CHAPTER 02 /
06「…わかってるよね?皆?」


「今年もこの会が執り行えることを邪神に感謝して…『闇のミサ』を開始する…!」

魔王様のミサの始まりを告げる言葉が教会に響き渡る。 私も幹部として、魔王様の側に立ち、会場の皆の様子を眺めた。 これから始まる楽しいイベントを前に皆がワクワクとしているのが伝わってきて、微笑ましい気持ちになる。

「それではこれより、プログラム第1……『闇のプレゼント交換』を始めます!!!」
「……なっ!?」「…!!?!?」

続けてプレゼント交換の開始を知らせるアナウンスが聞こえ、私と魔王様は司会席へと目を向ける。 そして目に映るおんなドラキュラちゃんの姿に、2人同時に固まってしまった。

「なまえの、あ、あの格好は…?」
「…わ、私は何も聞いていません、」

司会席の隅から会場を見渡す彼女を呆然と見つめる私たちはさぞ滑稽だっただろう。 しかし、それは無理もないことだと思う…

「何故、サンタの格好をしているんだ…っ!?」
「そんなの私が知りたいくらいですよ…っ!!!」

壇上で男2人が馬鹿みたいに慌てているが、許してほしい。 それくらい彼女の姿は刺激が強すぎるのだ。 程よい肉付きの柔らかそうな太ももに、華奢な肩や腕、いつもより広めに開いた胸元、ドラキュラ特有の透き通るような白い肌…まさに男のロマンが詰まったような姿に、私と魔王様は思わず見惚れてしまう。

「…魔王様、いつまで見ているのです?…両目潰しますよ」
「発想が危険すぎないか!?!?あー、いや、まさかあんな格好するとはなあ!あははは、」

笑って誤魔化そうとする魔王様に少しイラッとするが、これは仕方ない。 今回は彼女が無防備すぎるのが原因だ。 ついさっきまで頬を赤らめて彼女を見つめていた魔王様、会場を見ればやはり何人も彼女を見つめ、頬を赤らめる魔物たちがいて、私の中にモヤモヤが広がっていく。

「(これは少しお説教しないと…っ!あの子は自分がどれだけ魅力的か、まるでわかっていない…!)」
「…あ、あくましゅうどうし?」
「少し彼女と話をしてきます。 何故あんな格好をしているのか、理由を聞かないと…!」
「あ、ああ、そうだな!な、何かきっと訳があるのだろう!」
「…彼女のことですから、ビックリさせたかったとか、おそらくそんな理由でしょうけどね」
「それで両目を潰されそうになる身にもなって欲しいものだ…」

『お前も大変だな』と魔王様は私の肩をポンと叩く。 そして『行ってこい』と背中を押され、私は呑気に会場を見渡す彼女の元へと向かった。 その道中、会場の方から『おんなドラキュラさんのサンタコス見たか?』『超エロくね?』なんて声が聞こえてきて、ドクンと胸が締め付けられる。 …私以外にそんな姿を見せて欲しくない、そんな感情が溢れてきて、苦しくなる。 ダメだ、こんな醜い男の独占欲がバレてしまったら…今度こそ呆れられてしまう!!何故そんな格好をしているのか、理由を聞くだけだ、そう決意して、彼女の元へと急ぎ足で向かった。




「なんだか嬉しそうだね、おんなドラキュラちゃん」
「あくましゅうどうし様!」

司会席の隅から会場の皆を見つめている彼女に近づき、何食わぬ顔で話しかける。 どうやって話を切り出そう…そんなことを考えながら、彼女の隣に立ち会話を続けた。

「皆が楽しんでくれてるのが嬉しくて!」
「そうだね…無事に開催できて、私も嬉しいよ。 今年も姫が参加してすでに色々やらかしているみたいだけど…去年と比べれば、大分落ち着いてるみたいだね」
「ふふっ、去年はイモ地獄でしたもんね」
「ビンゴマシーンの中身がイモにすり替えられていた時はどうなることかと思ったよ…」

話題は去年のミサへと移ってしまい、完全にタイミングを見失ってしまう。 ど、どうしよう!ちらりと彼女を見れば、去年のことを思い出したのか無言でふふっと笑みを浮かべている。 …よし、会話が途切れた!今がチャンスだ…!

「…あの、ひとつ聞いていいかい?」
「…どうぞ」
「……どうしてそんな格好をしているのかな!?」
「あ、あはは…えっと〜…」

思い切って聞いたものの、彼女は言葉を濁し苦笑いしている。 そんな彼女を無言で見つめ、次の言葉を待っていた、その時。

「おんなドラキュラ〜!サンタの格好似合ってるね〜!」
「なんかヤラシイ〜」
「えっ!? あ、う、うん…っ、ありがと〜…」
「……」

通りすがりのふたくびドラゴンが、とんでもない爆弾を落としていく。 『ヤラシイ』。 その言葉に私は頭に血がのぼっていくのを感じるが、平静を保つ為にニコニコと笑顔を取り繕った。 そんな私の様子に気づいたのか、彼女は慌てて口を開く。

「わ、私も、直前までこんな衣装があるなんて知らなくて…さっき渡されたのがコレだったんです!」
「一体、誰がこんな衣装を…!?」
「アルラウネさん、です…」
「渡されたからって…わざわざ着ることないんじゃないかな!?」

全く余計なことをしてくれる…!!心の中でアルラウネに悪態をつきながらも、無防備で無計画な目の前の彼女にも段々腹が立ってきた。 こんな格好をしている理由を聞くだけのつもりだったが、つい感情に流され、彼女を咎めるような口調になってしまう。

「そうなんですけど…とっても可愛かったし、あくましゅうどうし様に見て貰いたいなぁと思って…」

しゅん、と落ち込んだ様子で、なんとも可愛らしいことを言う彼女につい流されてしまいそうになるが、グッと堪える。 ……ダメだ!!彼女のペースに呑まれてしまっては!!今回ばかりは、ちゃんと言い聞かせないと!!!そう決意し、心を鬼にして彼女に向き直った。

「…っ、確かに、か、可愛いけど、」
「!?ほんとに!?私、可愛いですか!?」
「かっ、可愛いよ!!可愛いけどっ…!!!だからこそ、私は心配なんだよ!今だって、や、ヤラシイなんて、言われてたじゃないか…っ!!」

自分の恋人が他の男にいやらしい目で見られているなんて、私には耐えられない。 いくら魔王城の皆が心優しい魔物たちだとしても、男はいつ狼になるかわからないのだ。

「そんなに心配しなくても、ふたくびドラゴン頭空っぽですし、大丈夫ですよ!」
「ふたくびドラゴンの扱いひどくないかい!?というか、彼だけじゃないよ…!さっきから皆、そういう目で…!」
「あ!もうすぐ『闇の立食パーティー』の時間だ…!アナウンスしなきゃ!ごめんなさい!あくましゅうどうし様!私、司会に戻りますね!」
「あっ、…ちょ、ちょっと!」

私の心配も虚しく、彼女はあっけらかんとして、さっさと司会席へと向かってしまう。 あの様子じゃ私がどれだけ心配しているかも分かっていないんだろうなぁ…、ハァとため息をつき、自分の席がある本部へと仕方なく戻ることにした。




「…お、おかえり。 …ちゃんと話は聞けたか?」

本部へ戻ると、魔王様がすぐさま声を掛けてきた。 私に元気がないのを心配してくれているのが伝わってきて、こんな日にまで心配を掛けてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 …さっきは両目潰すなんて言ってすみませんでした、と心の中で謝罪しておいた。

「…あの衣装はアルラウネが用意したようです」
「なっ、何!?アルラウネが…!?」
「はい…可愛い衣装だから、私に見て貰いたかったのだと言っていました」
「そっ、そうか!お前に見せたかったのだな!!それは喜んで良いのではないか…っ!?」
「…そうなんです…そうなんですけど…っ!!」
「…た、確かにあれは男にとっては、目の毒でしかないからな…」

私の苦労に同情するように、またもや肩をポンと叩き励ましてくれる魔王様。 本当に付き合う以前より、苦労が絶えない気がして、またハァとため息を漏らす。

「皆さん!プレゼントは交換出来ましたか?それではこれより、プログラム第2『闇の立食パーティー』を開始します!沢山の料理をご用意しましたので、お腹いっぱい食べてくださいね〜!」

本部の席へちょうど腰掛けた瞬間、またもや彼女のアナウンスが始まる。 闇の立食パーティーの始まりに皆が盛大に盛り上がると、彼女がニコニコと笑顔を振りまくのが見えた。 …あああ!そんな可愛い笑顔を見せたら、また皆が色めき立ってしまうじゃないか…っ!!私の心配をよそに、彼女はあろうことか魔物がひしめく会場へと向かおうとしていて、私は思わず慌てふためいてしまう。 その時、バチリと彼女と目が合うが、グッと親指を立ててドヤ顔をしたあと、そのまま料理が並ぶテーブルへと向かってしまった。 ……ドヤ顔、可愛いな…ってちがう!!!

「いや、グッ!って何…!?何がグッ!なの!?」
「なまえは人の事には鋭いのに、自分の事になるとポンコツだからな…!!」
「その『俺あいつの事何でも知ってる』みたいな言い方、不快ですからやめてください」
「お前、本当めんどくさいな!?!?」
「そんなことより、彼女ですよ!!あんな格好でうろついたら大変なことに…っ!!」
「そんなことって……我輩、一応上司なのだが!?」

ぎゃあぎゃあと騒がしい魔王様を放って、彼女の行方を探す。 薄暗いが彼女の真っ赤な服は目立つからすぐに見つかった。 今すぐにでも彼女の元へ駆けつけたい気持ちでいっぱいだが、このあとの闇の説教でここから離れられないのがもどかしい。 どうかそのまま何事もなくこちらへ戻って来て…!そんな私の願いも虚しく、彼女はのろいのおんがくか君と何やら楽しそうに話し始めていた。 会話の内容は聞こえないが、料理を取ってもらい喜んでいる姿が目に映る。 ……本当に、君は、私を怒らせたいみたいだね?

「…あ、あくましゅうどう…しっ!?」
「……魔王様、次の説教ですが予定していた内容を変更してもよろしいですか?」
「あ、ああ!もちろん!!か、かまわないぞ!!!お前の好きに話すと良い…!!だっ、だから、その黒いオーラを少し抑えて…」
「…これでも抑えてるんですよ?ほら、私、笑っているでしょう?」
「その笑顔が怖いんだけど!?!?」

溢れてくる怒りを抑えるようにニコニコと笑う。 のろいのおんがくか君と別れ、司会席へと戻る彼女と目が合ったが、すぐにパッと逸らされてしまった。 そして彼女はそのまま急いで料理を食べ始める。 …もしや、次の説教担当が私だから、逃れられると思っているのでは!?

「皆さん、料理は堪能出来ましたか?そろそろ立食パーティーを終了し、プログラム第3『闇の説教』へ移りたいと思います。 各自着席をお願いします!」

私の予想は当たり、食事を終えた彼女はすぐさま次のプログラムのアナウンスを始める。 …やっぱり、このまま逃れるつもりだ!!!そちらがその気なら、こちらにも考えがある…っ!!
ぞろぞろと魔物たちが自席へ向かう中、私はスッと立ち上がり壇上へと移動する。 そして、マイクの前に立つと、続けて彼女の声が響いた。

「説教担当は、あくましゅうどうし様です!あくましゅうどうし様、よろしくお願いします!」
「えー、今年も無事に闇のミサを開催できたこと、本当に嬉しく思います。 これも偏に、皆さんのお力添えがあったからこそだと感じています。 今年1番の出来事と言えばーー…」

ちらりと彼女の方を見てみると、私が説教を始めて安心したのか、真面目に聞く態勢を取り始めている。 そんな彼女を横目に私は今年の出来事や魔王城内についてくどくどと話し続けた。 そして、話も終わりに近づいた頃…

「……えー、最後に、私事ではございますが、ご報告をさせて頂きます。 …私、あくましゅうどうしは、先日からおんなドラキュラのなまえさんとお付き合いをさせて頂いております」
「ええっ!??!…あっ、す、すみませんっ」

私の言葉に驚き、声を上げる彼女に皆の視線が集まる。 会場からは『やっぱり付き合ったって噂本当だったんだな』『俺、ちょっとショックだわー』なんて声があちこちから聞こえてくる。 私の恋人だと知っても尚、そんな事を言う者がいるとは…

「ゴホンッ…えー、っと、そういう訳なので、もし彼女を『そういう目』で見る者がいた時は…わかってるよね?皆?」

私の言葉に皆が青ざめながら何度も頷いているのを見て、取り敢えずは牽制成功かな、と満足する。 そして、今回しっかりお灸を据えなければならない人物がもうひとり。

「それと、おんなドラキュラちゃん」
「はっ、はい!!!」
「君は少し警戒心が無さすぎるよ、罰としてこのあとのビンゴ大会は参加禁止です!!!」
「えええぇっ!?!?そんなぁ…っ!!!」
「長くなりましたが、以上で私からの皆さんへの言葉とさせていただきます。 ご静聴ありがとうございました」
「…えー、あくましゅうどうし様、ありがとうございました…続いて、プログラム第4…『闇のビンゴ大会』を始めます。 ……うわーーん!!!私もやりたいです〜〜っ!!!あくましゅうどうし様ーっ!!」
「どんまい!」「ビンゴは諦めろー」
「やっとくっついたのか」「お幸せに!」

私の罰が効いたのか、泣きつく彼女に魔物たちから慰めの言葉が飛び交う。 そして私たちの関係を祝う声もチラホラと聞こえ始めた。 そんな魔物たちの優しさに感動したのか、彼女はまたあの愛らしい笑顔を見せて、一言。

「皆、ありがとう」

皆の動きが一斉に固まる。 彼女のトロトロに甘い笑顔に魔物たちが完全に堕ちたのが分かり、私はまたハァと頭を抱える。 何故こんな状況になっているのか分かっていない様子の彼女を見て、更に頭が痛くなった。

「そ、それでは、気を取り直して!ビンゴ大会を始めます!!お手元にビンゴカードをご用意ください!」

開き直った彼女の声を合図に皆がビンゴに集中し始める。 ビンゴの参加を禁止され手持ち無沙汰となった彼女を見て、今日まで頑張って準備してくれていたのに、悪い事をしたなと少し罪悪感を感じていると、パチリと目が合う。 すると彼女はパクパクと口を動かした。

「(なんだろうか、?えっと……だ…、い…、す…き……っ!?)」

まさかの言葉に、思わず顔が熱くなって、狼狽えてしまう。 そんな私を見て彼女は、ふふふと余裕有り気に笑っていて、それがなんとも悔しい。 ……結局、何があっても、振り回されているのは私なんだよなぁ…と考え、ハァとため息が漏れる。 気苦労が絶えないが、そんな毎日をどこか楽しんでいる自分がいるのも事実で…やはり彼女には敵わないなぁ、と実感したのだった。




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