CHAPTER 02 /
06「私、可愛いですか!?」


「今年もこの会が執り行えることを邪神に感謝して…『闇のミサ』を開始する…!」

タソガレくんの声が教会内に響き渡る。 それを合図に私はマイクを握りしめ、立ち上がった。

「それではこれより、プログラム第1……『闇のプレゼント交換』を始めます!!!」
「「「ウオォオオォオォオ!」」」

私のアナウンスに会場内が熱気に包まれる。 待ちに待った、闇のミサがついに始まった。 薄暗い会場内には、頭巾や黒布を被った魔物たちが所狭しと集まっていて、私はその様子を壇上の隅から見渡していた。 今日は上司部下関係なく楽しむことが許される、無礼講の日。 そんな開放的な雰囲気も手伝って、皆が和気あいあいとプレゼント交換を楽しんでいるのが伝わってきて、苦労して準備してきた甲斐があったなあ、なんてしみじみと思った。

「なんだか嬉しそうだね、おんなドラキュラちゃん」
「あくましゅうどうし様!」

壇上から皆を見つめていた私の元へあくましゅうどうし様がやってくる。 そして私の隣へ並び、同じように会場を見渡した。

「皆が楽しんでくれてるのが嬉しくて!」
「そうだね…無事に開催できて、私も嬉しいよ。 今年も姫が参加してすでに色々やらかしているみたいだけど…去年と比べれば、大分落ち着いてるみたいだね」
「ふふっ、去年はイモ地獄でしたもんね」
「ビンゴマシーンの中身がイモにすり替えられていた時はどうなることかと思ったよ…」

あくましゅうどうし様の言葉に、去年のミサの様子を思い浮かべる。 ビンゴマシーンからイモが溢れ出てきた時のあくましゅうどうし様の慌てっぷりが思い出されて、なんだか微笑ましい気持ちになった。 あの時はまさかお付き合いできるなんて思ってなかったなぁ…なんてひとり、1年前のことを懐かしんでいると、感じる視線。 先程から、あくましゅうどうし様が私に何かを聞きたそうに、チラチラとこちらを気にしているのが分かる。 …その理由は、おおよそ見当が付いているんだけれども。

「…あの、ひとつ聞いていいかい?」
「…どうぞ」
「……どうしてそんな格好をしているのかな!?」
「あ、あはは…えっと〜…」

予想通りの言葉に思わず苦笑い。 あくましゅうどうし様の言う『そんな格好』とは…

「おんなドラキュラ〜!サンタの格好似合ってるね〜!」
「なんかヤラシイ〜」
「えっ!? あ、う、うん…っ、ありがと〜…」
「……」

そう『そんな格好』それは『サンタさんのコスプレ』である。 女の子向けのコスプレ衣装なので、膝上15センチ程の真っ赤なオフショルダーのフレアミニワンピと、ふわふわのファーが付いたサンタ帽という、可愛らしい衣装だった。

先程ヤラシイと通りすがりに声を掛けてきたのは、ふたくびドラゴン。 あまりの空気の読めなさに怒りを通り越して呆れてしまうが、今はそんなことよりも…無言でニコニコと黒い笑顔を浮かべるあくましゅうどうし様をどうにかしないと…っ!

「わ、私も、直前までこんな衣装があるなんて知らなくて…さっき渡されたのがコレだったんです!」
「一体、誰がこんな衣装を…!?」
「アルラウネさん、です…」
「(彼女か…余計なことを…!)渡されたからって…わざわざ着ることないんじゃないかな!?」
「そうなんですけど…とっても可愛かったし、あくましゅうどうし様に見て貰いたいなぁと思って…」

この衣装を渡されたとき、最初に思い浮かんだのがあくましゅうどうし様だった。 ちょっと恥ずかしいけど、あくましゅうどうし様に可愛いって思って貰いたい!そんな気持ちが上回り、このクリスマスの浮かれた雰囲気も相まって、つい袖を通してしまったのだ。

「…っ、確かに、か、可愛いけど、」
「!?ほんとに!?私、可愛いですか!?」
「かっ、可愛いよ!!可愛いけどっ…!!!だからこそ、私は心配なんだよ!今だって、や、ヤラシイなんて、言われてたじゃないか…っ!!」
「そんなに心配しなくても、ふたくびドラゴン頭空っぽですし、大丈夫ですよ!」
「ふたくびドラゴンの扱いひどくないかい!?というか、彼だけじゃないよ…!さっきから皆、そういう目で…!」
「あ!もうすぐ『闇の立食パーティー』の時間だ…!アナウンスしなきゃ!ごめんなさい!あくましゅうどうし様!私、司会に戻りますね!」
「あっ、…ちょ、ちょっと!」

まだ何か言いたそうにしている彼を置いて、私は司会の席へと戻る。 心配してくれるのはとっても嬉しいけど、過保護すぎるのでは?と思うのが私の本音であった。 皆楽しい時間に夢中で私なんか見てないから、そんなに心配しなくていいのに!と心の中で呟いて、マイクを握る。

「皆さん!プレゼントは交換出来ましたか?それではこれより、プログラム第2『闇の立食パーティー』を開始します!沢山の料理をご用意しましたので、お腹いっぱい食べてくださいね〜!」

私のアナウンスにまたもや「ウオオオオオ!」と元気良く反応してくれる皆に嬉しくなって思わずニッコリ笑ってしまう。 そして私も今のうちに少しだけ食べておこうと、壇上から降りて美味しそうな料理が並ぶテーブルへと向かった。 その時、壇上近くの本部と書かれたテーブルをちらりと盗み見る。 そこには私の方を心配そうにオロオロと見つめるあくましゅうどうし様の姿があった。

「(大丈夫です!薄暗いし、誰も私なんて見てませんよ〜!)」
「…っ!?」

私は心配かけまいと、グッと親指を立てて合図する。 その瞬間、ガタッ!!とあくましゅうどうし様が立ち上がった。 しかし、次のプログラムは『闇の説教』だ。 説教担当のあくましゅうどうし様が席を外れるわけにもいかず、そのまま渋々席に着くのが見える。 私もさっさと料理を取って司会席へ戻ろう、そう思い料理が並ぶテーブルへ腕を伸ばした、その時。

「あっ」「あ」

料理を取ろうとした手が、誰かの手とぶつかる。 パッと顔を上げると、そこにはのろいのおんがくか君が立っていた。

「おんなドラキュラさんか、ごめん、薄暗くて見えなかった」
「わああ!こっちこそごめん!手大丈夫だった?!商売道具なのに…」
「いや、そんな大げさな。 大したことないから大丈夫だよ」
「良かった…ほんとごめんね」

音楽家の彼の手に怪我でもさせたら大変だ。 何もなくて良かった、とホッと胸をなでおろす。 彼はそんな私を一瞥した後、お皿を手に取り料理を盛り付け始めた。

「この料理でいいの?…はい、どうぞ」
「わぁ、綺麗な盛り付け!ありがとう!」
「今日までの準備も司会も頑張ってくれてるからさ。 こんなのお礼になんないと思うけど…」
「そんなことない!素敵な盛り付けでさらに美味しくなるよ〜!本当にありがとう!司会席の方に戻って食べるね!それじゃあ、残りも楽しんでね〜!」
「アンタも司会頑張って」

見送ってくれるのろいのおんがくか君に手を振り、司会席の方へと足を向ける。 自ずと目に入る本部席を見ると、またもや無言で真っ黒な笑顔を浮かべているあくましゅうどうし様がいて、思わずパッと目を背けた。 …完全に怒ってるっ!!!どうしよう!!!と、とりあえず、席に戻って料理を食べよう。 うん、今は自分の仕事を優先しないと…!なんとか平静を保って、席に着く。 パクパクとお皿に盛りつけられた料理を食べるけど、正直味がしない…!ごめん!のろいのおんがくか君…!!!

「(これは不可抗力だよ〜っ!!狙ったわけじゃないし、ただ会話しただけで私のサンタコス関係ないし…!)」

そんなことを、もぐもぐと咀嚼しながら考える。 その間も、あくましゅうどうし様からの視線は変わらずこちらに向けられているのを感じるが、気づかないフリをする為に黙々と食事を口に運んだ。 …もうすぐ説教タイムだ。 あくましゅうどうし様は説教担当だから、席を外さざるを得ない!それまで堪えるんだ!
そう心の中で決意し、食事を終わらせる。 急いで食事を飲み込むと、マイクを持ちアナウンスを始めた。

「皆さん、料理は堪能出来ましたか?そろそろ立食パーティーを終了し、プログラム第3『闇の説教』へ移りたいと思います。 各自着席をお願いします!」

ぞろぞろと皆が自分の席へ着席する。 そして、あくましゅうどうし様といえば、私のアナウンスを合図に立ち上がったところだった。 恨めしそうに私をみている。 …何とか危機は乗り越えたかな…!

「説教担当は、あくましゅうどうし様です!あくましゅうどうし様、よろしくお願いします!」

あくましゅうどうし様の紹介を終えて、私は自身の司会席に座り、お説教を聞く態勢をとった。

「えー、今年も無事に闇のミサを開催できたこと、本当に嬉しく思います。 これも偏に、皆さんのお力添えがあったからこそだと感じています。 今年1番の出来事と言えばーー…」

あくましゅうどうし様は、今年あった大きな出来事を振り返る。 その後も魔物の在り方や、魔王城内の設備や安全面の話など、様々なお小言を話して行き、そろそろ終わりかと思った、その時。

「……えー、最後に、私事ではございますが、ご報告をさせて頂きます。 …私、あくましゅうどうしは、先日からおんなドラキュラのなまえさんとお付き合いをさせて頂いております」
「ええっ!??!…あっ、す、すみませんっ」

まさかの言葉に思わず、声を上げてしまう。 着席していた皆が私の声に反応し、こちらを見たので、咄嗟に謝ってしまった。 …だ、だってこんな話、聞いてないよ!?で、でも、あくましゅうどうし様が、私を『自分の彼女だ!』って、紹介してくれたってことだよね!?えっ、待って、めちゃくちゃ嬉しいんだけど…っ!!!

「ゴホンッ…えー、っと、そういう訳なので、もし彼女を『そういう目』で見る者がいた時は…わかってるよね?皆?」

急に敬語を止め、にこりと満面の笑みを浮かべるあくましゅうどうし様に、皆は青ざめながら何度も頷く。 タソガレくんやポセイドンくんまで怯えてるし…!!でも、これは『俺の女に手を出すな!』って捉えてもいいんですよね!?こういう事、思ってても口には出せないタイプのはずなのに…わざわざ言ってもらえるなんて、本当に愛されているんだなあ、と今更ながら実感して胸がジーンとなる。

「それと、おんなドラキュラちゃん」
「はっ、はい!!!」
「君は少し警戒心が無さすぎるよ、罰としてこのあとのビンゴ大会は参加禁止です!!!」
「えええぇっ!?!?そんなぁ…っ!!!」

感動していたのも束の間、突然の参加禁止命令に情けない声が出てしまう。 ビンゴ大会、密かに楽しみにしていたのに!!あくましゅうどうし様のばかーっ!!

「長くなりましたが、以上で私からの皆さんへの言葉とさせていただきます。 ご静聴ありがとうございました」

そんな私の心の叫びは届かず、あくましゅうどうし様は話を終えてしまった。 パチパチと皆の拍手が鳴り響く中、私はむーっと彼を睨みつけるが、彼はどこ吹く風。 そして私は自分が司会であることを思い出し、慌ててマイクを口元へ近づける。

「…えー、あくましゅうどうし様、ありがとうございました…続いて、プログラム第4…『闇のビンゴ大会』を始めます。 ……うわーーん!!!私もやりたいです〜〜っ!!!あくましゅうどうし様ーっ!!」

私の願いも虚しく、「ビンゴは諦めろー」「どんまい」なんて声が会場から聞こえてくる。 それに加えて「お幸せに!」「やっとくっついたのか」「おめでとう!」なんて声もチラホラ。 そんな声にパッと顔を上げて会場を見渡せば、皆が笑顔で見守ってくれていて思わず胸がほっこりした。 …本当にここの皆はあったかいなぁ。 家族のように暖かい皆に、こちらもニッコリ、笑顔になる。

「皆、ありがとう」
「「「「……っ」」」」

私がお礼を言うと、なぜか皆固まってしまった。
……えっ!?なんで?!訳がわからず、あくましゅうどうし様に助けを求めようと、バッと彼を見ると、ハァァと頭を抱えている。 …えっ!?こっちはなんで頭抱えてるの?!もう、ヤケだ!このまま司会を続けよう!うん、そうしよう!!

「そ、それでは、気を取り直して!ビンゴ大会を始めます!!お手元にビンゴカードをご用意ください!」

私の無駄に元気な声が教会に響き渡り、それを合図にやっと皆が動き始める。 …ビンゴは参加出来ないし、予想外のことだらけだったけど、それ以上に嬉しいことが沢山あって、なんだか胸がいっぱいだ。 そんなことを思ってチラリとあくましゅうどうし様を見れば、パチリと合う視線。 ビンゴの参加を禁止にした事を気にしているのか、少し申し訳なさそうに眉を下げて笑っている。 …っもう!!!そんな表情されたら、また、きゅんっとしてしまうじゃないか!!!

「(だ、い、す、き)」
「…っ!?」

私は声を出さず、口をパクパクと動かし言葉を紡ぐ。 口の動きで伝わったのか、あくましゅうどうし様は顔を真っ赤にして狼狽えていた。 そんな姿がまた愛おしくて、ふふっと笑みがこぼれる。 あとでもう一度声に出して伝えよう、そう心に決め、私はビンゴを楽しむ皆に視線を移した。




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