CHAPTER 02 /
05「あくましゅうどうし様だけ、特別ですよ!」


今日は、12月24日。 クリスマスイブ。 魔王城内がクリスマスムードの漂う中、私とあくましゅうどうし様は毎度のごとく、遅くまで黙々と残業に明け暮れていた。 恋人同士となって初めてのラブイベントなのに、色気もへったくれも無い!明日のミサでのプレゼント交換とは別にあくましゅうどうし様へのプレゼントも用意したのに、渡す暇もなく1日が終わろうとしていた。

「やぁぁぁっと!終わりましたね!」
「この教会広いからねぇ…今年も姫がいるから、どうなることかと思ったけど、無事に準備も完了して良かったよ。 君のおかげだね。 いつも遅くまでありがとう、おんなドラキュラちゃん」

明日に控える闇のミサに向けて、以前から少しずつイベントの準備や教会内の飾り付けを進めていたのだが、何しろ魔王城内の魔物全員を収容できる広さだ。 今日の就業時間内にはギリギリ間に合わず、手伝うと言ってくれた他の魔物たちを先に帰し、私とあくましゅうどうし様で、残りの作業を進めていたのだった。

「改めてお礼を言われるようなことしてませんよー!むしろ、あくましゅうどうし様と一緒に過ごせる口実が出来て嬉しい!とか思ってるんで心配しないでください!」
「…そ、そっか、うん…わ、私も嬉しいよ」

恋人同士になった日から、少しずつだけど、あくましゅうどうし様の私に対する態度が変わりつつある。 今みたいに、自分の気持ちを素直に伝えてくれることが増えたりして、その度に私はどうしようもなく嬉しくなって舞い上がってしまうのだ。

「…ッ!そんな私が喜ぶようなこと言うと、またチューしちゃいますよ?!」
「なっ?!…だっ、ダメだよ!!こんなところで!」
「…他の場所ならいいってことですか?」
「そ、そういうことじゃなくてっ!何度も言っているけど、女の子がそんなことを軽々しく言うもんじゃありません…っ!!!」
「ふふ、あくましゅうどうし様、お母さんみたい」
「おかっ?!…はぁ、私の気も知らないで、君は…」

子供を叱るような口調で話すあくましゅうどうし様が可笑しくてつい、笑ってしまう。
そんな私に呆れたようにため息を吐く姿が、やけに色っぽくてドキリと胸が鳴るのがわかった。
付き合ってからのあくましゅうどうし様はなんだか以前より大人の色気が増してるような気がして、私を度々困らせている。 そんな自分に気付かれたくなくて、私はとっさに話題を変えようと口を開いた。

「もうすぐ今年も終わりかぁ…」
「歳を取ると1年なんてあっという間だよねぇ」
「…見た目とのギャップえぐいんですから、あんまりジジくさいこと言わないでください!ギャップにやられて、私悶えちゃうんですから!」
「それは褒めてるのか貶してるのかどっちなの!?」
「もちろん褒めてますよ!」

自然と冗談を言い合えるくらい、仲良くなれたことが嬉しくて思わずニコニコと笑ってしまう。 こんな風にずっと話していたいと思うけれど、時計を見ればもう日が変わる直前だった。 魔王城はずっと夜だけど、明日は闇のミサ本番だし、今日はゆっくり休まないと。

「さて作業も終わったことだし、そろそろ帰ろうか」
「はーい」

あくましゅうどうし様も同じことを思ったのか、帰り支度を始めたのでそれに倣って、私も自分の荷物をまとめ始める。 そこでずっと渡し損ねていたプレゼントが目に入った。 今日は無理かもと諦めていたけれど、今が渡すチャンスなのでは?そう思い、私は彼に声をかける。

「あくましゅうどうし様、ちょっと良いですか?」
「ん?どうしたんだい?」
「手、出してください」
「手?…これでいい?」

はい。 と差し出されるあくましゅうどうし様の手の平に、準備していたプレゼントの包みをポンと置く。 不思議そうに包みを見つめる彼が、なんだか可愛くて私は思わずふふっと笑ってしまった。

「ふふっ、クリスマスプレゼントです!」
「えっ!?、わ、私に?」
「も〜!他に誰がいるんですか!なまえサンタからの贈り物です!あくましゅうどうし様だけ、特別ですよ!」
「…っ、あ、ありがとう。 ここで、開けてもいいかい?」
「どうぞどうぞ!」

壊れ物でも扱うかのように、そーっと包み紙を剥がすあくましゅうどうし様がまたまた可愛くて、思わずにやついてしまう。 無事に剥がし終えた彼は中のプレゼントを見て、キラキラと瞳を輝かせた。

「手袋だ…」
「いつも朝一番に教会に来て、寒そうに手を擦り合わせているのを見ていたので、手袋にしてみました!指先のところに少し穴が空いているので、爪で破れる心配もないですよ!」
「…っ、すごく嬉しいよ、ありがとう…!」

ぎゅっと手袋を抱きしめて、本当に嬉しそうに笑ってくれるあくましゅうどうし様に、喜んでもらえて良かったとホッとする。 こんなに喜んで貰えるなら、すっごく悩んだ甲斐があったというものだ。 (そんな時間も楽しくて仕方なかったけど!)プレゼントを渡せたことに満足し、帰りましょうかと彼に声をかけようとした、その時。

「じ、実は、私からもプレゼントがあるんだ…」
「へえっ?!!ほ、本当ですか…っ?!」

まさかの展開に少し声が裏返ってしまう。 完全に貰うことは考えていなかったから、不意打ちだった。 ど、ドッキリとかじゃないよね…?!

「気に入ってもらえるか、分からないんだけど…」
「わぁぁ…ありがとうございますっ!!」

どうぞ、と差し出された小さい包みを、大切に大切に受け取る。 手の平サイズの四角い包みに赤いリボンが結ばれていて、merry Xmasと書いた金色のシールが貼られていた。 …あくましゅうどうし様からの初プレゼントだ!!!どうしよう!!!すっっっっごく嬉しい…っ!!!!

「開けてもいいですかっ?」
「う、うん、」

包装を丁寧に剥がすと中から白い箱が現れる。 その箱を開けると中には、可愛らしい蓋つきのビンが入っていた。 ビンを箱からそーっと取り出し、落とさないように手の平で包み込む。

「…金平糖?」

中には淡いピンクや白、黄色など色とりどりの金平糖が詰まっている。 ビンにはラメが入っており、キラキラと輝く星のようでとっても綺麗。 そのあまりの美しさに、思わずじっと、金平糖を見つめてしまった。

「こ、このあいだ、テレビで特集をやっていてね、この金平糖を見た瞬間、君のことを思い出したから、思わず買ってしまったんだけど…」
「…これを見て、私のこと思い出してくれたんですか?」

こんなに可愛いキラキラ素敵なものを見て、私を思い出してくれた?…っそんなの、そんなのさ〜〜っ!!!

「ちょ、ちょっと年寄りくさかったかな?ご、ごめんね、流行りとか分からなくて…って、ちょ、ちょっと待って!どうして泣いてるの!?もっ、もしかして、泣くほど嫌だった!?!?」
「…っ違いますっ、う、嬉しすぎて…ふぇ〜んっ、あくましゅうどうし様のばかぁ」
「えぇ?!理不尽!!!!、ど、どうしよう…」

嬉しすぎて涙が溢れたけれど、あたふたと慌てふためく彼を見ていると、少し冷静になれて、涙が引っ込んでくる。 それでも幸せな気持ちが溢れて止まらなくて、胸がぎゅーっと締め付けられた。 ああ、もう、本当に好きだなあ。

「…もう、今なら死んでもいいかもしれない」
「こ、コラッ!そんなこと言っちゃダメだよ!それに、生き返らせるのも私だし!」
「…お目覚めかな。 が聞けるなら、尚更死んでもいいかも」
「よくありませんっ!!!…それに、」

バカみたいなことを言う私を叱るあくましゅうどうし様の声を聞きながら、あなたを好きになって、恋人になれて、お互いにプレゼントを用意して、こうやって軽口を叩けるようになれて、本当に良かったなあ、なんてしみじみ思う。 目と目が合って、彼は途切れた言葉の続きを言うべく、口を開いた。

「そんなのいつでも言ってあげるから…死ぬのはやめておくれ」
「…〜〜〜っ!!もーー!!!!なんでそんなこと言うんですか!?殺す気ですか!?」
「だからなんで死んじゃうの!?!?」

想像よりも遥かに騒がしいクリスマスイブだったけど、絶対一生忘れない。 今日は私にとって、あの金平糖のように思い出が沢山詰まった大切な大切な1日となったのだった。




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