CHAPTER 03 /
15「…もう、嫌だって言っても、無理だからね」


「(落ち着け…冷静に、紳士的に…大人の男だというところをなまえちゃんに…」

彼女のあまりの可愛さにドキドキと落ち着かない私は、一度冷静になる為に『飲み物を準備する』とキッチンへと一時避難してきた。
鍋からほわほわと湯気が立ち昇るのを見つめながら、なんとか冷静になるよう自分に言い聞かせる。 優しいココアの香りに、邪な考えでざわつく心が幾分か落ち着いてきた気がして、フゥと息を吐いた。

「(なまえちゃんが、あんな格好で現れたのは予想外で思わず狼狽えてしまったけれど…)」

扉を開けて出迎えた時の彼女の姿を思い出し、顔がニヤついてしまう。 私を見上げる瞳、そわそわと少し緊張したような面持ち…あれは狙ってやっているのだろうか…?それとも天然…?どちらにせよ、心臓に悪いのには変わりない。 現に、私は男心を鷲掴みにする仕草や格好にまんまとやられてしまったのだから。

「(いつも私ばかり振り回されているけれど…今からでも遅くない…!まだまだ挽回出来るはず!そうだ、彼女も私に見惚れていたと言っていたし…!)」

私と同じように、彼女も私の普段とは違う姿に好意を抱いてくれたのだ。 これはまたとないチャンスだと、心の中で意気込む。

「(よし…!まずはこのココアで、彼女を驚かせるぞ…!)」

出来上がったココアをカップに注ぎ、マシュマロをぷかぷかと浮かべる。 こんなこともあろうかと、甘いものや可愛いものが好きな彼女の為に、予め用意しておいたのだ。

「(ちょっとしたサプライズだけど、喜んでくれるだろうか…?何だか心配になってきた…こんなものまで用意して気持ち悪いと思われたりしないかな…!?)」

先程の意気込みはどこへ行ったのか…お得意のマイナス思考がひょっこりと顔を出し始めるが、今日の私にはこんなところで躓いている暇はない…!心の中で『大丈夫だ!』と気合を入れ直す。 自分用のホットコーヒーを急いで準備し、マグカップを両手に持つと、リビングへと足早に向かった。




「なまえちゃん、おまたせ…」

ソファへと戻ってきた私に気付いたなまえちゃんが、パッとこちらを見上げてくる。 その何でもないような仕草に、またもやキュンと胸が締め付けられてしまった。 今の、すごく良かったな…なんて心の中で呟く。 『なまえちゃんが私の部屋のソファに座り、いつもよりラフな格好で寛いでいる』という状況が堪らなくなって、思わず動きを止めてジッと彼女を見つめてしまった。

「?…レオ君?座らないんですか?」
「えっ?、あっ、うん…!、隣、ごめんね」

固まる私を不思議に思ったのか、なまえちゃんが声を掛けてきて、ハッと我にかえる。 咄嗟に彼女の隣へと座り込むが、思った以上に距離が近くて心臓がドキッと高鳴った。 もう少しで触れてしまいそうな位置に彼女の滑らかな白い太ももがあって、慌てて視線を明後日の方向に持っていく。 何とか冷静を装って、ココアが入ったマグカップを彼女へ差し出した。

「はい、どうぞ。 熱いから気をつけるんだよ?」
「ありがとうございます…!わぁ、マシュマロが入ってるっ…!!」
「ふふ、お気に召したかな?」
「すっごく可愛いですっ!!お店のココアみたい!」

カップの中を見てはしゃぐ彼女に心の中で『よし!』とガッツポーズをする。 キャッキャっとはしゃぐ彼女を見ていると、先程までの邪な気持ちが嘘のように無くなって、私も自然と笑顔が溢れた。

「なまえちゃんが喜ぶかと思って、買っておいたんだ」
「私のために…?」
「あっ、え、えっと、その、部屋に来て貰おうと思ってたとか、そういう意味じゃなくて…!そ、そのっ、!!」
「ふふ、そんなに慌てなくても分かってますよ!…ありがとう、レオ君」

サプライズの成功に気を良くした私はつい墓穴を掘ってしまうが、彼女は何でもお見通しのようだ。 『ありがとう』と、はにかむ彼女の笑顔にこちらまで暖かい気持ちになって、お互いに微笑み合う。 そんな穏やかな雰囲気になったその時、なまえちゃんが何やらごそごそと動き出した。 ガサッと何かを膝元へと持ってきたので、私は無意識にそちらに視線を向ける。 …紙袋?そういえば、部屋に来た時から持っていたような…一体何が入っているのだろうか?私が疑問に思ったちょうどその時、彼女の口が開かれた。

「レオ君、あのね…今日が何の日か、分かる?」
「えっ?今日?何かあったかな…」

突然の彼女からの問いかけに、私は思考を巡らす。 何か特別な記念日でもあっただろうか…?と考えるが、何も浮かんでこない。 えっと、今日の日付は…

「2月、14日…?…あ、も、もしかして…!!」

そこまで考えて、やっと気づく。 渡したいものがあると言っていた彼女の言葉の意味が、ようやく理解出来た。 ということは、つまり…その紙袋は…ッ!!!

「ふふ、やっぱり気づいてなかったんですね!…これ、私からレオ君へのバレンタインのチョコです。 いつもありがとう、レオ君」
「っ…!!!」

嬉しさのあまり、言葉が出てこない。 ここ最近の忙しさから、完全に頭から抜けていたイベントを彼女はちゃんと覚えていてくれて、こうやって私の為に時間を作ってくれる。 本当にこんなに素敵な女の子が私の恋人でいいのだろうか…と考え込んでいると、クスクスと笑い声が聞こえ、私はまたハッと我にかえった。 一体私は何度自分の世界に入れば気が済むのか…!慌てて、差し出された紙袋を受け取り、謝罪と感謝の言葉を口にする。

「っ!ご、ごめん…!あまりに嬉しくて…!ありがとう、なまえちゃん…っ!!すごく嬉しいよ…!!!」
「ふっふっふっ…喜ぶのはまだ早いですよ!中を見てからじゃないと!」
「ふふ、それは楽しみだなぁ…さっそく開けてみてもいいかい?」
「どうぞどうぞ!」

早く中身を見て欲しそうにする彼女の態度が可愛くて、思わずふふっと笑ってしまった。 彼女のどうぞという声に、私は紙袋から箱を取り出す。 ハートのシールが貼られていることに、またもや年甲斐も無くきゅんとさせられるが、冷静を装いそのまま丁寧にラッピングを剥がしていく。 そして箱の蓋をそっと開けると、中にはしっとりと美味しそうなチョコレートケーキが入っていて、その完成度の高さに思わず感嘆の声を上げてしまった。

「すごい…!とっても美味しそうだ!」
「良かった…喜んで貰えて嬉しいです!!」
「今から一緒に食べようか?ナイフと取り皿を取ってくるよ」
「やった!!実は、私も一緒に食べたいなぁと思ってて…張り切ってホールサイズで作っちゃいました!えへへ」
「ふふ、いいのかい?この間、ダイエットしたばかりなのに」
「も〜っ!!レオ君の意地悪!!それは今は言わなくていいでしょ…!」
「あはは、ごめんごめん。 ちょっと待っててね、すぐ戻るよ」

一緒に食べようと言った時のなまえちゃんの反応が可愛くて、つい意地悪を言ってしまう。 そんな私に頬を膨らませながら、ぷんぷんと怒る姿もこれまた可愛くて、私は思わず声を出して笑ってしまった。 こんな風にふざけ合えることが嬉しくて、キッチンへと向かう足取りも軽くなる。 早く彼女が作ったケーキを食べたくて、ナイフと取り皿を手にすると、急いでソファへと戻った。

「おまたせ、なまえちゃん。 大きさはどのくらいにする?」
「あっ、切り分けは私がやりますよ!私からの贈り物なんですから!レオ君は座って待っててください!」
「そ、そう?それじゃあ、お願いしようかな」
「はーい!…大きさこれくらいでいいですか?」
「うん、ありがとう」

こんな些細なやりとりでさえ、なまえちゃんとならとても新鮮で、大切な時間に感じる。 一緒に過ごす時間の節々に、そう思う瞬間が沢山あって…本当に彼女のことが大好きなんだと毎回改めて実感するのだ。

「あ、あの、レオ君…」

私がなまえちゃんの存在の大切さを噛み締めていると、遠慮がちに私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。 彼女の方へ視線を向けると、切り終えたケーキが乗ったお皿を持ったままジッと動かず、何かを言いたそうにチラチラとこちらの様子を伺うなまえちゃんがいて、不思議に思った私は彼女に問いかけた。

「?どうしたの?なまえちゃん?」
「…あーんってしてもいい?」
「…え?、あーん?………えっ!?あーん!?!?」

まさかの彼女からのお願いに、二度見ならぬ、二度聞きをしてしまう。 そんな私の驚き方が可笑しかったのか、彼女はクスッと笑いながら更に口を開いた。

「私のあーんで、レオ君に食べてほしいなぁと思ったんですけど…だめ、ですか?」
「だっ!?、ダメじゃないけど…!!で、でも、その、少し、はっ、恥ずかしいと言うか…」
「私も恥ずかしいけど、今日はバレンタインだし…レオ君と恋人らしいことしたいなぁって…」

こてんと首を傾げながら、そんなことを言う彼女のお願いを私が断れるわけがない。 それに『恋人らしいこと』をしたい…その気持ちは私も同じなのだ。 今日は私がリードする!なんて偉そうに言っていたのに、結局は彼女の方が何枚も上手で…せめて、いつでも歩み寄ってくれる彼女に、ちゃんと応えなければ…!

「っ、!わ、わかった…!それじゃあ…お願いするよ…!」
「ありがとうございます!それじゃあ……はい、あーん」

なまえちゃんのあーんの声に合わせて口を開くと、そっと優しく口の中にケーキを入れてくれる。 口当たりの良いしっとりとした食感のケーキが口の中に広がる。 もぐもぐと咀嚼する私を『…どうですか?』と不安そうに見つめる彼女に、無意識のうちに素直な感想が口を突いて出ていた。

「…美味しい」
「本当ですかっ?やった!!」
「甘さとほろ苦さがちょうど良くて、幾らでも食べられそうだよ、生クリームとの相性も抜群だし…!」
「ふふっ、レオ君は甘さ控えめの方が好きかと思ってお砂糖の量を少し減らしてみたんです!」
「うん…濃厚だけど、甘ったるくなくて、すっごく美味しいよ!なまえちゃん!」
「っ〜〜!ま、まだまだありますから!どんどん食べてくださいね!はい、あーん…」
「わわっ、ちょ、ちょっと待ってなまえちゃんっ、んぐっ」

本当に美味しくて絶賛する私に恥ずかしくなったのか、彼女は照れたように慌ててフォークにケーキを乗せる。 そしてそのまま私の口元へと運んでくれたのだが、上手く口に入らずクリームが口元についてしまった。

「わわっ、ご、ごめんなさい…!」
「あはは、大丈夫だよ。 すぐに拭き取るから。 …えっと、ティッシュはどこやったかな…」

焦ったように謝る彼女に大丈夫だと告げ、ティッシュを探そうとキョロキョロと辺りを見渡す。 確かあっちのテーブルの方に…そう思い、腰を上げようとしたその時。 『レオ君』と私を呼ぶなまえちゃんの声が聞こえ、パッと振り返った。

「ん?どうかした…っんむ!?」

口元に生暖かい感触。 あまりの一瞬の出来事に、何が起きたのか、理解が追いつかない。 目の前にはペロリと可愛い舌で自分の唇を舐めているなまえちゃんがいて、ついその姿に見惚れてしまう。 …もしかして、今、彼女は…私の口元のクリームを…?

「んっ、…美味しそうだったから、食べちゃいました」
「なっ、なな、今、何を…!?」
「…私、もっと、食べたいな」

『もっと、食べたい』それが意味することを想像して、私はゴクリと唾を飲み込む。 ソファの上にぺたんと女の子座りをしながら、上目遣いで私を見上げるなまえちゃんは、その体勢のせいかショートパンツが隠れていて…まるで下に何も履いていないかのようないやらしい姿に、情けなくもひどく興奮してしまった。

「…っ、わかった、私が食べさせてあげるよ」
「れ、レオく、ん……っんむ、」

そんな無防備な彼女の姿に、欲望を抑えられるはずもなく、私はケーキをひとくち咥えると彼女の頬に手を添え、そのまま口付けをした。 そして僅かに開いている唇の隙間から、舌でケーキを押し込む。

「…美味しいかい?」
「んっ、…甘くて、とっても美味しいです…」

ギュッと私の腕を掴み、とろんと潤んだ瞳でこちらを見上げるなまえちゃんの表情に、脈がどくどくと早くなるのがわかる。 あまりに扇情的な表情に、私のちっぽけな理性なんて、跡形も無く消え去ってしまった。 …スマートな大人の男?そんなの、もうどうだっていい。 目の前の彼女に触れたい、もっといやらしい顔をさせたい、思いっきり啼かせてみたい…今、私の頭の中を支配しているのは、そんな男の欲望だけだった。

「っ、…なまえちゃんばかり、ずるいな、私にも、食べさせてくれるかい?」
「…はいっ、」

素直で従順ななまえちゃんに、更に私の欲望は駆り立てられる。 先程の私のマネをしてケーキを咥える姿に、ドクンと胸が高鳴って、苦しい。 彼女の唇が触れケーキが口内へと押し込まれた瞬間、堪らなくなった私は自らの舌を彼女の舌へと絡ませてしまった。 絡み合う舌の熱で、ケーキがドロドロに溶けていく。 先程食べたケーキよりも、ずっと甘くて、美味しくて…私は夢中で彼女の口内を貪った。

「んっ、…はぁっ、甘いよ、なまえちゃん、」
「っ、!、れ、れおくっ、んぅ、…もっと、」
「っはぁ、…本当に、君はっ…これ以上は、もう、止められなくなるよ…?」

もっと、そうおねだりするなまえちゃんが可愛くて可愛くて、仕方ない。 止める気なんてさらさら無いのに、我ながら随分ずるい言い方だと思うけれど、もっと彼女の口から私を求める言葉を聞きたくて…意地悪く彼女に問いかけてしまう。

「…やだ、やめないで、レオ君、」
「っ、…もう、嫌だって言っても、無理だからね、」
「きゃっ!れ、レオ君…?」

『やめないで』涙目になって、ねだるように言う彼女の甘い声に、身体がゾクゾクと快感に震える。 これ以上耐えられなくなった私は、彼女を抱き抱えて部屋の奥のベッドへと、足早に向かった。 突然、抱き上げられた彼女は私の首に腕を回してしがみ付いてきて、密着する柔らかな身体に欲望は更に加速していく。 気持ちが盛り上がった私は、つい柄にもないことを彼女の耳元で呟いてしまった。

「…今夜は帰さないよ、なまえちゃん」
「っ〜〜!!」

私の声に弱い彼女は顔を真っ赤にしていて、その可愛らしい反応に気分が良くなった私は、彼女の頬を包み込むように手を添えた。 それに応えるかのように、なまえちゃんもそっと自分の手を重ねてくれる。 そしてそれを合図に、何度も角度を変えながら、甘くとろけるようなキスを繰り返す。

「…レオくん、すき、だいすき」
「…私も、大好きだよ、なまえちゃん」

目が合って、微笑み合う。 なんて幸せな時間なんだろう。 なまえちゃんを好きな気持ちは、止まることを知らなくて…言葉では言い表せない溢れる気持ちをぶつけるように、どちらからとも無く私達はベッドへと倒れ込んだ。








「(……これは夢だろうか?)」

目が覚めると、隣には穏やかな寝顔でスヤスヤと眠る愛しい恋人の姿。 お互い裸のままでベッドに寝転んでいる状況に思わず夢ではないかと疑ってしまうが、頭の中には昨夜の光景が鮮明に浮かんでくる。

「(いや、夢なわけがないだろう…!こ、こんなにもハッキリと、昨日のなまえちゃんの、あんな姿や、こんな姿を覚えているのに…っ)」

思い出される昨夜の出来事に、カアッと顔が熱くなる。 恥ずかしさと、とんでもない幸福感で胸がいっぱいで、思わずギュッと心臓辺りを抑えてしまう。

「(それにしても、本当に可愛かったな…)」

天使のような寝顔をしているこの子が、あんなにいやらしく乱れるなんて…と、またもや昨夜のあられもない姿のなまえちゃんが脳裏に浮かんでくる。 …朝っぱらから何を想像してるんだ私は…!!何とか気持ちを切り替えようと煩悩を掻き消すかのようにぶんぶんと頭を振ったその時。

「ん……」
「っ!?」

なまえちゃんが、ゆっくりと瞼を開き、目を覚ます。 しかしまだ寝ぼけているのか数回瞬きをした後、ゴロンとこちらに向かって寝返りを打ったのだが…

「(……っ、勘弁してくれっ、こんなの、拷問じゃないか…ッ!!)」

横向きになり両腕で寄せて強調された胸元に、嫌でも目が行ってしまう。 ピタッと肌が触れ合うところだけが熱を持って、何だかもどかしくなってきた。 …ダメだ、このままでは我慢できなくなってしまう…!!早く起きてくれ…!と心の中で願ったその時。 パチっと目を開けたなまえちゃんにホッと胸をなで下ろす。 彼女は段々と今の状況を理解してきたのか、焦りの表情を見せ始めた。

「(そっ、そうだ、私、昨日レオ君と…っ!!)」
「お、おはよう、なまえちゃん」
「っ、お、おはようございます!」
「なまえちゃん、昨日はごめんね…せっかくバレンタインのチョコを持ってきてくれたのに…ちゃんと食べずに、そ、その、色々と…が、我慢出来なくなってしまって…」
「そ、そんな…!先に誘ったのは私ですし…それに元よりそのつもりで…って、すみませんっ!!何言ってんだろ私…っ!」

テンパる彼女を落ち着かせようと話題を振ってみたものの、お互いに謝ってしまっている状況がいつもの私達と変わりなくて、思わず可笑しくなって笑ってしまった。 彼女も私につられて、笑顔を見せてくれる。

「くっ、ふふ、確かに、あの下着を見た時は『なんてイヤラシイ子なんだ…!』と思ったよ」
「なっ!?そんな言い方しなくても…!!」
「『そのつもり』が無ければ、あの下着は着けられないだろうしね」
「〜〜っ!もう!!レオ君の馬鹿!意地悪!!それに、あの下着を見て興奮してたのは、どこの誰ですかっ!!」
「そっ、それは…っ!!」

昨夜、彼女のあの下着姿を見た時、彼女が初めからそういうつもりで私の部屋に来てくれたと分かって…とても興奮してしまった。 いい歳して情けない話だが、あの下着を買った経緯を知っていた私にとって、興奮材料にならないわけがないのに…!そう思うと、私を責めるような彼女の口調に大人気なくも反論してしまった。

「…だって、仕方ないだろう!?き、君があんまり可愛いことをするから…!あんなの、私じゃなくても興奮するよ!!?」
「うっ…そ、そりゃあ、私だって、レオ君が私に興奮してくれた事は、すっごく嬉しいですけど…!っていうか、あんな姿、レオ君にしか見せません…!!」
「っ、もう、どうして君はそんなに可愛いことばかり…!一体、私をどうしたいんだい!?」
「えっ!?何で私が怒られてるの…!?」

『私にだけ』彼女からのその言葉に、単純にもすごく喜んでいる自分がいて、悔しくなった私は意地になってしまう。 そんな私の態度に彼女も負けじと言い返して来て…くだらない言い争いがしばらく続いた、その時。 『ぐぅ〜』とお腹の鳴る音が聞こえて、お互いにピタッと黙り込む。

「くっ、ふっ、ふふっ、朝ご飯にしようか」
「ふふっ、そうですね、」

最高のタイミングに、お互い笑って微笑み合う。 朝ご飯は何にしようか…と考える私の唇にチュッと柔らかい感触。 目の前のなまえちゃんを見れば、ニヤリといたずらっ子のようの笑っていて、そこでようやくキスされたことに気づいた。 こんな恋人同士の朝のやりとりが何だか無性に恥ずかしくて、カアッと顔が熱くなる。 そんな私の反応が面白かったのか、ケラケラと楽しそうに笑う彼女が、とてもキラキラと輝いて見えて、私は思わず目を細めて彼女を見つめた。




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