CHAPTER 04 /
24「おばけふろしきの逆襲…!?」


「ただ今、戻りました!タソガレくん!」
「3日間、本当にありがとうございました…!私たちがいない間、何も問題は無かったですか?」

実家への帰省を終えて、無事魔王城に戻ってきた私とレオ君。 まずはタソガレくんに諸々の報告をしようと、私たちは彼の執務室を訪れたのだけど…

「お前たち…!!よくぞ…っ、よくぞ戻ってきてくれた…!!!」
「あはは…問題、大アリみたいですね」
「…十中八九、姫絡みだろうけどね」

部屋に着くなり泣きついてくるタソガレくんに、私たちは苦笑いをこぼす。 この様子だと余程大変だったんだろうなぁ…と、この3日間の彼の苦労を思い、心の中で同情してしまった。

「我輩の考えが甘かった…!お前たちがあれほど休みを取ることを躊躇していたのも、今ならよーーーく分かる…!!」
「そ、そこまで、大変だったのですか…?」
「私たちがいない間、一体何があったの…?」
「………」

彼にここまで言わせるほどの出来事とは、一体何なのか…気になった私は思わずタソガレくんに問い掛けてしまう。 すると彼は、自らの苦労を思い出すかのように遠い目をしたあと、ゆっくりと口を開いた。

「…この3日間、お前たちがいないから死ぬことのないようにと、城の皆…特に姫には、キツく言い聞かしたのだが…この状況下なら、殺されることはないと高を括ったおばけふろしきたちが、ここぞとばかりに姫を挑発し始めたのだ…!!」
「ま、まさかの、おばけふろしきの逆襲…!?」
「きっと日頃の鬱憤がここに来て爆発したのですよ…っ!!」

予想外の展開に私とレオ君は驚きを隠せない。 普段の姫の行いをよーーーーく知っている私たちにとって、おばけふろしきたちの取った行動は重々理解出来るのだが…

「初めの内は、姫も奴らの挑発に何とか耐えていたのだが…調子に乗ったおばけふろしきたちは、ついに姫の眠りにまで手を出してしまって…」
「ばっ、馬鹿なことを…っ!!!」
「それは1番やっちゃいけないやつだよ…っ!」

彼らのあまりにも軽率な行動には、呆れるほかなかった。 姫を相手によくそんな行動を取ろうと思えたな…と、その謎の根性と無謀な勇気には、心の中で拍手を送る。 ここまででも、かなり内容の濃いエピソードだが、まだまだ苦労話は続くようで…タソガレ君は続けて口を開いた。

「…結局、初日からおばけふろしきの死体が山積みにされ、奴らのせいで苛立った姫が、安眠を求めて城中で暴れ回る始末…!!姫は死にはしないものの、何の躊躇いも無く自ら状態異常にかかっては、城内のアイテムを使って回復の繰り返し…!!」
「な、なんだか…いつもよりハードモードじゃないですか…?」
「そ、そうだね…状態異常の回復も、私たちの仕事だったけれど…」
「おかげで貴重な回復アイテムを大量に使う羽目になってしまった…っ!!」
「あの子は、この城のアイテムをなんの躊躇いもなく使いまくっていますからね…金銭感覚が我々とは完全にズレているんですよ…」
「同じ王族なのに、この違いは何なのだ…っ!?」
「あ、あはは…人間界って本当にお金持ちだよね…」

ガックリと項垂れるタソガレ君に、私はあははと苦笑いを浮かべることしか出来なかった。 ちらりとレオ君の様子を伺うと、それは彼も同じだったのか眉を下げて笑顔を浮かべている。 『人質にここまで好き勝手されていては面子が立たない…』『我輩の魔王としての威厳が…』などとブツブツと呟いているタソガレくんが、何だかとても不憫に思えてきて…この3日間、休みを貰って呑気に楽しんでいたことが申し訳なくなってくる。 私は咄嗟に彼へと謝罪の言葉を口にした。

「ご、ごめんね、タソガレくん…私たちが休んだばかりに…」
「苦労をおかけして、申し訳ございません…」
「…いや!!お前たちのせいではない…!!むしろ、いつもこんなに大変な日々を送っているのかと思うと…我輩の方が申し訳が立たなくてな…お前たちの苦労は理解していたつもりだったが、まさかこれほどまでとは…っ!お前たちの存在のありがたみを今更ながら痛感したのだ…いつもありがとう、あくましゅうどうし!なまえ!」
「…タソガレくん」
「…魔王様」

タソガレくんからの思いがけない言葉に、じぃんと胸が熱くなる。 私たちをここまで必要としてくれているなんて…本当に嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「これからも、この魔王城を…共に支えてくれ!」
「もちろんっ!一緒に頑張ろうね…!」
「この先もずっと、お仕えいたします…!魔王様…!」

3人手のひらを重ねて笑い合う。 そのくすぐったい雰囲気が、何だか少し恥ずかしいけれど…彼への忠誠は私の中で更に揺るぎないものとなったのだった。




「とっ、ところで…!この3日間は、どうだったのだ?なまえの実家に行くと言っていたが…!」

感動の誓いを終えた私たちは、途端に恥ずかしくなりパッと重ねていた手を同時に引っ込める。 そして、照れ臭さを誤魔化すようにタソガレくんが話を切り出してくれたことで、私はあることを思い出した。 …そうだ!タソガレくんにあの事を報告しなきゃ…っ!!ここに来た当初の目的を思い出し、パッとレオ君に視線を向けると、彼も私と同じことを思ったのか、ちらりとこちらに視線を寄越している。 私がこくんとひとつ頷くと、それを合図に彼はゆっくりと口を開いた。

「そのことなんですが…魔王様、ひとつご報告が…」
「?どうしたのだ?」

キョトンと首を傾げるタソガレくん。 そんな彼を見て、私たちはもう一度視線を合わせる。 そして、レオ君は軽く深呼吸をすると、再度口を開いた。

「今回の帰省で、なまえちゃんのご両親にお会いして…私たちの婚約を認めてもらいました…!正式な結婚の時期は、まだ未定ですが…」
「はっ!?!?、けっ、!?っ、結婚…っ!?」
「あ、あはは…ビックリだよね」
「す、すみません…突然こんな話を…!!」

『結婚』の言葉に大袈裟に反応する彼に、私とレオ君はまたまた苦笑いをこぼす。 …そりゃあ驚くのも無理はない。 突然、婚約だ結婚だ、なんて…私自身も話が出た時は驚いたんだから…!!余程驚いたのか叫んだ後、一言も発さないタソガレくんが心配になった私は、思わず声を掛ける。

「タソガレくん…?」
「っ、よかったなあ…っ!!!」
「うわあっ、魔王様…!?」
「ちょ、ちょっとタソガレくん…っ!?」

私の心配は杞憂だったようで…ガバッと勢いよく抱き着いてくるタソガレくんに、私たちはわたわたと慌てふためく。 すぐに離れようともがくけれど、ギュッとふたりいっぺんに力強く抱き締められて、身動きが取れない。

「あ、あの、魔王様…?そろそろ離して…」
「こんなに嬉しいことがあるかっ!?お、お前たちが…結婚するだなんて…っ!!」

声を震わせてそんなことを言うもんだから、私もレオ君も怒る気なんて、すっかり失せてしまった。 それに加えて、ウッ、ウッと、嗚咽まで聞こえてきて…

「…ど、どうしてタソガレくんが泣くの〜っ!私までもらい泣きしちゃうじゃん…っ、」
「ううっ、す、すまない…っ!感極まってしまって、つい…っ!」
「ええっ!?ふ、ふたりとも…っ!落ち着いて…!!」

タソガレくんのまさかの涙に、思わず貰い泣きしてしまう。 このタイミングで泣くなんて、ずるいよ…っ!
情けなく涙を流す私たちを、焦った様子で宥めるレオ君には悪いけれど…感化されて一度出てしまった涙は、簡単には止まりそうにない。 涙腺崩壊である。

「これがっ、落ち着いていられるか…っ、というか、あくましゅうどうし…っ、おまえっ、こういう時は泣かないのか…っ!歳を取って涙もろくなったといつも言っているのに…!!」
「うぅ〜っ、っ、そうだよ、レオ君…っ、タソガレくんがっ、こっ、こんなになるまで、私たちのこと想ってくれてるのに…っ、レオ君も泣かなきゃダメじゃん〜〜っ!!」
「まさかの強制っ!?大の大人3人が泣き喚くって…もはや地獄絵図だよ…っ?それに、私まで泣いてしまったら、誰がこの場を収めるんだい…っ!?」

涙で顔を濡らしながら怒る私とタソガレくんに、冷静な突っ込みを入れるレオ君。 …すでにこの状況が地獄絵図と化している気がしないでもないが、涙は次々に溢れてくるのだからしょうがない。 チラリとタソガレくんを見れば、鼻水まで垂らしていて…そのあまりに情けなくも優しさの溢れる表情が更に私の涙腺を刺激して、ぶわっと涙を吹き出してしまった。

「うわぁ〜んっ、もぉっ、タソガレくんっ、なにその情けない顔〜〜っ!!!」
「なっ、!、情けないとは失礼なっ…それにっ、仕方ないだろうっ、我輩も、涙がっ、止まらないのだ〜〜っ」
「ダメだコレ…!!もう、収拾つかないぞ…!!!」

おいおいと更に大きな泣き声をあげる私たちに、さすがのレオ君もお手上げのようで…あたふたと慌てふためく彼には悪いけれど、やっぱり涙はまだまだ止まりそうにない。

「ううっ…!レオ君〜〜っ!!!」
「あくましゅうどうしぃぃ〜〜っ!!!」
「ちょ、ちょっと!ふたりともっ、ストップストップ!!!…っ、うわああああ!!」

堪らなくなった私たちは、ふたり揃ってレオ君に飛びつくけれど、勢いよく抱き着く私たちを受け止め切れるわけもなく…そのまま3人一緒に倒れ込んでしまった。

「いっ、いてて…っ、…だ、大丈夫かいっ?なまえちゃん?」
「ううっ、大丈夫です…っ、」
「うっ、わ、我輩の心配はしないのかっ、あくましゅうどうし…っ」

自分やタソガレくんはそっちのけで、私を心配してくれる優しいレオ君。 そんなレオ君に、涙でぐちゃぐちゃになった顔でボソッとボヤくタソガレくん。 3人並んで床に倒れ込んでいる、このおかしな状況に、大荒れだった心が段々と落ち着いてくるのが分かった。 ……何やってんだろ私たち。 冷静になった頭には、そんな冷めた考えが浮かんできて、それが何だかとってもおかしくなってくる。

「ふふっ、ふふふっ…」
「…あ、あの…なまえちゃん?」
「…、くっ、クックック…ふははっ、」
「えっ、ま、魔王様まで、笑って…!?」
「ふはっ、あははっ、あー…おかしい!」
「ふっ、何をやってるんだ我輩たちはっ!」
「ふふっ、ほんとっ、3人並んで床に寝転んでっ!」

ひとしきり笑った私とタソガレくんは、よいしょと起き上がる。 下敷きになっていたレオ君も同時に起き上がるけれど、その表情はなんだか腑に落ちない様子だ。 …散々、私たちに振り回されていたから無理もない。 私はすかさず彼の手を握り、謝罪の言葉を口にした。

「ごめんね、レオ君…痛かったでしょ?」
「それは大丈夫だけど…なんだかドッと疲れたよ…」
「すまないな、あくましゅうどうし…感動のあまり、つい…」

申し訳なさそうにタソガレくんも、謝罪の言葉を口にする。 しゅんと縮こまる私たちに、レオ君は呆れたようにハァとため息をひとつこぼすけれど、すぐにその表情はいつもの優しい笑顔へと変わっていった。

「泣いたり笑ったり悲しんだり…忙しいなぁ、ふたりとも」
「っ、!」

私とタソガレ君を見つめるその瞳は、とっても穏やかで…そのあまりの優しい表情に、私は釘付けになってしまう。 タソガレくんもその優しさを感じ取ったのか、幸せそうに目を細めていた。

「あくましゅうどうし、なまえ。 改めて…婚約、おめでとう。 お前たちの上司として、そして、仲間として…心から祝福するぞ!!!」
「タソガレくん…ありがとう!!」
「ありがとうございます…魔王様!」
「よし…それではさっそく!城の皆にも知らせなくては…っ!!こういった事は、早いに越した事はないからな…!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと気が早過ぎない!?」
「そっ、そうですよ魔王様…!正式な結婚の時期が決まってからでも遅くは…」
「いーや!!!お前たちのことだ…仕事の忙しさにかまけて、時期がどんどんと遅れていくのが目に見えている!!!まずは外堀からだ…!すでに周りに知られていると思えば、のんびりとしてはいられないだろう!」
「うっ…た、確かに…!!」
「何も言い返せないのが辛いね…!」

タソガレくんの言葉が正論過ぎて、私たちはぐうの音も出ない。 もちろん『レオ君と結婚する』という事実に何ら変わりはないけれど、タソガレくんの言う通り…このままではダラダラと長引いてしまいそうな気がするのは確かである。

「まずは改に相談だな…それから城内に貼り出す内報も作成しなければ…!あとは…」
「…何だか、私たちより張り切ってますね」
「あ、あはは…これは、予想外の展開だね」

テキパキと計画を立てるタソガレくんの姿に、思わず呆気にとられる私とレオ君。 あれよあれよという間に計画がまとまったのか、タソガレくんはパッとこちらへ視線を寄越し、口を開く。

「何をボサッとしているのだ!今から改のところへ行くぞ!いや…他の十傑衆の皆にも先に報告すべきか…!よし、今から緊急会議だ!!十傑衆を会議室に集めるぞ!」
「ええっ!?い、今からですか?」
「そ、そんな緊急会議だなんて、大袈裟な…」

私たちの声も聞かず、『早くするのだ!』と言って執務室から出て行くタソガレくんを、慌てて追いかける。 スタスタと早足で歩く彼の背中を追いながら、私とレオ君は顔を見合わせて、本日何度目か分からない苦笑いをこぼしたのだった。



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