今日も広報の仕事があり、嵐山隊の作戦室に集まって書類整理をしていると、先程から、木虎に見られてるような気がしたので、何。と問いかけた。

「…時枝先輩って、いつから進藤先輩のこと好きなんですか?」

目の前に座っていた嵐山さんが、ギョッとした目でオレを見る。この様子を見るに、嵐山さんは、オレが進藤に片想いをしていることに気付いていなかったみたいだ。他の面々は驚いた様子も無いので、もう既に気付かれていたらしい。別に隠しているつもりはないし、気付かれているのも想定内だったので、何も驚くことはない。寧ろ知られていた方が、周りを牽制できるので都合が良いとまで思っている。ああ、でも、進藤は目立つのが嫌いだから、こういう風なことで騒がれるのは嫌がるかな。

「中1の冬からだよ」

隠す必要もないし、こう言うのは下手に隠したりせず、オープンにする方が周りから騒がれない。チームメイトたちは変に言いふらしたりする人間ではないので、質問内容に淡々と答えていった。














はじめて進藤のことを知ったのは、中学1年生の秋頃だったと思う。当時のオレは周りからの視線が鬱陶しいと感じていた。あの頃はボーダーに入隊したてということもあり、周りから少し注目を浴びた。それは、良いものから悪いものまで。今でこそ注目されるということに慣れてしまっているけれど、当時のオレにとっては、苦痛でしかなかった。そんな中、ボーダーというものに、然程興味を抱いていない様子の女子生徒がいた。

「ねえ、あの子誰?」
「なになに?時枝もやっぱり、進藤さんが気になる感じ?可愛いよなー」

隣のクラスの進藤さん。呼吸器系の病気を抱えていて、あまり学校に来ることはないという。小柄で、何処か儚げな彼女は、そんなところも男子の加護欲をかき立てるのか、あまり学校に来ないというのに目立つ存在だった。それから、いつの間にか君を見かけると自然と目で追っていた。





その年の冬のことだった。

「時枝って、調子乗ってね?」
「ボーダーだからって、なんなんだよ」

陰口にも慣れていた頃、また、彼女を見かけた。

「………そうかな。何かを守るって、凄く大変なことだと思うよ。ボーダーのこと、あんまり詳しくないけど、私は時枝くんって凄いなと思うよ。私だったら、近界民と闘うの怖いなあ。あ、その前にこんなポンコツな身体じゃ、何も守れないよね」
「えっ、あ…進藤さん!!?いや、俺たちそんなつもりで言ったんじゃなくて…」
「私たち市民や、街の平和を守ろうとしてくれてるんだよ。きっと、陰で血が滲むような努力だってしてると思う。能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ?」

時枝くん。進藤の口から、初めて俺の名が紡がれた時、とても嬉しかったんだ。それに加えて、凄いと言ってもらえて、心が躍った。多分、あの時から、オレは進藤に心を奪われていたんだ。それから、彼女を見かけると自然と目で追うようになった。そうしていると、どんどん彼女の魅力に気づいていく。

「けほけほっ………ごめんね、うちでは猫飼えないの……けほっ、わたし、が、こんな、身体だから…」

ある年の春。段ボールに捨てられた子猫がいた。その中の1匹が、とても弱っていたようで、自分の身体に動物の毛が良くないと分かっているのにも関わらず、なんとかしようとしていた。あの日は防衛任務に直ぐに行かないといけなくて、保健室の先生に、進藤と子猫のことを話して、託すことしかできなかった。発作に耐えながらも、弱っている子猫を守ろうとする姿に、この子は何て強い女の子なのだろうかと思った。後から同級生から聞いた話では、進藤は、子猫を保護して怪我の手当てをし、その上、引き取り先まで見つけたと言う。それが、どれ程大変なことだったのだろうか。そのことを知ってる人間なんて、きっと一握りだ。

「先生、親、に…れん、らく…しないで」
「進藤さん…」
「また、おかあ、さん…泣いちゃ、うから…。わたしはだいじょうぶ、だから…」

保健室で発作を起こした時も、誰も頼ろうとしない。その理由には、いつも誰かを思いやる心があって。自分のせいで、誰かが悲しまないように、辛い時も笑顔を浮かべる進藤のことを守りたいと思った。


「いいなあ…私も、走って、みたいな…」

同級生が運動場で駆け回る姿を、いつも寂しそうに見つめる君に、かけてあげる言葉が見つからなくて、何も出来なかった。その弱音だって、周りには聞こえないくらいの小さな声で紡がれていて。きっと、オレ以外気付いていないのに、気付いてる自分に出来ることがなくて、無性に腹が立った。そんな時だった、那須先輩のことを知ったのは。オレは直ぐに上に掛け合った。なかなか頷いてはくれなかったけれど、トリオン量を測るだけ測ってから決めて欲しいと、頭を下げた。そんな熱意に折れたのか、ようやく許可が出た時、那須先輩や嵐山さん、沢山の人がオレに協力してくれると言ってくれたんだ。


コンクリートに生える花のように、強くて美しい。だけど、何処か危うくて儚げで消えてしまいそうな彼女の、1番の心の拠り所になりたいと思った。

「時枝くんは、優しすぎるよ。どうしてそこまでしてくれるの」

優しすぎるのは進藤の方だ。自分のことを犠牲にしてまで、弱気ものを助けようとしたり、強がった笑顔で、大切な人が涙を流すことを防ごうとする。誰かが君のためにと思っていったことを、君自身が否定する時は、必ず言葉の裏に理由が隠されている。その理由はいつだって、他人を思いやるものだ。


彼女の欠点は、自己評価が低いことくらいしか思いつかない。



ねえ、進藤。オレがこの想いを告げたら迷惑だろうか。受け入れて欲しいとまでは言わないけれど、知ってて欲しいとは思う。オレは誰に対しても、こんなことをする訳ではない。オレの世界を照らしてくれた君だから、君の力になりたいんだ。いつだって、助けられてるのはオレの方なんだよ。







20200610

 

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