ラララ存在証明 | ナノ

  緊急柱合会議


4日後。しのぶさんから聞いていた通り、緊急柱合会議が行われた。ズラリと並んでいる柱たちに続いて、1番後ろに腰を下ろした。その横には無一郎が座っている。

「あーあァ、羨ましいことだぜぇ。何で俺は上弦に遭遇しないのかねぇ」
「こればかりはな。遭わない者はとんとしない。甘露寺、時透と樋野。その後、体の方はどうだ。」

不死川さんが心底残念そうに言ったのを伊黒さんが宥めた。私は伊黒さんに身体は大丈夫だと伝えると、それに続いて蜜璃さんと無一郎も自分の状態を伝えていた。悲鳴嶼さんが、柱がこれ以上欠けなくて良かったと涙を流し、しのぶさんが、無一郎と蜜璃さんの治癒が早かったことを不思議そうに問う。冨岡さんがその件についてお館様から話があるだろうと言った途端、あまね様が現れた。私達は慌てて頭を下げる。

「本日の柱合会議。産屋敷輝哉の代理を、産屋敷あまねが務めさせていただきます。」

目に浮かぶのは先日のお館様のお姿。息も絶え絶えでかなり苦しそうだった。ずっとあの状態が続いているのだろう。今後私たちの前へ出ることは難しいと、あまねさまが頭を下げる。

「承知…。お館様が1日でも長く、その命の灯火を燃やしてくださることを祈り申し上げる。あまね様も御心強く持たれますよう…」
「柱の皆様には感謝申し上げます」

会議で話されたのは、まずは禰豆子ちゃんのことだった。しのぶさんも予感していた通り、あの子を巡って、大規模な争奪戦が起こるであろうということだ。今、世間が落ち着いているのは、嵐の前の静けさということだろう。そして、続いては無一郎と蜜璃さんに、

「御二人には、痣の発現の条件をご教示願いたく存じます。」

戦国の時代、鬼舞辻無惨を追い詰めたはじまりの呼吸の剣士たちは、みな鬼の紋様に似た痣が発現していたそうだ。それが無一郎と蜜璃さんに現れたと彼等の鎹鴉が報告しているとのこと。不死川さんがそんなこと聞いたことないと声を上げた。

「痣が発現しない為、思い詰めてしまう方がいらっしゃいました。それ故に。痣については、伝承が曖昧な部分が多いです。当時は、重要視されていなかったせいかもしれませんし、鬼殺隊がこれまで、何度も壊滅させられかけ、その過程で継承が途切れたのかもしれません。」

はじまりの呼吸の剣士の一人の手記に、そのような文言があったと。香の呼吸の剣士の手記にはそれは無かったと記憶している。そもそも、香の呼吸は水の呼吸からの派生なので、その存在が重宝されていても、はじまりの呼吸には含まれないからだろうか。今世で痣がはじめて出現したのは炭治郎くんだったそうだ。元々彼の額には痣があったので、気づかなかった。

「ですが、御本人にも、はっきりと痣の発現の方法が分からない様子でしたので、ひとまず置いておきましたが…」

柱2人にそれが現れたとなれば話は別ということだろう。話を振られた蜜璃さんが、意気揚々とどのような状態であったか口走るが、蜜璃さんは、そもそも戦闘においては感覚派なので、私同様他の柱の面々も頭を抱えた。やはり、彼女の説明では分かりかねる。そうなると、残る無一郎に視線が集まった。

「痣というものに自覚はありませんでしたが、あの時の戦闘を思い返してみたときに、思い当たること…いつもと違うことがいくつかありました。」

その条件を満たせば恐らく、みんな痣が浮き出す。ゴクリと唾を飲み込んだ。無一郎がゆっくりと述べた条件を要約すると、『心拍数が二百を超える』『体温が三十九度以上になる』ということだ。何故三十九度なのかというあまね様が問う。

「はい。胡蝶さんの屋敷で、僕は熱を出していたのですが、薫から体温計なるもので測ってもらった温度、三十九度が痣が出ていたとされる間の体の熱さと同じでした」

あの時のことが一瞬頭に浮かんで、顔が熱くなる。そんな私なんてお構いなしに、話はどんどん進んでいった。つまり、痣の発現は柱の急務となる。

「ありがとうございます。ただひとつ、痣の訓練につきましては、皆様にお伝えしなければならないことがあります。もう既に、痣が発現してしまった方は選べません…。痣が発現した方は、どなたも例外なく___。」

______俺より、うんと長生きしろ。絶対だからな。お前ら2人で幸せになれ。

痣者は25歳を待たずに死ぬ。私は思わず無一郎を見つめた。無一郎は何か言いたげな顔をした後、優しげな眼差しを向けただけで留め、私から視線を逸らした。

「成る程、しかしそうなると私は…一体どうなるのか…南無三…」

悲鳴嶼さんは、27歳。もう既に25歳を超えている。ジャリジャリと数珠を鳴らしながら呟いた言葉に、かけてあげる言葉は見つからない。あまね様は退室され、残った柱の面々で今後の話をしようということになったが、冨岡さんが席を立たれてしまう。勿論、それに皆んな良い顔をせず、不死川さんや伊黒さんが咎めた。

「7人で話し合うといい。俺には関係ない」

どうしてこうも冨岡さんは協調性に欠けるのだろうか。伊黒さんや不死川さんの額には青筋が浮かんでいるし、しのぶさんは頭を抱えている。不死川さんがとうとうキレてしまい、喧嘩になりそうになったところで、

パァンッ…

悲鳴嶼さんが両掌を叩いた。

「座れ…話を進める…1つ提案がある…」

その内容は、来たる日のために、柱稽古を行なってはどうかということだった。隊士の質が落ちていることは前々から問題に上がっていたし、鬼の動きが静かな今、柱が一般隊士たちの様子を見れる時間は充分にある。

「あの…」
「なんだ樋野?」

その案自体には賛成だ。けれど、私にはそれとは別でやりたいことがあった。悲鳴嶼さんに促されて言葉を続けた。

「伊黒さんはご存知なのですが、少し前に、お館様より、香の呼吸の剣士の手記を頂きました。そこに記されてる技の中で、私には未習得の技が2つもあります。」
「ほお…」

奥義とされる香の呼吸の必殺技である漆ノ型と、唯一無二の秘義で治癒の技である捌ノ型。

「中でも、治癒の技は習得出来れば、数多くの人命を救えると思っています。なので、私は…申し訳ないのですが…」

柱稽古への参加は辞退したいと、恐れながら申し上げた。なんて言われるのだろうとビクビクと震えていると、伊黒さんが盛大なため息を吐いた。

「柱稽古は樋野を除いた柱で組めば良いだけの話だ。それと宇髄にも声をかけてはどうかと思うんだが。」
「それは良いですね。それと薫ちゃんに続いてで申し訳ないのですが、私はお館様より別件を言付かっておりまして…私も外していただけたら幸いです。」
「…ふむ。医療に携わる者たちは…他にも用意しなければならないことがあるのだろう…。では、一般隊士たちへの柱稽古は胡蝶と樋野を除いた柱で行うこととする。」

悲鳴嶼さんの言葉に、柱全員が頷いた。話が纏まりかけたところで、私はもう1つの提案をするべく声を上げる。

「それで…あの…その先程言った技を習得する為に…出来れば皆さんと…鍛錬したいのですが…」

しゃんと話せと言わんばかりに伊黒さんに睨まれるが、こういう場での発言は苦手なので許してほしい。

「成る程な。では、柱は柱同士で稽古すれば良い。どの道、痣の出現が柱の急務だ。時透と甘露寺には負担をかけることになるがな。」
「僕は構いません。」
「わ、私も!大丈夫よ!!来たる日の為に、みんなで力を合わせて頑張りましょ!」

コクリと頷き合う。そして、悲鳴嶼さんが他に何か意見がある者はいるかと言ったところで、しのぶさんが手を上げた。いよいよ、私の話をするのだろうと、両掌を爪が喰い込んでしまうまで握りしめていると、隣にいた無一郎が、その手の上に、自分の手を重ねた。まるで、大丈夫だと言わんばかりに。

「伊黒さんと時透くんはご存知なのですが、今、薫ちゃんは洗脳の類の血鬼術に侵されている状態です。」

しのぶさんは、掻い摘んで私の身体の状態を他の柱の面々に伝えていった。というか、師範が知っていたなんて初耳なのですが、と思ったことは黙っておこう。

「正直、よく自我を保てていると思っています。流石、柱といったところでしょうか。そして、彼女を蝕んでいる鬼は、余程彼女が欲しいようですね。」

そう易々と手に入らない人間など、あきらめて仕舞えば良いのにと伊黒さんが恨めしそうに呟いた。執念深すぎる鬼だと蜜璃さんが心配そうに私を見つめてくださる。

「まあ、彼女の年齢は、鬼が人を喰うには絶好の時期であること。そして、彼女が女であること。最後に、彼女が稀血だという事実があれば、何の不思議でもないです。とは言え、幻術に長けた柱に幻術の類で勝負を挑むなど、その鬼も良い根性してますよね。」
「もしもの際には俺がコイツを斬る。」
「あらあら、そんなことないと思っているのに、伊黒さんたら素直ではありませんねぇ。」

終始和やかな雰囲気で話が進んでいくことに驚きを隠せなかった。煙たがれて当然なはずなのに、どうして。

「これ以上、柱が欠けることは許されねぇ…樋野のことは、頭の隅に置いとくかァ。」

不死川さんまでもが、そう大した問題でもないと言いたげな雰囲気だ。

「現在も薫ちゃんは、鬼の洗脳と戦いながら業務に当たっています。彼女には出来るだけ1人にならないように伝えておりますので、皆さんも何卒宜しくお願いしますね。」

しのぶさんはにこやかに微笑んで、話を締めた。その後他の柱からの伝達事項は無かったので、これにて解散ということになる。では、と各々が席を立とうとしたところで、私は蜜璃さんに抱きしめられた。

「薫ちゃん!そんな辛い中、頑張ってたのね!小さい時から!!凄いわ!!しんどい時はいつでも頼ってくれて良いからね!!」
「は、はい…ありがとうございます…」
「おい、今は平気かァ?」
「大丈夫です…すみません…」

蜜璃さんがギューギューと腕を締めるので、苦しんでいると羨ましいと言わんばかりに伊黒さんに睨まれる。そんな私に気付いてないのであろう不死川さんが、労わるようにガシガシと私の頭を撫でた。想像していた反応ではなく、あまりに戸惑ってしまい、私は無一郎の背に一目散に逃げ込んだ。

「…薫、邪魔なんだけど。」

そんな殺生な!と顔を上げると乱雑に額を叩かれる。抗議の声をあげると、微笑まれた。

「よかったね。」

受け入れてもらえて。そんな風に言われてしまっては、もう何とも返せないじゃないか。無一郎はいつだって狡いと睨みつけてやるけれど、彼はどこ吹く風だ。これからの日程については、悲鳴嶼さんが予定を組んで通達してくださるということで、各々が別れていく。私は、無一郎の屋敷に帰るべく横に並んだ。これからのことについて、話さなければならないことも山ほどある。

「!」

不意に無一郎の右手が伸びてきて、私の左手を掴んだ。繋がれた手を凝視していると、不服そうに嫌なの?と言われるので、そんなことはないと告げる。一瞬だけ微笑み合って、帰路を急いだ。














20200531

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