噂のあの2人


(※絵馬ユズル視点)



叶さんに彼氏が出来たらしい。
その話を聞いた時、ウチの隊で驚いたのはヒカリくらいだと思う。


叶さんと言うのは、オレよりも少し後に影浦隊に入ってきた人で、あのカゲさんの従兄妹らしい。那須隊長と同じで、体が弱い人をトリオンで元気にできるか?という研究に参加する形で入ってきた叶さんは、呼吸器系の病気を抱えているらしく、隊に入った当初はとても苦しそうだった。だから、カゲさんに、何故そんな人をボーダーに誘ったのかと聞いた時、とても驚いた。誘ったのは、カゲさんではなかったからだ。

「嵐山隊の時枝先輩が…?」
「ああ。………ったく、余計なことしやがって」

嵐山隊とウチの隊は、あまり関わりがない。なので、そこと繋がりがあったことと時枝先輩が叶さんをボーダーに誘ったという事実が、とても不思議だった。そんな疑問は、時枝先輩が叶さんに会いにきたときに、すぐ解決することになる。

「……お疲れ様。進藤いる?」
「お疲れ様です。叶さん、お客さん」

丁度、その日はヒカリが遅刻してきた日で。作戦室にいたのはオレと叶さんだけだった。

「あ、時枝くん」
「ごめんね、いきなり。…これ、進藤が休んでた分のノートのコピー」
「…えっ、あ…いつも、ありがとう」
「ううん。それと、今日なんだけど、広報の仕事が遅くまでかかりそうだから、影浦先輩と帰ってもらっていい?……約束してたのに、ごめんね」
「大丈夫だよ、いつも、色々してくれてありがとう」
「オレがしたくてしてるだけだから、じゃ、また」

ふんわりと笑みを浮かべた時枝先輩は、見たことがないくらい優しい顔をしていた。一瞬、チラッとオレの方を見たので、慌てて頭を下げる。その瞬間、何となく気づいてしまった。叶さんの方はわからないけれど、少なからず、時枝先輩は叶さんに気があるのではないか、と。

「…叶さん、あの先輩と仲良いの?」
「時枝くんは、中学が一緒でね…クラスが一緒になったのは初めてなんだけど、良くしてくれるんだ」
「そうなんだ」

それから、カゲさんと叶さんが些細なことで喧嘩した時、叶さんを励ましてくれたり、体調がどんどん悪化していく中、手術を受けることに対して、なかなか踏ん切りがつかない叶さんの背中を押してくれたのも、時枝先輩らしい。その様子を見たカゲさんが、

「………あいつ、ボーダー入って良かったな」

ボソリ、とそう呟いたのをオレは聞き逃さなかった。あんなに反対していた癖に。少し前に、同級生の女子が”恋の力はすごい”なんて、馬鹿みたいなことを言っていたけど、こう言うことなのかと思った。


叶さんは、恥ずかしがり屋な一面があって、彼氏が出来たと言うことを、あんまり公にすることを嫌がったようだ。その様子は、聞かなくても何となくわかる。一緒の隊として頑張る様になって1年が経つけれど、ランク戦で目立った功績を出す度に、恥ずかしそうに誰かの後ろに隠れる。こういうところは、年上だけど、可愛いなと思う。口が裂けても言えないけれど。

「聞いてないぞ!叶」
「ごめんなさい…恥ずかしくて…」

そして、まさしく、今。ようやく叶さんに彼氏が出来たことを気づいたらしいヒカリが、叶さんを怒っている。ヒカリは、熊谷先輩から聞いたという。つまり、叶さんは、那須先輩辺りには伝えていたと言うことだろうか。

「ヒカリ、うるさい。というか、言われるまで気づかなかったんだ………」
「…えっ、ユズルくん気づいてたの?」

叶さんは、びっくりしたような目でオレを見る。何だか、恥ずかしくなって目線を逸らした。

「…まあ、呼び方変わってたから、何となく」

“充くん””叶”そう呼び合う様になったあたりから、もしかして、とは思っていた。その前から、時枝先輩の想いは周りに筒抜けだったし…というよりも、時枝先輩は周りを牽制するために、敢えて隠してなかったようにも見える。

体が弱くて、頑張り屋。病弱で儚げな印象の叶さんは、モテる。そのことに叶さん自身が全く気づいてないのが、難点で、男側からしたら、多分気分が良いものではないだろう。

「まあまあ〜ヒカリちゃん。今日は、叶ちゃんの快気祝いだよ?そう怒らないで!」
「こいつが色恋にうつつを抜かしてたとか、今更だろーが!」

ランク戦には、間に合わなかったけど、春休みに入って、遠征選抜が行われるタイミングで叶さんは復帰が決まった。オレは遠征選抜を受けるから忙しいけれど、叶さんは受けないらしいから、ゆっくりできるだろう。今後のことは、どうなるかわからないけど、叶さんが幸せそう笑うから。その顔を見ていたら、良いかなと思ってしまう。

「叶さん」
「ん?何、ユズルくん」
「ボーダーに入ってくれて…その…、ありがとう」
「!、う、うん」

恥ずかしいから、上手く言えないけど。この先輩が同じ仲間で、良かったなと、思う…。













20201123

リクエストをくださったたなか様へ

この度は、ありがとうございました。影浦隊の中で、1番色恋に興味があるのは、ユズルのイメージが強かったので、今回はユズル視点で書かせていただきました。カゲはサイドエフェクトがあるので何となく気づいてそうなのと、ヒロインが時枝くんに告白する時に背中を押したのはカゲなので、驚きません。くっついた当日に知ったのは、カゲと木虎ですね。後、ゾエさんも、ユズル同様に何となく気づいてるので、こんな感じになりました。楽しんでいただけたら幸いです。

 

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