CHAPTER 01 /
01「私には、この一歩が重すぎる」


「好きです、あくましゅうどうし様」
「っ、えっ?」

ジーッとこちらを見つめるのは私の部下である、おんなドラキュラちゃん。 クリッとした大きい瞳にあたふたと真っ赤になる自分が映るのが見えて、ハッとする。

「そ、そんなに見つめないでくれるかい?…そっ、それに、いつも言ってるけど…!そのような冗談、私みたいな年寄りに、言うもんじゃないよ…!」

いい歳こいてどもってしまって情けない。 一体これで何度目の告白だろうか… 何度も言われているはずの言葉なのに、彼女相手だと、どうにも自分が自分じゃなくなるようなそんな感覚になってしまうのだ。

「私は本気です! それに恋愛に年齢は関係ないと思ってますから…!年上大歓迎ですよっ!?」
「だ、だから! 女性が軽々しくそういうことを言っちゃダメだって…!」

彼女は毎日のように、私に想いを伝えてくれる。 好きだ、と、ただただ真っ直ぐに。 しかし、彼女が私を好いてくれる訳がない。 歳だって離れすぎているし、歳の近い魔王様とも仲が良くて、私とは違って異性の友人も沢山いるだろう。 うだうだとそんなことを考えてしまって、彼女の気持ちを素直に受け止められない。

彼女の気持ちが本当は違っていたら?
私とは違う誰かを想ってしまったら?

そう思うと、あと一歩が踏み出せないのだ。
私には、この一歩が重すぎる。

「と、とにかく!ここは職場なんだから、節度を持って接してくれないと…」
「…職場じゃなければ、いいんですか?」
「…っ!そ、そういうことじゃなくて!」
「あっ!おばけふろしきの回収の時間だ!姫のところに行ってきますね!」
「ちょ、ちょっと!まだ話は…」

私の気も知らず、彼女は教会の扉へと向かっていく。
もしかして、本当に彼女は私のことを…
そこまで考えて、ハッとする。 いや、ダメだ。 受け入れてしまっては、取り返しがつかなくなる。
私なんかを本気で好いてくれるわけがないのだから…そう自分に言い聞かせて、ズキンと胸が痛んだ。
そんな私をよそに、彼女は重い扉をギィっと開けた後、顔だけをひょっこり出して、またしても爆弾を落とした。

「好きです、あくましゅうどうし様!」
「っ…!また君は!」

顔中におさまったはずの熱が再度集まり、思わず手で顔を覆う。 指の隙間から扉の方を覗けば、彼女の姿はすでに無かった。

「はぁぁあ……」

へなへなと座り込み、思わず出たため息が、とんでもない熱を帯びていて嫌でも気づいてしまう。 私は彼女のことが好きなのだ、と。 そして、好きだと言われて喜んでいる自分がいる、と。 そんな考えが浮かんで、思わず頭を抱える。 ダメだ!認めてしまったら、私は……
こんな浮ついた気持ちで仕事なんて出来やしない!切り替えなければ!!!集中集中!

パッと背筋を伸ばして、残っていた書類へと目を向ける。 今日はなんだかいつもより調子が良い。
この調子だと今日は早く仕事を終えられそうだ。
悪魔教会エリアのみんなには、早く上がるように伝えよう。
調子が良い理由には、気づかないふりをして。


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