CHAPTER 04 /
17「その話、乗ったぁあ!!」


「おぉ、すごい…!」
「いっぱいだ〜っ!!」
「本当にこれだけの量がよく集まったな…!」

とある日の、私の部屋での出来事。 目の前に広がる夢のような光景に、思わず感嘆の声を上げたのは、姫と私とタソガレくん。 視線の先には今にも崩れ落ちそうなほどに積み上げられたお菓子の山がそびえ立っていて、私たちはキラキラと瞳を輝かせた。

「そりゃあこれだけ人が集まれば、量も増えるだろ…」
「あはは…参加条件が『沢山のお菓子を持参すること』だからね」
「こんな時間にこれだけの量のお菓子を食べるなんて…正気ですの…!?」
「だったら何故ここにいるんだ、貴様は…」

はしゃぐ私たち3人をよそに若干冷めた様子の、ポセイドンくん、レオ君、アルラウネさん、改くん。
今日、私たち7人が一堂に会した理由。 それはある催しを行う為であった。 その、ある催しとは…

「ごほんっ、えー…それでは!!これより、お菓子パーティーを開催いたします!!」
「ふぉのひょほ、ふっごふほいひぃね」
「姫っ!?もう食べ始めてるのかい!?というか、食べながら喋っちゃダメです!お行儀が悪いよ!」
「おぉ…!見てみろ改!我輩も食べたことが無いお菓子が沢山あるぞ!」
「魔王様…!あまり食べ過ぎると虫歯になってしまいますよ!!」

私の開催の挨拶なんてお構い無しに、皆は騒ぎ始める。 チョコを頬張りながら喋る姫、それを叱るレオ君、沢山のお菓子に舞い上がるタソガレくん、それを宥める改くん…わいわいと楽しそうな様子に、思わず私もにっこり笑顔になった。

「ったく、あいつらガキじゃあるまいし…騒ぎすぎだろ…」
「ふふっ、たまにはこういうのも良いんじゃない?…ポセイドンくんも、今日は楽しんでいってね」

タソガレくん達を少し離れたところから眺めていたポセイドンくんが、呆れたように呟く。 ハァとため息を吐きながら腕を組んでいる彼だけど、私は気づいてるよ…!その視線がチラチラと大好きなクッキーへと向けられていることに!!

「お、俺は、お菓子が集まらねーとお前が不憫だと思って、仕方なく参加してるんだからな…!!」
「ふふふ、ありがとうポセイドンくん」
「っ、…それにしても、どうして急にお菓子パーティーなんてやろうと思ったんだよ?」

照れているのか、ポセイドンくんは話をそらすように問いかけてくる。 その彼の言葉に待ってました!と言わんばかりの勢いで、私は彼の肩をガシッと掴んだ。

「ポセイドンくん…!よくぞ聞いてくれました…!」
「なっ、なんだよ、っていうか、肩掴むな!バカ!(ジジイがすげぇ目でこっち見てるだろーが…!!)」
「なんでよ〜ツレないなぁ」

肩を掴む私の手をパシッと軽く叩くポセイドンくんの態度に少しイジケながらも、私は今回のお菓子パーティーを開催した理由を簡単に説明する。

「私、この間までダイエットしてたでしょ?その時、大好きなレオくん特製おはぎやお菓子を我慢して、とっても辛かったから…無事に痩せられたらこうやって皆でお菓子パーティーしようって決めてたの!!」
「…せっかく痩せたのに、こんなことしてていいのかよ?」
「大丈夫!あれから定期的に運動してるし、今日だけ無礼講ってことで!」
「…まぁ、お前がそれでいいなら別にいいけどよ」

私が自信満々に言うと、ポセイドンくんは呆れたように頬杖をつく。 そして目の前のクッキーを1枚手にすると、パクッと口に放り込んだ。 続けて2枚、3枚と、次々と口に運んでいく彼が微笑ましくて、つい頬が緩んでしまう。
しかし、そんな穏やかな雰囲気になったのも束の間。 先程レオ君に叱られていた姫が突然私の前までやってきて、立ち止まる。 ソファに座っている私は目の前の彼女を見上げるけれど、その口はまだモグモグと動いていて、口いっぱいにお菓子が入っているのが見て取れた。

「姫…?どうしたの?」
「んぐ、……」

先程レオ君に叱られたことを気にしているのか彼女は一生懸命に口を動かし、お菓子を飲み込もうとする。 『慌てなくていいよ!』と言う私の言葉をスルーして、せわしなく動く口元に少し心配になりながらも、そのまま黙って彼女の様子を見守った。 他の皆も、何事かと固唾を飲んで見守っている。 そして姫はゴックンとお菓子を飲み込むと、空っぽになった口で、とんでもないことを言い出した。

「…私、なまえちゃんの学生時代の写真が見たいんだけど」
「えっ?」

姫からの突然の要求に私は頭が真っ白になる。 …学生時代の、写真…今、そう言った…?

「なまえちゃんの学生時代の写真だって…!?」
「おい!このジジイ、めちゃくちゃ食い付いてるぞ…!!」
「さすがなまえの事となると、本当にポンコツに成り下がりますわね…」
「貴様ら、散々な言い様だな…」
「だが、考えてみれば確かに…我輩もなまえの昔の写真は見たことがないな」
「もし見たことがあったのなら、張り倒していたところですよ…何を自分は見たことがあってもおかしくない体で話しているんですか…?」
「あくましゅうどうしっ、お前…っ、我輩にだけ当たりが強くないか!?!?」
「魔王様のたまに出る『なまえちゃんのことなら何でも知ってるぞ感』が、私をイラっとさせるんですよ…っ!!」
「あー…それ俺も分かるわ。 タソガレのくせに生意気なんだよな」
「タソガレの

くせに

!?お前ら…仮にも我輩は魔王!!!お前たちの上司だぞ!?扱いが酷すぎないか!?」
「そう言われてもよ〜、タソガレはタソガレだし」
「ぐっ…少しは敬ってくれ…!!!」

何やら盛り上がっている皆には悪いが、私は今それどころではない。 私の学生時代の写真…そ、それだけは、絶対に見られるわけにはいかない…っ!!!
実のところ、私にはこの魔王城の誰にも知られていない過去がある。 黒歴史、だとは思ってはいないが、あまり知られたくない過去であることは確かで…そんな過去の私を姫やタソガレくん、ましてやレオ君に見せるなど…言語道断っ!!何としてでも阻止しないと…っ!

「なまえちゃん?さっきから黙り込んでいるけど、大丈夫かい…って、どうしたの!?すごい汗だよ!?」
「あっ、いや、あはは、すっ、すみません、あまりに突然のお願いだったのでビックリして…!!ひ、姫…?どうして急にそんなこと言い出したの?」
「この間、魔族学園に視察に行ったんだけど、タソガレ君からなまえちゃんが学園の卒業生だって聞いて、どんな学園生活を送っていたのかなぁって…」
「(元凶はタソガレくんか!!!余計なことを…!!)そ、そっかっ!そうだったんだね、あはは、…というか、タソガレくん!!!どうして大事な視察に姫を連れて行ってるの!?」
「ま、待て!!なまえ!!!それには深い訳が…っ!!!」
「そっ、そうだよ、なまえちゃん!姫が付いて行くって聞かなかったんだよ!!だから、落ち着いて…!」

レオ君の声に私は少し冷静さを取り戻す。 …そうだ、過ぎたことを騒いでいても仕方ない。 今は姫に諦めて貰うことだけを考えなければ…!!

「姫?写真はここには無いの…!全部実家に置いてきたから、諦めてね…ってちょっ、ちょっと!!勝手に部屋を漁らないでーっ!!!」

私の言葉なんてお構いなしに、姫は部屋の中を物色し始める。 く、くそぅ…!!勝手に誰かに見られないようにと、実家から過去の遺物を持ってきたことが仇となってしまった…!!今すぐ姫を止めないと…っ!私は姫の暴走を止めるため、咄嗟に彼女を羽交い締めにする。

「ぬー!離してーっ!」
「ご、ごめんねっ、姫!でも、こうでもしないと…やめてくれないでしょ…!?」
「姫…さすがに今回ばかりはフォローできませんわ」
「全く貴様は…人の部屋を勝手に漁るなど、それでも本当に人質かっ!?」
「それは今更だけどな…まぁ、仕方ねーよ。 今回は諦めるしかねーな、姫」
「そ、そうだよ、姫!誰だって知られたく無い過去のひとつやふたつ、あるものなんだから!!…あとで私にだけ見せてくれないかな」
「お前だけ心の声が漏れてるぞ!?…ったく、姫!誰にでもプライバシーというものがだな…」
「…なまえちゃん、取引をしよう」
「って、我輩の話を最後まで聞けっ!!!」
「取引…?」
「なまえ!?我輩はお前の味方を…っ!」
「ウン。 …ここに1枚の写真が入った封筒があるんだけど」
「…我輩、泣いていい?」

姫は懐から白い封筒を取り出すと、私に見せつけるかのように目の前でヒラヒラとちらつかせてきた。 …一体、何の写真なんだろう…?思わず私は、ジッとその封筒を見つめるが、視線の先でグズグズと泣き真似をするタソガレくんが目に入る。 …タソガレくんには悪いけれど、今は姫との駆け引きの真っ最中なのだ。 少しでも気を抜くと、私の拘束から抜け出しかねない…!彼のことはスルーして、私は気を引き締め直した。

「…一体、何の写真なの?」
「フフフ、何とこの封筒の中には……レオ君の昔の写真が入っているの」
「レオ君の…昔の、写真?」
「は!?!?!?えっ!?!?そんな馬鹿な!!昔の写真は全て燃やしたはず…!!!」
「甘いね、レオ君。 こういう時の為に、1枚だけ取っておいたんだよ」
「人の過去を勝手に取り引きに使わないでくれるかな!?!?そ、それに、なまえちゃんも、私の昔の写真なんて…」
「姫、それいくら!?!?言い値で買いますっ!!!!」
「なまえちゃん…っ!?!?」
「コイツ、買う気満々だぞ…っ!!!」
「…ついになまえも、ポンコツと化してしまいましたわね」

何やら散々な言われようだが、今はそんなことどうだっていい…だって、レオ君の昔の写真だよ!?そんなの、そんなの…っ!!

「絶対カッコいいに決まってるもん…っ!!姫だけずるいよっ、私にも見せて!!!」
「恋に盲目過ぎて、無駄にハードルが高くなっている…っ!」
「(なまえちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいけど…っ!!あのような恥ずかしい黒歴史でそんなハードルを越えられるわけがないじゃないか…!!)ひ、姫!良い子だから、その封筒をこちらに渡しなさいっ!!!」
「…なまえちゃん、レオ君に取られちゃってもいいの?これが最後の1枚かもしれないんだよ…?」
「ううっ…そ、そんなこと言われると…っ」
「なまえちゃん!!惑わされないで!!姫を離しちゃダメだよ!!」

私が羽交い締めをしているのを良いことに、レオ君は姫から封筒を奪おうとする。 それに抵抗するように暴れる姫を、私は解放すべきか、しないべきか…

「っ〜〜!、ごめんなさいっ、レオ君!!」
「えっ!?なまえちゃん!?」

私は自分の欲には勝てず、腕の力を緩めて姫を解放する。 スッと私とレオ君から距離を取ってこちらに振り向く姫は、ニヤリとイタズラが成功したような笑顔を浮かべていて、思わずギリリと奥歯を噛み締めた。 まさかレオ君の写真をだしに使うとは…っ!!しかも残り1枚かもしれない貴重な写真だなんて…そんなの、私が乗らないわけがないじゃないか…っ!

「…取り引きの条件は?」
「今ここでなまえちゃんの学生時代の写真を見せて貰う、それが私からの条件だよ」

それって、皆にも見られてしまうってことだよね?…出来れば、皆には過去の自分を知られたくなかったけれど…背に腹はかえられない…っ!私の過去なんて、レオ君の写真と比べればちっぽけな問題だ…!

「……わかった!その話、乗ったぁあ!!」
「いやいやいやっ!!それ、私の写真だからね!!!勝手に話を進めないでくれるかい!?」

意を決して条件を飲んだ私に、レオ君からの横槍が入る。 必死に抵抗してるあたり、私と同じように余程昔の姿を見られたくないのかと少し罪悪感が湧いてきた。 レオ君がそこまで見せたくないと言うのなら諦めようかな…そんな考えが浮かんだ、その時。

「レオ君、ちょっと」
「えっ?ひ、姫?」

レオ君にしゃがみ込むようにとちょいちょいと手招きをする姫。 彼女の身長に合わせて屈んだレオ君の耳元で何やらコソコソと話し始める。 一体、何を吹き込んでいるのか…疑問に思いながらもその様子を黙って眺めた。




「…レオ君、なまえちゃんの写真を見れる最大のチャンスなんだよ?あの様子だと、なまえちゃんはもう誰にも写真を見せてくれないよ」
「うっ…た、確かにそうだけど…っ!!!」
「見たくないの?なまえちゃんの制服姿」
「……見たい」
「でしょ?それなら、ここは私に任せて」
「何だか上手く丸め込まれてるような気がしないでもないけど…わかった。 任せたよ、姫」




しばらくして話がついたのか、レオ君がスッと立ち上がる。 姫はこちらを向くとニコッと微笑み、何事もなかったかのように口を開いた。

「よし、まずはなまえちゃんの写真から見ようか!」
「えっ!?レオ君の写真はもういいの!?」
「…あ、あはは、私も自分の欲には勝てなかったよ」
「ハァ、なんだったんだ、今までのやり取りは…」
「私たち何もしていませんけど、無駄に疲れましたわね…」
「す、すみませんっ、大袈裟に騒いでしまって…!」
「ご、ごめん皆…お騒がせしました…」

ハァとため息を吐くポセイドンくんとアルラウネさんに、私とレオ君は咄嗟に謝罪する。 せっかくの楽しいお菓子パーティーのはずなのに、こんなことになるなんて…!思わず、事の発端である姫をジトッと見つめてしまうが、早く早く!と瞳を輝かせてワクワクとしている彼女を見ると、怒る気も失せてしまった。 …ハァ、私もとことん姫に甘いなぁ。

「ちょっと待っててね…今アルバム取ってくるから」
「はーい」

姫の素直で可愛らしい返事を聞きながら、私は寝室へと向かう。 クローゼットの奥底に封印した過去を解放するときが来るとは思ってもみなかった。 足取りは重いが、仕方ない。 レオ君の写真のため…!そう割り切って、固く閉ざした箱から1冊のアルバムを取り出し、皆の元へと向かった。




「おまたせしました…!」
「それは…卒業アルバム?」
「はい、魔族学園を卒業したときに渡されたものです…」

私はずっしりと重みのあるアルバムをテーブルの上に置く。 久しぶりに見た布張りの分厚いアルバムからはなんだか懐かしい香りがして、ギュッと胸が締め付けられる。 皆がテーブルを囲むようにして集まってくるのが、私を余計に不安にさせた。 …やっぱり、皆見るんだよね?

「ううっ、や、やっぱり、やめておこうかなぁ、なんて…」
「…なまえちゃん?」
「ぐっ…!」

尻込みする私にチラチラと封筒を見せつけてくる姫に私はぐっと踏みとどまる。 そうだ、レオ君の写真のため…そう思えば…っ!

「(あーもうっ!!どうにでもなれ…っ!)どうぞ…っ!!!」

半ばヤケになった私は、ずいっと姫にアルバムを差し出す。 『ありがと』と言って受け取った姫は、さっそく表紙を開き始めた。

「わぁ…私、卒業アルバムなんて初めて見たよ!」
「我輩も初めてなのだ…!あっ、コラ!姫!まだそのページを見ているのに…!!」
「ちょ、ちょっと魔王様!!もう少し横に詰めてくださいっ、見えないでしょう!?」
「マジで平和だなぁ、お前ら…」
「本当に、いい大人が情けないですわ…」
「すまないな、なまえ…魔王様の代わりに俺が謝っておく…」
「あはは…ありがとう、改くん」

ギャアギャアと騒ぎながらアルバムを次々にめくっていく姫とタソガレくんとレオ君。 そんな彼らを呆れた様子で見守るポセイドンくんとアルラウネさん。 改くんに至っては、何も悪くないのに私に謝ってくれて…本当に出来た子だよ、君は…っ!!

「なまえちゃんは、どの組だったんだろ?」
「かなりクラスが多いな…見つけられるだろうか?」
「なまえちゃん…なまえちゃんは、どこだ…」
「怖ぇーよ!!アルバムってそんな必死の形相で見るもんじゃねーだろ…っ!」
「1人ずつ確認するのは大変ですわよ…なまえは何組でしたの?」
「……4組です」
「4組…っ!早く!4組のページへ!!!」

必死で私の写真を探す彼らに痺れを切らしたアルラウネさんは、私に問いかける。 ここまで来れば、抵抗するのも馬鹿らしくなってきて、私はすぐに自分のクラスを答えた。 すると、アルバムを見ていた彼らはものすごい勢いでページをめくっていく。 ついに、私の過去が暴かれる…そう思うとバクバクと心臓がうるさくて、思わずギュッと胸を押さえた。

「4組…あった!!なまえは、どこ…だ……えっ!?!?」
「これが、なまえちゃん…?」
「ちょ、ちょっとふたりとも…っ!早く私にも見せ、て…………」

真っ先に私を見つけたタソガレくんは驚きの声を上げ、姫は戸惑った様子で写真を見つめている。 そして、その後すぐにレオ君も私の写真を確認するが、やはり驚きを隠せないのか黙り込んでしまった。 タソガレくんと姫は、写真の私と目の前の私を何度も交互に見比べて、目をパチパチと瞬きさせている。 続けてアルラウネさんと改くんもアルバムを覗き込むが…

「…確かにこれは、今のなまえのイメージとは程遠いですわね」
「ま、まるで…別人のようだな…」

先の3人と同じように、驚きと戸惑いの表情を浮かべていて、私は何だか居た堪れなくなってくる。 も、もうこれ以上は…っ!そう思い、アルバムを閉じようと手を伸ばしたその瞬間。 ポセイドンくんがアルバムを覗き込んできて、思わず私は手を止めた。

「そんなに驚くほど変わってんのか?……って、なんだよこれっ、ケバすぎだろっ…!!!」
「っ!?」
「ぽ、ポセイドン!?貴様、そ、そんな直球で…っ!!」
「そ、そうだぞポセイドン!!!もう少しオブラートに包んでだな…!」
「あ、あはは…」

ポセイドンくんの歯に衣着せぬ物言いがあまりにも清々しくて、私は苦笑いを返すことしか出来なかった。 むしろ改くんとタソガレくんのフォローの方が、今はグサッと心に突き刺さる。

『ケバすぎ』ポセイドンくんの言葉はまさに的を射ていた。 黒くくっきりと塗りたくられたアイライン、長く伸びたつけまつ毛、くるくると巻かれた金髪ロングヘアー。 昔の私はいわゆる『ギャル』というやつで…久しぶりに見る自分のイケイケの姿に、カアッと頬が熱くなるのがわかる。 ああ、この頃は本当に若かった…っ!!

「なまえがギャルだったというのは意外ですけど…そんなに恥ずかしがることですの?」
「確かに今よりすごく派手だけど、こういうなまえちゃんも新鮮でいいと思うよ」
「アルラウネさん、姫…っ!!」

ふたりの言葉に感動し顔を上げるけれど、レオ君がずっと黙り込んでいることに気づいた私はハッとする。 …もしかしてレオ君、あまりの派手さに幻滅したんじゃ…っ!?そう思うと居ても立っても居られず、なんとか釈明しようと私は慌てて口を開いた。

「れっ、レオ君…?こ、これはね、若気の至り、というか、そ、その…」
「……い」
「えっ?…今、なんて…」

ボソッと呟く声を聞き取れず、私は思わず聞き返してしまう。 すると、レオ君は私の肩をガシッと掴み何やら興奮した様子で熱弁し始めた。

「その、上手く言えないけれど…!!すごく、良い…っ!!派手な中にも品があるというか、華があるというか…!!それに少女のようなあどけなさも残っていて、なんだかすごく背徳感が…」
「ちょ、ちょっと待って!レオ君っ、お、落ち着いて…?」
「っ、ご、ごめんっ!あまりにも可愛いくて、つい…っ!!」

私の声にハッと我にかえったレオ君は、バツが悪そうに謝罪したあと、そっと私から離れる。 彼の手が触れていた肩が熱を帯びていて、なんだか途端に恥ずかしくなってきた。 …か、可愛いって言ってくれるなんて思いもしなかった…っ!!どうしよう…すごく嬉しい…っ!!

「レオ君にそう言って貰えるだけで、昔の自分に自信が持てるような気がします…!!」
「私にはこれが恥ずかしい過去だとは、とても思えないよ…!こんなに可愛いなまえちゃんの姿を見れただけで、私は大満足だし…」
「っ〜〜!!もうっ!!レオ君、好きっ!大好きっ!!!」
「っ!?なまえちゃん!?ちょ、ちょっとっ、皆が見てるから…っ!!」

レオ君からのあまりに嬉しい言葉に、私は彼にギュッと抱きついた。 突然の抱擁に周りの目を気にして慌てる彼だけど、そんなの構うもんかっ!と更にギュッと強く抱きしめる。 すると、呆れたようにハァとひとつため息を吐き出すタソガレくんが目に入り、私は思わずジッと彼を睨んでしまった。 『邪魔しないで…!』そんな私の思いが通じたのか、彼はポリポリと頬をかいたあと、少し気まずそうに口を開く。

「あー…どうぞ、お構いなく。 我輩たちのことは気にせず、続けてくれ…」
「ハァ…どうせいつものことだしな〜、っておい姫!!それ俺のクッキーじゃねーかっ!!!」
「早い者勝ちだよ。 裸族が食べるの遅いのがいけないんでしょ…あっ!!!それ私のチョコマシュマロ…!!!」
「ハッっ!完全にブーメランだな!!食べるの遅ぇーのが悪いんだよ!」
「ぬー!!返せーっ!!」
「こ、こらっ!!姫!!暴れ回るんじゃない…っ!って、ああああ!我輩のポテチが…!!」
「よくも魔王様のポテチを…!!おい、姫!!少しは落ち着かんか…っ!!」
「…ハァ、本当に騒がしい人たちですわね」

あっという間に部屋の中が騒がしくなって、私は思わず呆気にとられる。 チラリとレオ君を見上げれば、彼も苦笑いを浮かべながらこちらに視線を向けていて…

「ふっ、ふふふ…」
「ふふっ…本当に皆、騒がしいなぁ」

何だか途端に可笑しくなってきて、どちらからともなく笑い出してしまった。 何事も無かったかのように騒ぐ皆を見ていると、本当に過去の自分を恥ずかしがる必要なんてないのかも…と段々と自信が湧いてくる。

「なまえちゃん、はい、これ。 」
「わぁっ、ありがとう〜っ!!!姫!!」
「あっ!?そ、それは…っ!!!!」
「それではさっそく…!昔のレオ君は………っ!?」

姫が差し出したのは、例の白い封筒。 封筒を受け取った私は、すぐさま封を開ける。 取り出した写真には、こちらをギロリと睨みつける上半身裸のレオ君が映っていた。 現在は綺麗に切り揃えられている黒髪は、長く腰まで伸びている。 今のレオ君からは想像できない姿に、思わず驚いてしまったけれど、ちょっと待って…っ!このレオ君…!!

「っ、なまえちゃん、あの、その…っ、わ、私も、若気の至り、というか…っ!!」
「…かっこいい」
「えっ!?!?」
「っ、めちゃくちゃかっこいいです…っ!!この男らしい目付きとか、荒々しく伸びた黒髪とか…っ!!それにっ、このバキバキに割れた腹筋…ハッ!!こんなの見せられたら誰でも惚れちゃうじゃないですかっ、ヤダ…っ、私のレオ君なのに…!!」
「っ、ちょ、ちょっとなまえちゃん…!落ち着いて…!」
「まるで『ちょっと悪い男に憧れるギャル』のようですわね…」
「結局似た者同士ってオチかよ…っ!!」
「まぁ…上手く収まって良かったのでは?」
「…同感だ」

何だか皆が呆れた様子で私とレオ君を見ているけれど、何はともあれ無事にレオ君の写真を見ることもできたし…!よーし!今から仕切り直しだ!お菓子パーティーを楽しむことにしよう!!

「さぁ皆!お菓子はまだまだ沢山あるから、もっと楽しんでくださいね!」
「…そうだな!!よし!今夜は食べ明かすぞ!!!」
「おー」
「魔王様!食べた後の歯磨きは忘れないように!!!」
「姫も!!必ず歯磨きはするんだよ?食べてる途中で寝ないようにしないと…!いいね?」
「…仕方ありませんわね、今夜は私も付き合いますわ」
「乗りかかった船だしなぁ、俺も付き合ってやるか…」

私の言葉に盛り上がってくれる皆に、思わず笑顔が溢れてしまう。 優しく気のいい仲間たちに囲まれながらお菓子を食べられるこの時間が、本当に幸せで…いつまでもこんな風に笑いあえますように。 そう願いながら、私もテーブルのお菓子に手を伸ばした。




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