両親にボーダーに入りたいことを告げると、2つ返事で了承の言葉が返ってきたのには驚いた。昔から病気のせいで、出来ないことが多くて我慢ばかりしていたから、私がやりたいことを見つけたことが、凄く嬉しかったそうだ。とは言え、受験にきちんと受かったらという条件付きなのだけど。

「そうなんだね、嬉しいよ」

入隊したい有無を告げると、時枝くんはそう言って微笑んでくれた。

「入隊試験のことなんだけど、進藤の場合は、身体のことがあるから、トリオン量の計測と面接を受けるだけで良いみたいだよ」
「そうなんだ…」
「嫌?」
「あ…えっと…」
「隠さなくて良いよ。進藤は、こういう線引き嫌いだよね」

なんで分かるんだろう。私は、みんなが出来ることを病気のせいで出来ないのが、1番嫌いだ。みんなと私は違うのだということを、思い知らされてるみたいに感じてしまうから。

「入隊希望者はまず、基礎体力テスト・基礎学力テスト・面接を受けるんだけど、それは公での話なんだ。実際は会場に仕掛けられた計測器で測ったトリオン能力で判定されてるんだよ。だから、ズルでもないし、進藤が心配することは何もないよ」

つまり、極論を言えば、トリオンさえ多ければ、例え馬鹿でも運動神経皆無でも入隊できるということか。一応面接があると言うことなので、為人も重要視してるのだろうけど、第一の基準はトリトン量なのだろう。それにしても、時枝くんは、どうしてそこまで言ってくれるのか。どうしてそこまでしてくれるのか。なんで分かるのか。たくさんの疑問を目の前の彼にぶつけた。

「進藤のこと、ずっと見てたから」
「え、それってどういう…」

意味?そう問いかけようとしたら、時枝くんの右手が、私の唇を塞いだ。

「………まだ、内緒かな」
「!」

優しげな眼差しで見つめられて、とくんとくんって胸が高鳴っていく。ああ、ダメだ。そんな顔されたら、私、どうして良いか分からなくなるよ。落ち着かない空気をどうしようかと頭を悩ませていると、当事者の1人はどこ吹く風で。何事もなかったのように、話を戻された。

「それで、トリオンの計測をいつにするかなんだけど…」
「うん、」

時枝くんの声に集中したいのに、何処か違うところに行ってしまったみたいな気分になる。ああ、どうしよう。多分私、

「…で良い?」
「うん、」
「良かった。じゃあ、また土曜日だね」
「へ?」

やばい、ちゃんと話を聞いてなかった。多分、今週の土曜日にボーダーでトリオンを計測しないかという問いに頷いたのだろうと思うけど、それが正しいのか自信がない。集合場所と時間は、また連絡するからと、そう言って時枝くんはその場を去ろうとした。思わず私は、無意識に彼の腕を掴んでいた。

「…っ…進藤?」

引き止められた時枝くんは、驚いた目でこちらを見つめる。視線が混じり合って、なんだか恥ずかしくてたまらない。だけど、何か言わないと、

「あ、いや…あの…そのえっと、」
「なに?」
「わ、わたし…時枝くんの連絡先…知らないなと思って、」

口から出た言葉に感謝を告げたい。腕を掴んだ理由が、これを告げるためじゃないと言う背景があったとしても、その事に気づいた私のことを、誰か褒めてほしい。

「………そうだったね、ごめん」

顔を上げたら、真っ赤になった時枝くんの顔があって。はじめてみる表情に驚きを隠せなかったけれど、それは一瞬のことで、何事もなかったかのように、今、スマホ持ってる?とそう問いかけられた。私は慌ててポケットの中から、スマホを取り出した。この手の作業はあまり得意ではないので、パスワードを解除して、スマホ自体を時枝くんに手渡す。やって、とお願いしなくても伝わったらしく、パパッと私のスマホを弄った後、手元に返してくれた。

「ありがとう」
「うん、スタンプ送っといたから、よろしくね」
「わかった…あ、後ね、時枝くん…」
「ん?」
「待ち合わせは、ボーダーの本部で良いよ」
「え、」

多分、学校とか、もしくは私の家の近くの目印になりそうな場所で待ち合わせをしようとしてくれているんだろうけど、わざわざ来てもらうには申し訳ない。

「ボーダーには何度か行ったことあるから、心配しないで」
「そうなんだ?本部の付近で進藤を見かけたことない気がするけど…無理してない?」
「うん、いとこのお兄ちゃんがボーダー隊員なの。遊びに行く約束の待ち合わせ場所が、よくボーダーの基地の近くになることが多くて、場所覚えちゃった。私の両親がボーダーに入るの良いよって言ってくれたのも、そのお兄ちゃんもいるからって部分も大きいんだよ。だから、大丈夫」
「そこまで言うなら分かった。担当の人が都合の良い時間が分かれば、集合時間を連絡するね。」
「うん、ありがとう」

じゃあ、また…と去っていく後ろ姿を見送った後、スマホを開いた。スタンプを送ってくれていると言っていたので、それを確認すると、猫の可愛らしいスタンプが送られていた。私は、ありがとうと打って反応を返しておく。




………時枝くんは、猫が好きなのだろうか。ああ、どうしようこんな些細なことまで気になってしまうなんて。この感情の名が分からないほど、私は馬鹿ではないのだけれど、でも、それは憧れているだけで満足だった感情なのだ。まさか抱くとは思わなかった初めての感情に気付いてしまい、頭を抱えてしばらく動けなかった。




20200519



 

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