「好きです、あくましゅうどうし様」
「っ、えっ？」

みるみる内に真っ赤になる頬。 ソワソワと落ち着きなく泳ぐ視線。 その姿から、目が離せない。 何度も何度も伝えている『好き』と言う言葉。 いつまで経っても初々しい反応を見せる目の前の上司に、胸がきゅんと疼いて仕方ない。

「そ、そんなに見つめないでくれるかい？…そっ、それに、いつも言ってるけど…！そのような冗談、私みたいな年寄りに、言うもんじゃないよ…！」
「私は本気です！ それに恋愛に年齢は関係ないと思ってますから…！年上大歓迎ですよっ！？」
「だ、だから！ 女性が軽々しくそういうことを言っちゃダメだって…！」

私、おんなドラキュラのなまえは、目の前で顔を真っ赤に染めてあたふたと慌てている上司、もとい、あくましゅうどうし様に、恋をしている。 彼に認めてもらいたい。 何より彼の力になりたい！そんな思いで、必死に仕事を頑張って、今では彼の側近として魔王城の魔物たちからも一目置かれる存在となれたと思う。 だけど、そんな私にも、ある大きな悩みがひとつ。 それは…

『 好きだと伝えてるのに、本気だと思ってもらえないこと 』
とはいえ、私もそれなりに恋愛経験があるので、これだけはわかる。

「(あくましゅうどうし様は、完全に私のことを意識している…っ！)」

自意識過剰だと思われるかもしれないけれど、そんなのどうだっていい！ だって、どれだけ私の想いを否定しても、毎回あんなに真っ赤になってたら説得力がまるでない。 それに、私に好きと言われるのが満更でもないのか、好きと伝えた日は、彼の仕事の効率がめちゃくちゃ上がるのだ。 さらにさらに！ 私がほかの男性と仲良くするのも気にくわないみたいで、仲良く話してるのを見かけた日には仕事の効率が下がるのである！…分かり易すぎない？これに気づかないほど、私は鈍感ではない。 …あーもう無理！可愛い！好きすぎて、死んじゃう…！！

「と、とにかく！ ここは職場なんだから、節度を持って接してくれないと…」
「…職場じゃなければ、いいんですか？」
「…っ！そ、そういうことじゃなくて！」
「あっ！おばけふろしきの回収の時間だ！姫のところに行ってきますね！」
「ちょ、ちょっと！まだ話は…」

あくましゅうどうし様の声をスルーして教会の扉を出る。 顔だけひょっこり出して、私はもう一度、言ってやった。

「好きです、あくましゅうどうし様！」
「っ…！また君は！」

またもや真っ赤になるあくましゅうどうし様を横目に、教会から出て姫の牢へと向かう。 上機嫌に鼻歌を歌う私を見て、すれ違う魔物たちは何か察したのか「…あくましゅうどうしさまも大変だなあ」「今日の教会エリアは仕事早く終わるんじゃね？いいなー」なんて話してるのが聞こえた。

「ふふっ」

今頃、顔を真っ赤にして頭抱えながらブツブツ何か言ってるんだろうなあ。 でもすぐに切り替えなきゃ！って自分に言い聞かせるんだよね。 と、その姿を想像して笑みがこぼれる。

「ほんっとに好きだなあ」

全部全部、本当の気持ち。 彼は冗談だと本気にしてくれないけれど、好きで好きでたまらなくて、つい言葉が溢れ出てしまうのだから、仕方ないじゃないか。

「あー！もうダメ！好きすぎて死んじゃう！早く姫に話聞いてもらわなきゃ！」

ぱんぱんに膨らんだ気持ちと共に、私は急ぎ足で姫のもとへ向かうのだった。