CHAPTER 04 / Extra edition - スヤリス姫
「 I wish you both happiness forever! 」


「なまえちゃんとレオくんの婚約お祝いパーティーしようよ」
「「「「えっ?」」」」

私の言葉にポカンと口を開いて間抜けな顔をするのは、魔王とその仲間たち。 今日も今日とて牢を抜け出し、十傑衆たちが集まる会議室へと赴いた私は、部屋に入るなり今日の目的を口にしたのだが、彼らはどうも理解が追いついていない様子。 一体どうしたというのだろう…?とても分かりやすく言葉にしているのに…

「あ、あの…姫?いきなりやって来たかと思えば…突然どうしたんですの?」
「今日はレオくんが出張でいないって聞いたから、今がチャンスかなって。 この集まりにはいつもなまえちゃんは参加しないでしょ?…ほら、早く!ふたりがいない内に、サプライズパーティーの計画を立てようよ」

セクシーの言葉に返事をしながら、いつもレオくんが座っている席へと移動した私は、そのままスッと椅子へと腰掛ける。 そしていまだ間抜け面をしているタソガレ君にチラリと視線を向ければ彼はハッと我にかえり、やっとその口を開いた。

「ちょ、ちょっと待て…!!そもそもどうして姫があやつらの婚約の話を知っているのだ…!?この情報はまだ十傑衆にしか伝えていないはず…!!」
「私の情報網をなめないで。 それになまえちゃんとレオくんのことだよ?私が知らない訳ないじゃん」
「プライバシーも何もあったもんじゃないな…っ!!それに、何なのだその絶対的な自信はッ!?というか、今は勇者を倒す為の、作戦会議中だから…」
「そんなのいつだって出来るでしょ!パーティーの計画はふたりがいない今しか出来ないんだよ?」
「うっ…そ、それはそうなのだが…!」

タソガレくんの後ろに見えるホワイトボードには『打倒勇者!作戦会議!』なんて文字がデカデカと書かれているのが見えて、私はわざとらしくハァとため息をつく。 そんなことをここで話し合うくらいなら、ふたりに喜んでもらう為の計画を練る方がよっぽど有意義だというのに。

「っつーか!そもそも、何でパーティーをやる前提で話を進めてんだよ!?誰もやるなんて…」
「裸族はあのふたりをお祝いしたくないの?」
「そっ、そういうわけじゃねぇーけど…っ!!」

私の態度が気に入らなかったのか、裸族がガタッと立ち上がり声を荒げて不満を口にし始める。 そんな彼に対抗するように疑問を投げかければ、言い返す言葉が無かったのか、そのまま押し黙ってしまった。 …チョロいな。

「あんらぁ〜!ふたりのお祝いパーティーだなんて、素敵じゃなぁ〜い!私は賛成よぉ〜♪なまえが婚約だなんて、こんなに嬉しいことはないもの!」
「さすが、あんらーさん。 よく分かってるね」
「…これはもう、止められないパターンですわよ?」
「…まぁオレも、パーティー自体に反対するつもりはねぇけどな」

先のふたりとは違い、話の分かるあんらーさんに私は思わずグッと親指を立てる。 どうやらセクシーと火ダルマ君も賛成してくれているようで、私はニンマリと笑みを浮かべた。

「しっ、しかし…パーティーをやるにしても…日程や場所はどうするのだ…!?我々全員の予定が合う日など、そうそう…」
「そんなのタソガレ君なら、どうにだって出来るでしょ。 なんなら次に皆が集まる日にやっちゃえば良いじゃん」
「貴様は俺たちの会議を何だと思ってるんだ…っ!!」
「……暇つぶし?」
「それはお前だけだろっ!!!」

私の発言にキレる裸族とわなわなと怒りに震えるモフ犬。 …何故私が怒られている?そんな疑問が頭に浮かぶ。 …未だかつて、このメンバーできちんと会議が成立したことはあっただろうか?いや、ない。 少なくとも私は見たことがない。 …全く、私を責めるのはお門違いもいいところである。

「俺たちも暇じゃねーんだよ!この会議に参加するのも、忙しい合間を縫ってだな…!!」
「それじゃあ尚更、今しかないよ。 もし今日、パーティーの計画を立てないんだったら…また別の日に集まらなくちゃいけなくなるし」
「だから…っ!!どうしてお前主導で話が進んでんだよ!?」
「なまえちゃんたちを祝うのに、誰が主導だとか関係ある?…お祝いする気持ちが大切なのに、そんなこと気にしてるなんて…本当に裸族は子供だね」
「だぁああああっ!!!腹立つ…ッ!!!めちゃくちゃ腹立つけどっ!!!!正論だから何も言い返せねぇ…っ!!!」

私の言葉に反論できない裸族は悔しそうにぎりりと歯を食いしばる。 そんな彼の様子に思わずニヤリと笑みを浮かべると『こいつ…っ!!』と臨戦態勢に入ろうとしたのが分かり、私も咄嗟に身構えるが…私たちの様子を見守っていたタソガレ君が慌てて制止の声を上げた。

「ちょ、ストップストップ…っ!!!ケンカしている場合か!!」
「っ、そもそもコイツがここにいること自体おかしいだろ!!どうして誰も突っ込まないんだよ!?」
「そ、それは…今更、というか?」
「いちいち突っ込むのも、どうかと思って…」
「もう見慣れちゃったわよねぇ〜」
「…お前らそれでも本当に幹部かよ、…ハァ、なんか怒ってるのが馬鹿らしくなってきた」

諦めたのかドサっと椅子に座り『もう、勝手にしろよ…』と呟く裸族。 きっとムキになっていただけで、裸族も本当は彼らをお祝いしたいはずなのだ。 うんうん、素直でよろしい。

「まっ、まぁ…ここにいる全員にあやつらを祝う気持ちがあるのは事実だし……よし!!本日の予定は変更だ!これより、あくましゅうどうしとなまえの婚約祝いパーティー計画立案会議を行うことにする…!!」
「いえーい」
「ったく…仕方ねーなぁ」
「あのふたりには何だかんだ世話になってるしな」
「そうだな…どうせなら盛大に祝ってやろう!」
「こうなればとことんこだわった、最高のパーティーにしますわよ」
「うふふっ、きっと喜ぶわよぉ〜!ボスにも知らせなくっちゃ!」

何だかんだと言いながらもワイワイと盛り上がる皆の様子に、私はついつい笑みを浮かべてしまう。 そして、ふとタソガレ君の方を見てみれば、彼も皆を見つめながら優しく微笑んでいて…そんな彼の姿に私は更に満足気に笑みをこぼした。

「それでは…より良いパーティーになるように、皆で案を出していくぞ!!」
「「「おー!」」」

こうして、私たちの『なまえちゃんとレオくんの婚約お祝いパーティー計画』が始動したのだった。




「ね、ねぇ姫…?一体どこへ連れて行くの?私、まだ仕事が残ってるから…!」
「そうだよ、姫…!!私も今から会議だし、またあとにしてくれないかい…?」
「もう…!なまえちゃんの仕事は他の人に任せたから大丈夫だよ!!それにレオくんも…タソガレ君に許可取ってるから大丈夫だってさっきから言ってるでしょ!」

なまえちゃんとレオくんの手を引きながら、廊下をずんずんと歩く。 先程から仕事のことばかりを口にするふたりに、私はつい苛立って声を荒げてしまった。

「そ、そうは言っても、なんだか皆に申し訳なくて…!」
「ほ、本当に、魔王様の許可を取ったのかい…?」
「ぬっ!レオくん失礼!信じてないの!?」
「えっ!?あ、いや、そういうわけじゃ…!!」
「もう!!今はとにかくついて来て!!!悪いようにはしないから!!!」
「「…はい」」

仕事のことは大丈夫だと何度も伝えているのに、責任感の強いふたりはそわそわと落ち着かない様子で、私に手を引かれている。 …本当に、真面目なんだから。

何故、私が彼らの手を引いて歩いているのか…その理由は、兼ねてから計画を立てていた婚約お祝いパーティーを本日決行するから、である。 パーティーの会場である大広間に、ふたりを同時に連れてくるのが今の私の使命なのだ。

「(ふたりにバレずに、準備が出来てよかった。 なまえちゃんもレオくんも、自分のことには鈍感だから助かったな)」

先日の会議で『どうせなら盛大にやろう』と、結局魔王城の魔物総出でお祝いすることになり、皆にふたりの婚約を知らせることとなったのだが…これが中々骨の折れる作業だった。 ふたりには絶対にバレてはいけないので、水面下で計画を進めていかなければならず、かなり神経をすり減らしたのは言うまでもない。

「(大変だったけど、誰一人反対なんてしなかったし、不満を漏らすこともなかったな…皆、このふたりのこと大好きなんだよね)」

とても協力的な魔物たちの様子に、皆がこのふたりを信頼し大切な仲間だと思っているんだと心の底から感じたのだ。 もしなまえちゃんとレオくんがいなかったら…私の魔王城での暮らしもこんなに楽しく快適なものにはなっていなかっただろうな…なんて、しみじみとそんなことを考える。 …ダメだ、今は感傷に浸っている場合ではない。 タソガレ君や十傑衆の皆、その他の城中の魔物たちが私たちの到着を待っている!そう思うと主役でない私でも、ワクワクとする気持ちが溢れて来て、自然と歩くスピードも速くなった。

「なんだか…ご機嫌だね、姫?」
「何か良いことでもあったの…?」
「…ふふ、まだヒミツだよ」

るんるんと鼻歌でも歌い出しそうな私の様子に、ふたりは頭にハテナを浮かべ困惑している。 これからその表情が驚きや喜びのものに変わるかと思うと、更にワクワクが止まらなくてなって、ニヤつく顔をどうにか抑えこむ。 …さあ、もうすぐ皆が待つ大広間だ。 無事にここまで送り届けたのだから、しっかり頼むよ皆!!!そう心の中で皆にエールを送りながら、私は視界の先に見える大広間への入り口へと、ふたりの手を引き一直線に向かっていった。




「「「「ふたりとも、婚約おめでとう!!!」」」」
「「え?」」

パーン!と乾いたクラッカーの音が重なり鳴り響く。 突然の破裂音にポカンと口を開けているなまえちゃんとレオくんのあまりの間抜け面に、思わずクスッと笑いがこみ上げてしまった。

「えっ?えっ?」
「ど、どうして…皆が…っ!?」
「姫の提案でお前たちの婚約を祝うサプライズパーティーを開こうということになってな」
「あなた達にバレないように、こっそり準備してたんですのよ?」
「本当にいつバレるかと、冷や冷やしたぜ…」
「まぁ、お前ら鈍感だし、何とか気付かれずに済んだけどな!」
「うふふっ♪とっても大変だったけど、中々楽しかったわよね?ボス?」
「…あ、あぁっ、しかしっ!このような大人数に知れ渡っているとは聞いていないぞ!?…なまえ!あれほど個人情報は慎重に扱えと…
「もぉ〜!ボスったら!今はそんなことより、ふたりのお祝いでしょっ?」

騒がしい彼らに理解が追いついていないのか、いまだに頭の上にクラッカーのテープを乗せたまま固まっているなまえちゃんとレオくん。 …そりゃあ、いきなり城の皆からお祝いされたらビックリするよね!見事サプライズが成功し、私はしてやったりとにんまりと笑みを浮かべる。

「ふふ、ふたりとも、ビックリした?」
「っ、うん…っ!ま、まさかこんな…皆に祝ってもらえるなんて…!ね!?レオくん…!!」
「……あ、ああ…っ、本当に驚いたよ…!!夢でも見てるのかと思った…」

本気で驚いた様子のふたりに、周りの皆も満足気に笑っている。 こんなに驚いてくれたなら苦労して準備した甲斐があるってものだ。 だけど…これはふたりのお祝いのパーティー。 驚きだけじゃ、お祝いにはならないからね。

「なまえちゃん、レオくん…」
「?…姫?」
「…どうしたんだい?」

私の呼び掛けに優しく応えてくれるなまえちゃんとレオくん。 ふたりの柔らかな笑顔がとっても温かくて、私の心もポカポカとしてくる。 そんな大好きなふたりに、ありったけの感謝と祝福の気持ちを込めて…

「改めて……婚約、おめでとう」
「っ、わぁ…!!」
「っ!…これは…っ!」

私の言葉とともに、広間を覆い隠していた幕が開かれる。 幕の向こうには、綺麗に飾り付けされた会場。 豪華な料理やケーキが所狭しと並ぶテーブル。 そして極め付けは、大きなボードに描かれたふたりの似顔絵が、会場の中央に立て掛けられていた。

「今日は、ふたりが主役だよ。 目一杯楽しんでね」
「よーし…!!!今日は無礼講だ…!!!ふたりの婚約を祝して、皆で盛り上がるぞ!!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」

野太い魔物達の声が、広間に響き渡る。 それを合図に、皆が口々に『おめでとう!』とふたりにお祝いの言葉を投げかけると、会場は瞬く間に幸せいっぱいの空間へと早変わりだ。 チラリとふたりの様子を伺えば、案の定。 瞳には薄っすらと涙が浮かんでいて……本当に、涙脆いんだから。

「姫、それに皆…本当にありがとう」
「…こんなに素晴らしい仲間に出会えて、本当に私たちは幸せ者だよ」

涙を拭いながら、本当に嬉しそうにはにかむなまえちゃん。 そんな彼女の肩をそっと抱きながら、微笑むレオくん。 付き合った当初では考えられないくらいのふたりの自然な距離感に、思わずこちらまで幸せな気持ちが溢れてきて…そんなふたりの微笑ましい姿に私はまた、にっこりと笑顔を浮かべるのだった。



前の話 … | …
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