ラララ存在証明 | ナノ

  あの日の誓い。


どうして私に優しくしてくれるのか、と聞いたことがあった。その質問に、人のためにすることは巡り巡って自分のためになるんだよ、と教えてくれた。だから、私も優しい人間になりたいなって思った。とても泣き虫な彼が、実は誰よりも強い人だと言うことを私は知っていた。他人の為に無茶ばっかりして目が離せない。強くなって守らなければ、と思った。


どうしてそんなに冷たくするのか、と聞いたことがあった。その質問にいつも通り不機嫌そうな顔をして、私には関係ないだろうと罵倒を浴びせられた。でも、私は気付いてた。私にその言葉を言った後に、酷く後悔している様子に。瞳の奥がとても、申し訳なさそうに震えていた。彼はただ臆病で優しいだけなんだって気づいた。


神様仏様。いるかどうかなんて分からないのに、今際の際に願っている声は、何処までも他人を思いやる声で。自分自身の不甲斐なさに涙を流したあの日、私はもう泣かないようにしようって決めた。弱い自分にさようなら。もっともっと強くなって見せるから。だから、どうか安心して、お眠り。

幸運なことに、私には沢山の武器がある。


意思を継いでいかなければならない。私に生きる意味を教えてくれた。希望を与えてくれた。刃を研ぎ澄まして、幼い頃から蓄えた知識で、私がみんなを導いて見せる。



ゆびきりげんまん、嘘ついたら___




鬼殺隊最高位に立つ剣士。各人が極めた流派に従い、「○柱」という肩書を持つ。 私が鬼殺隊に入って、もう3年。極めた呼吸は、鬼殺隊において、その使い手は稀有な上に、回復の技が唯一使えるので重宝される"香(かおり)"。そして、香柱(こうばしら)という二つ名で呼ばれるようになってから1年。月日が過ぎるのは、早いもので、沢山の出逢いと別れがあった。鎹鴉の報せによって、任務に出ていた帰り道、新たな報せが入った。

_________鬼を連れた隊士がいる。

丁度、半年に1度の柱合会議を迎えようとしていた時のその報せは、瞬く間に柱たちに広がった。鬼殺隊の本部に着いた時には、もう殆どの柱が集っていて、私は慌ててその輪の中に入った。

「申し訳ございません、遅くなりました。」

私が辿り着いた時には、柱たちの間では、もう既に話し合いがされていたようで、話の内容についていけず、1番最初に目の入った霞柱・時透無一郎に視線を移した。

___無一郎。

その瞳が、もう私を写すことはないのだろうか。私には、もう笑いかけてくれないのだろうか。そんな場違いなことを思ってしまい、深く1度息を吐いた。正直な話、私にとって、この少年と鬼となってしまった少女の処遇などどうでも良いのである。柱として、そんなことを思うのは行けないのかもしれないけれど、周りの人間が知らないだけで、私だって似たようなものだから。偉そうにいう立場ではないのだ。

______鬼の血がまざってる…?

ズキンと痛んだ心を無視して、成り行きに身を任せた。ふと、木の上にいる元師範である蛇柱・伊黒小芭内に視線を移すと、何やらネチネチと言っているようで、まともに話してくれる雰囲気ではない。やはりと言うか、先程の私の声は誰の耳にも届いていないのだろう。本当に曲者揃いの猛者たちだと思う。そんなことを考えていると、お館様が姿を現した。

「よく来たね。私の可愛い剣士たち。」

あの時と変わらない優しい眼差しを、私たちに向けてくれる。慌てて私たちは膝をつき、頭を下げた。今日は誰がと思ったところで、風柱・不死川実弥の凛とした声が響く。先程まで、水柱・冨岡義勇や、恐らく渦中の隊士であろう隠に抑え付けられた隊士と言い合っていたのに、この変わりようだ。

(別に私は、挨拶なんて出来なくて良いのだけれど。)

「炭治郎と禰豆子のことは、私が容認していた。そして、みんなにも認めて欲しい。」

大事な話をしているというのに、今日は隣に無一郎がいるせいで、心が落ち着かない。嫌でも、姿が目に入ってしまう。あの日、私が救えなかったせいで、私の大事な幼馴染は記憶障害になってしまった。私のことも覚えていない。香柱・樋野薫という認識しかされていないのだ。

「………?樋野さん?」

あまりに見過ぎていたせいか、無一郎の瞳が私を捉える。慌てて目を逸らした。

「ごめん、なんでもない」

昔は樋野さんだなんて、呼ばなかったのに。それもこれもどれも、私のせい。私が弱かったから、守れなかった。グッと拳を握って、目の前を見据えた。鬼と思われる少女・禰豆子が丁度不死川さんを喰うかと思われたその瞬間、彼女はふいっと首を横にそらしたのだった。

「「「「「…!!!?」」」」」

一同唖然の出来事である。

「どうしたのかな?」
「鬼の女の子は、そっぽ向きました」

お館様の言葉に、娘様が答える。

「不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても、我慢して噛まなかったです。」
「ではこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね」

私はこの時は知らなかった。この鬼の少女・禰豆子と、その兄・竈門炭治郎に幾度となく助けられることに。















...

炭治郎くんは、しのぶさんの屋敷で預かられることになった。そして会議も終わり解散となった。私は無意識に無一郎の姿を追いかけてしまう。煉獄さんや蜜璃さんに声をかけられて、一言二言話した後、屋敷を出て行こうとしていた。

(声をかけたところで、どうするというのだ)

無一郎から、何もかも奪ってしまったのは、私なのに。

「…樋野。」
「!師は、…伊黒さん!」

ぼうっとしていたら、伊黒さんに腕を引かれた。

「何を黄昏ている?」
「いえ、失礼致しました。」
「顔色が酷いな。ちゃんと食っているのか。体調管理は基本だと、あれ程お前に言ったはずだが…」

ネチネチと続く小言に耳を澄ましながら、伊黒さんの横を歩く。

「蝶屋敷に最近行ってないらしいな。胡蝶が言っていた。」
「………少し、忙しくて。それに、私は自分で自分の治療は出来ますから、ご心配をなさらずに」

まるでなんでもお見通しだというこの瞳が、すごく居心地悪い。彼の相棒である鏑丸もこちらを見つめていて、なんとも言えない気持ちになる。

「病か?」
「………へっ?」
「何か病でも患っているのかと聞いているんだ」
「違いますよ。」

急に伊黒さんが歩みを止めたので、私も止めて見つめると、視線が混ざり合った。眉尻を少し下げた伊黒さんから、心配しているという想いが伝わってくる。この人が、こんな顔をするなんて珍しいな。

「お前の動向は、どうもおかしい。何を隠している。話せ。」
「やだなあ。何も隠していませんよ。そんなに信用ないんですか?元継子なのに。」

肩を落として戯けて見せると、今度は眼光が鋭くなる。やばい、多分間違えた。

「いい加減にしろ、」
「伊黒さん!」

私の胸倉をつかもうと手を伸ばしてきた伊黒さんの動きを止めたのは、第三者の声だった。その声の主は、彼が恋い焦がれている蜜璃さんで、私はその隙に、ヒョイっと彼の視界から消え、走り出す。

「待て、樋野!」
「では師範!お達者で!」
「俺は、もうお前の師範ではない!」

そんなこと言うなら放っておいてくれたら良いのに。何処までも律儀な人だ。ネチネチとした小言には悩まされるけど、伊黒さんのことを深く知っている人はきっとわかってる。あの人が根は優しい人だって事を。だから、話す事はできないのだ。とても優しい人だから、私がこんな事をしていると言うことが分かったら、きっと怒るだろうし、無理矢理にでも止めるに決まってる。だけど、私にも曲げられない想いがある。

「頑張るからね、有君。」

見上げた空は、とても綺麗な青空で。そんな青空を眺めながら、懐から取り出した液体を喉元に押し流す。どんなに苦しいことがあっても、振り返らないって決めた。

___約束するよ。だから、もう大丈夫だよ。

ふっと微笑んで消えていった笑みを忘れる事は無い。あの日の誓いを胸に。私は今日も歩んでいくのだ。


20200419

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