今日もボーダーで広報の仕事をこなしていると、突然、時枝先輩がスマホを触りはじめた。珍しい光景に首を傾げる。佐鳥先輩ならともかく、仕事中に時枝先輩が携帯を触るなんて!綾辻先輩に視線を移すと、私が言いたいことが分かったのか、苦笑いを浮かべられていた。

「すみません、クラスメイトが此処に来ても大丈夫ですか?」
「私は構わないよ〜。もしかして、進藤さん?」
「はい、思っていたよりも早く終わったみたいで」

進藤さん…聞き慣れない名前だわ。と思った。そんな名前の人、ボーダーにいたかしら?

「木虎も良い?」
「作業の邪魔にならなければ」
「その辺は問題ないよ」

パパッとスマホをいじった後、時枝先輩は再び作業に戻った。そしてしばらくすると、再度バイブ音が聞こえてきて、時枝先輩が立ち上がる。おそらく、例の進藤先輩という方がいらっしゃったのだろう。挨拶しようと思い、私も立ち上がった。


「お邪魔します…進藤叶と申します。お忙しい中大変失礼いたします…えと、何かお手伝いします…いやさせて下さい」
「言うと思った。疲れてるでしょ。気にしなくて良いのに」

てっきり男だと思っていたので、女子の先輩が中に入ってきた事に驚いた。小柄で如何にも男子が守ってあげたくなるような雰囲気の進藤先輩は、丁寧に頭を下げて挨拶をしてくださった。私は慌てて挨拶を返した。なんだか真面目そうな人ね、とも思った。その証拠に、私たちの仕事を手伝うとまで言ってくださっている。今テーブルに並んでいる資料は、全ていずれは世に出るもので、今見られても支障はないけれど。

「いいんですか…時枝先輩?」
「進藤は几帳面だし、細かい作業得意だから心配ないよ」
「いえ、そうではなく…」
「それに、こう言う時に何も出来ない方が気にするんだよ」

はあ…と深い溜息を吐いた時枝先輩が、進藤先輩に座るよう促している。先程まで時枝先輩が座っていた横に進藤先輩は腰を下ろした。そして、和やかに会話をしながらも、手はスピーディーに動かしている。確かに時枝先輩が言う通り細かい作業が得意なんでしょう、と言うことは一目瞭然だった。

「進藤が休んでた分の授業のノート、コピー取ってるから。それも後で渡すね」
「え!そんなことまでしてくれてたの…。貸してくれたら自分で写したのに。幾ら?」
「ボーダーのコピー機を借りたから無償だよ」
「時枝くん、それ職権乱用では…?」
「ボーダー隊員の学業の為だよ」
「あ、うん…」

お2人の纏う雰囲気はとても柔らかい。そして、時枝先輩の進藤先輩を見つめる目が、他の人とは違うように見えた。もしかしたら、これは…!

「あの…綾辻先輩…?」
「ん?なあに?藍ちゃん」

コソコソと2人に気づかれないように、綾辻先輩の耳に口を近づけた。

「…あの2人付き合ってるんですか?」
「あ、やっぱりそう思っちゃうよね。残念ながら付き合ってはないよ。時枝くんの片想い。本人がそう言ってた」
「へえ…」

時枝先輩の片想いの相手。先輩って、ああいう感じの女の子が好きなんだと思った。再び視線を向けると、お2人は来月学校で行われる文化祭について話している。

「もし来れたら、一緒に回る?」

明らかにデートに誘っているように紡がれた言葉に、唯一当事者の進藤先輩は気付いてない様子。

「え?あ、うん!良いね。葉子ちゃんとかも誘ってみる?」

違うわ!進藤先輩!時枝先輩は貴女と2人で文化祭のお店を回りたいのよ!そう言いたいのを必死で抑えた。流石私ねと思いながら、2人の様子を窺う。

「………進藤がそうしたいなら」

ホラ見なさい!時枝先輩少し落ち込んでるじゃない!どうして気づかないのかしら?確かに時枝先輩は感情の起伏があまり表には出ないタイプだけど!アレは分かるでしょう?鈍感なの?ヤキモキしながら見ていると、隣にいた綾辻先輩にクスクスと笑われてしまった。

「あ、でも、そんなに多く誘って言い出した張本人が行けなかったら不味いよね…」

先程から行けない可能性の事ばかり言ってる気がする。そう言えば、作戦室に入ってきた時も、時枝先輩は進藤先輩の体調を気にしていたように見えた。

「…?」
「ああ、進藤さんはね、那須さんと一緒だよ。体が弱い人をトリオン体で元気にできるか?の研究に協力する形でボーダーに入ったの。確か、緑川くんが入隊したのと同じくらいの時期だったかな?」
「そうなんですね」

明るく笑う姿からは、あまり想像出来ないなと思った。

「時枝くんが進藤さんをボーダーに誘ったらしいよ?トリオンの量も多くてね、出水くんと同じくらいあるって聞いたよ」

入隊して半年でB級に上がったけど、その後、体調が悪化して数ヶ月入院していたらしい。先日ようやく退院したところで、ボーダーに復帰したという。通りで存じ上げないはずだ。それにしても、

「影浦隊…なんですね、」

纏っている隊服を見て、意外だと思った。話を聞いた限りでは、那須隊や柿崎隊に合いそうに見えたので余計に。

「影浦先輩とイトコなんだってー」
「え、」

失礼ながら、全く似てないと思った。そんな2人を眺めながら作業を続けていると、ようやく片付いて、両手を伸ばして伸びをした。今日は普段よりも仕事が多かったように思えた。でも、思いの外はやく片付いたのは、進藤先輩のおかげかしら。

「後は報告書を忍田本部長に出すだけだから、3人は先に帰って良いよ」
「え、でも…」
「いえ、私は嵐山さんたちを待ちます」
「そう?じゃあ、藍ちゃん一緒に行こうか」

もう少し声量を上げて、この話をしたい!と言う下心もあった。それに綾辻先輩が気付いているのかどうかは定かではないけれど、私たちは作戦室を後にする。それにしても、とてももどかしい2人だと思ったのは、きっと私だけではない筈よね。












20200525




 

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