日が陰り行く道を迷っていると必ず、照らしてくれた。
いつだって君が照らしてくれたから、救われた。
救われる度に君が笑ってくれたから、頑張れた。
頑張りを支えてくれる君のおかげで、恋を知った。
__中1の時から、………ずっと、進藤のことが好きだ。
恋を知って、希望の花が咲いた。それはたくさんの約束を生む。
__もう無理しないって約束してくれる?
__今度、アーサーととみおに会いに行っても良い?
__この間行けなかったケーキ屋さん!街の平和を守り終えたら、行こう!
__春になったら一緒に植えようよ
「………、…!進藤!!」
大好きな声が、私を導いてくれる。重くなった目蓋を必死にこじ開けると、大好きな顔が視界に広がった。その瞳は潤んでいて、私は顔をしかめる。重たい腕を必死にあげて、頬に触れた。………温かい。
「なんで、泣いてるの…?」
言葉を紡ぐために発した声は、酷くかすれていた。時枝くんは、涙を拭った後、ナースコールのボタンを押して、私の意識が戻ったことを報告した。
「2週間も意識が戻らなかったんだよ」
「そっか、私なんで…」
確か、影浦隊のみんなとミーティングをしていたはずだ。そしたら、急に視界がブラックアウトして?それから…?
「ミーティング中に、急変して運ばれたんだ。それで、緊急手術になったんだよ」
「そう、なんだ…」
時枝くん曰く、幸運にも手術の日程が決まり対応予定の医療従事者のカンファレンスが終わっていたこと。ドナーとなる予定だった母親の術前検査が終わっていたこと。この2点のおかげで、早急に対処ができ、私は一命を取り留めることができたらしい。ランク戦に出ない選択をしたことが、ここに響いたのかと先日お会いした迅さんの顔を思い出した。
「心配かけてごめんね」
「………うん。無事なら良いんだ。この2週間は生きた心地がしなかったけどね」
そんな大袈裟なと思ったけど、黙っていることにした。それを口にしたら、怒られてしまいそうな雰囲気を纏っていたから。
「ねえ、約束を覚えてる?」
「………えっと、どれのことかな?」
時枝くんとは、たくさんの約束を結んできた。小さいものから大きいものまで。彼が、どのことを指しているのか検討がつけられずに聞き返す。自分で少し思案してみたけれど、まだ、頭がしっかりついてきてくれない。
「オレに何かしたいって言ってたやつ」
“いつも力になってもらってばかりだから、私だって時枝くんに何かしたい。”
__急に言われても、思いつかないな。ごめん。考えておくよ。
__分かった。約束だよ。
「あ、」
「思い出した?」
「う、うん…でも、それ今すぐ叶えてあげられないよ?」
「それは、どうかな?」
フッとどこか意地悪さを含んで微笑まれる。目が醒めたばかりの病人に、そんな無理難題を言うような人ではないはずなんだけど…と思いながら見つめていると、そっと額を撫でられた。
「オレのこと、名前で呼んでみてよ」
「え、」
「嫌?」
「嫌ではないけど、それはハードルが高い…と言うか、それを言うなら私も呼ばれたい…と言うか…なんかちょっと恥ずかしいという…」
私が羞恥心に駆られてごにょごにょ言葉を濁しながら困っていると、それを時枝くんは華麗にスルーして、口を開いた。
「叶」
「…っ」
「はい、次は叶の番だよ」
ただ、名前を呼ばれただけなのに。好きな人に名前を呼ばれるってだけで、こんなに幸せな気持ちになるものなのか。自分の名前が特別なものに思える。私はパクパクと口を開けたり閉じたりを繰り返して、なんとか期待に添えるように努めた。呼んで欲しいって言ったのは時枝くんからなのに、結局私の願いを先に叶えてしまうのだから、この人の優しさは筋金入りだと思う。
「み、つるくん……」
「うん、何?叶」
「あぅ…呼んでって言ったから呼んだだけです…」
「叶にそんなこと言ったっけ?」
「ちょっと…もう、私で遊んでるでしょ、時枝くん?」
「時枝じゃなくて、なんだっけ叶?」
「…っ………充くん…!」
身体中が火照ってる気がする。私だけがこんなになってて、充くんは、とても涼しい顔をしているのが、少し悔しい。
「フッ、ごめん。……でも、オレを心配させた罰だよ。でも、本当に良かった。生きててくれてありがとう。大好きだよ、叶」
「あぅ…ハイ…私も、充くんのことが、大好きです…」
酸素マスクをつけていたからか、時枝くんは私の額にそっと口付けを落とした。そして、2人で微笑み合う。私が生きていられるのは、この人のおかげと言っても過言ではないから、この時間がとても愛おしく感じた。
「おーい、来てやったぞ!叶!!あ?何、病室でイチャついてんだ?」
突然、ガラッと病室が開いて、その途端サッと充くんが私から離れていく。それが、寂しく感じて、来訪者を睨みつけた。でも、その後ろには主治医の先生もいたから、慌てて顔を無に戻す。
「ノックぐらいしなよ、ヒカリ…。しかも、時枝先輩がいるって分かってるんだから」
「ハイハイ、病院では騒いじゃだめだよ」
「チッ」
「叶ちゃん、気分はどうだい?」
充くんは広報の仕事があるからと、影浦隊の人たちと先生に挨拶をして病室を出ていく。入れ違いで入ってきたみんなからは、甘い花の香りがして、雅人くんの方へ視線を移すと、不機嫌そうにお見舞いの花が握られていた。でも、先生が問診するからと影浦隊のみんなは、私と少し話した後、一旦病室を追い出されてしまう。
「頑張ったね、叶ちゃん」
「先生、ありがとうございました…」
「うん、今日の夕方頃、ご両親もお見舞いに来られるよ。おめでとう、手術は成功だ」
その言葉を聞いた途端、目から温かな滴がこぼれ落ちるのを感じた。ようやく___。
▼
春。約束通り、学校の花壇に花を植えて笑い合った。
「叶、はい、これ。退院祝い」
時枝くんは、私の手に何かを握らせる。手のひらサイズの黄色い袋を開くと、そこにあったのは、チューリップの球根だった。私が1番好きな花。
「影浦隊の作戦室で育ててあげてよ」
「うん、ありがとう…すごく嬉しい!」
やがてそれは、桃色の美しい花を咲かせた。病気が完治した私の生活は、さらに彩りが豊かになっていく。たくさんの花々が、私たちの歩く先を照らしてくれた。これからもボーダー隊員として、頑張って行こう。彼のように、たくさんの人を救えるように。そんな人になりたいと強く願った。
20201025 [完結]
応援ありがとうございました!
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