』

ガタガタッ!!!!

『……私、寝具の素材集めで忙しいから』
『ちょっと!待って待って!もうちょっとだけ、お話きいて!!お願い!!!誰かに話さないと破裂しちゃう!好きすぎてパンクしちゃう!!!』

ガタガタガタッ!!!!

「「「ガタガタガタガタうるせぇよ!!!!」」」
「す、すみませんっ!!!!」

彼女が私のことを話す度に、大袈裟に反応してしまう。 大事な十傑会議の場なのだ。 ちゃんと集中しなければならないのに… 話す内容全てが私の事で嬉しい…なんて女々しく思ってしまっている自分が恥ずかしい。 今度こそ、冷静にならなくては!!!

『じゃ、じゃあ!今度タソガレくんが使ってる冷却装置!こっそり部屋から取ってきてあげるから!』
「…こっ、そり…部屋から?」
「ま、待て!あくましゅうどうし!!!早まるな!!!…ぎゃああああ」
「魔王様ぁああああ!!!!あくましゅうどうし!貴様!!手を離せ!!」
「改くん、大丈夫ですよ…私が蘇生しますので」
「殺すつもりかよ?!おい!ジジイ!いい加減にしやがれ!!!」

魔王様の服の襟を掴んで全力で前後に揺さぶる私を改くんとポセイドンくんが止めに入るが、私の頭の中は先程の彼女の言葉がからみついて離れない。
こっそり部屋に?よく部屋に行っているような口ぶりなのが、実に腹立たしい。

「皆さん、落ち着いてください!!! ふたりが何か話そうとしてますわよ!!!」

アルラウネの声に全員の動きがピタッと止まる。 そしてすぐさま映し出されている映像に目を向けた。

『この間、あくましゅうどうし様に届けなきゃいけない書類があったから、部屋に行ったんだけど』
『うん』
『ノックしても出ないから、ノブを回してみたら鍵が開いててね!そーっと忍び込んだの』
「なっ?!!?!…んぐっ!」
「しーっ!!!聞こえねぇだろ!!」

彼女のまさかの告白に思わず声が出る。 そんな私の口元をポセイドンくんが押さえつけた。 そ、そんな、一体いつ、わ、私の部屋に…?!

『そしたらね、本を読んでたのかそのままソファで寝ちゃってて』
『う、ん…』
『しばらく寝顔を見てたんだけど、綺麗な寝顔見てたら、なんだかムラムラしてきてさ…我慢できなくって、おでこにチューしちゃった!!!!』
「なっ…!」
「え?」
「は?」
「あんらぁ〜」
「やりますわね」
「はぁ…」

皆それぞれの反応を示す中、私は彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。
おでこにチュー?
目の前の画面の中で、きゃあきゃあとはしゃいでいる彼女が、私の、おでこに、チュー?

「グフゥッ…!!!!」
「ぎゃあああ!!ジジイが吐血したぁああ!!!」

突然の告白の、あまりの衝撃に意識が遠のいていく。 ああ、魔王様…ど、どうか、お願いです。

「か、彼女にも、監視の強化を……」
「あくましゅうどうしぃぃい!!!!」

こんなことが何度も起きたら、私の身が持ちませんから…。 薄れゆく意識の中、姫と気持ち良さそうに眠る彼女を見た気がした。




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