1月。推薦で志望校に合格し、それと同時にボーダーへと入隊した。入隊してすぐの訓練は、発作が出てしまい付いていけず、そんな私を見かねてか、那須さんが私の師匠になってくれると名乗りをあげてくださった。私はそれに戸惑っていると、時枝くんがそうしたら良いよと背中を押してくれて、私は恐る恐るその手をとった。

「私も身体が弱いから、叶ちゃんの気持ちはよく分かるの」
「那須先輩…」
「ふふ、玲でいいわよ。そんな顔をしないで。貴女のトリオン量は武器になるわ。私からしたら羨ましいくらいだもの」

ボーダーの隊員は、それぞれポジションがあって、それをふまえて隊を組んでる人が殆どだと言う。私は、いずれは影浦隊に所属する予定であることを伝えて、私にピッタリのポジションは何だろうかと相談してみた。

「…どうして影浦隊?」
「雅人くん…あ、影浦先輩は従兄なんです…。ボーダーに入るのも、雅人くんがいるから良いよって親が言ってくれて」
「そうなのね」

事情を説明すると、玲先輩は少し悩む素振りを見せた。

「銃手か射手が良いかと思うわ。貴女のトリオン量を1番活かせるから」
「銃手か…射手…。どう違うんですか?」

銃手も射手も中距離戦を担当するポジションらしい。射手が弾丸をそのまま射出して攻撃するのに対して、 銃手は、銃型トリガーの補助によって、弾丸を射出する。 元々銃手というポジションはなく、射手から派生してできたものだと教えてもらった。

「うーん…どっちが良いんでしょう…?」
「銃手から射手に転向は難しいから、まずは射手を極めてみて、射手が自分にとって難しければ銃手を練習すると良いかもね」
「成る程…ありがとうございます…!」
「ちなみに私も射手よ」
「わあ!一緒なの嬉しいです!!」

玲先輩の教え方は、とても分かりやすかった。それに加えて、私の性格も相まってか、射手というポジションはかなり肌に合った。その証拠に、半年後にはB級に上がっていた。玲先輩には、身体のことも相談しやすくて、どのように動いたら身体が辛くないかとか、手取り足取り教えていただいた。嫌な顔せず私の相談にいつも乗ってくださる玲先輩は、もう私の憧れである。素敵な先輩に出会えて、ボーダーに入って本当によかったなと思った。そして、夏休みは体調が悪化して入院。私は9月に入ってようやく影浦隊に射手として加わることになった。






















「おめーはいつまで纏わりついてんだよ!」
「ううう…だって…雅人くん…緊張するんだもん…」
「歩き辛えからやめろ!!」
「怒らないでよ!!」
「あと、それやめろ!!痒いんだよ、さっきから!」
「もう!無茶言わないで!!」

今日は、ようやく影浦隊の隊員たちに会える日だ。はじめが肝心というから、きちっと挨拶しなければ。

「んな怯えなくても、誰も取って食ったりしねーよ!」
「そりゃ、雅人くんより怖い人なんて、そうそうはいないと思うけど…」
「ああ?」
「だーかーら!怒らないでってば!!………けほっ、」
「…ッチ、」

秋は季節の変わり目なので、体調が不安定になりがちだ。ちなみに夏は暑すぎてしんどいし、冬は寒さにやられてしんどいのだけど。…あれ?私、元気なの春くらいでは??と思って考えるのをやめた。雅人くんは私の呼吸が落ち着いてきたのを見計らって、

「おら、行くぞ」
「うええっ、待って雅人くん!」

私の腕をグイッと引いて、そのまま影浦隊の作戦室に足を踏み入れた。

「おせーぞカゲ!」
「まあまあ、光ちゃん…。叶ちゃんがびっくりしちゃうから!」
「2人ともうるさいよ…」

出迎えてくれたのは、光ちゃんと呼ばれたハキハキとしゃべる女の子と、優しそうなポッチャリした男の隊員さん、その後ろで大人しそうな雰囲気をしている男の子の隊員さんだった。

「小せーな!ユズル!並んでみろ!」
「ええ…やだよ面倒くさい…」
「わわっ…ケホッケホッ、」

いきなり光先輩に腕を引かれて、驚いた拍子に唾が気管に入り込んで咽せてしまう。

「あれれ、大丈夫?光ちゃん、びっくりさせたらダメだよ。」
「わりぃ!大丈夫か?なんか飲むか??」
「咽せてる人に飲み物勧めるのってどうなの…」

北添先輩がそっと近づいて来て、背中を摩ってくれた。大丈夫だと伝えると、ゆっくりと離れて行く。

「賑やかでゴメンね!はじめまして、北添尋だよー。ゾエさんって呼んでね」
「仁礼光!高2!いやー、初の女子最高!!可愛がってやるからな安心しろよー!」
「絵馬ユズル…中2…。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします!えと、ユズルくん…敬語じゃなくて大丈夫だよ」
「分かった」
「うんうん!叶ちゃんも、敬語じゃなくて良いからねー」

チームメイトに敬語を使われるのは、ちょっと寂しいと伝えると、すぐに納得してくれた。この子順応力高いな。そして、その言葉をそっくりそのままゾエさんに返される。それにしても、流石雅人くんのチームと言うべきか。賑やかで自由奔放の人が多そうだ。多分、ゾエさんは苦労しているのではないかと思う。ジイっと其方に視線を向けると、

「うん?何か飲む?叶ちゃん?」
「あ、いえ…お構いなく…」
「何がお構いなく、だ。もう、此処はお前の場所だろーが!」

ペチンと雅人くんに額を叩かれた。多分、加減はしてくれているのだろうけど、それにしても痛い。拗ねましたオーラ全開で睨みつけてやるけど、逆に睨み返されてしまう。別に怖くないもん慣れてるし。ふいっと顔を逸らすと、それを見た光先輩が大爆笑していた。

「いいな叶!気に入った!」
「え、と…ありがとう光先輩?」
「光先輩!!?はあー!何て良い響き!安心しろー!叶はアタシが守ってやるならな!!」
「はい!!」

光先輩は、ルンルンで冷蔵庫の方へ向かって行った。

「手懐けるのはやいね…」
「え!?いや、そんなつもりは、」
「いいんじゃないかな。当人はすごく喜んでるよ?」

感心したようにユズルくんに言われた。その横でゾエさんは嬉しそうに涙を流し、雅人くんは既にもう何処かに行ってしまっている。な、なんて自由な…。ていうか、顔合わせした途端居なくなるなんて、雅人くん酷いぞ。と恨めしく思った。

「あの…私、身体というか、肺がポンコツなので、迷惑ばっかりかけるかもだけど、一生懸命頑張るので!!」
「大丈夫だよー叶ちゃん。カゲから病気のことは聞いてるから、ゾエさんたちもサポートするからね」
「うちのチームはランク戦の順位もあんまり気にしてないし、そんなに気負わないで。」
「まあ、楽しくやれりゃ、良いっしょ!!」
「は、はあ…」

なんだろう。気を遣われてそう言われてない感じがする。この人たちは、本当に楽しく出来るのが1番で、その次に人助けって感じなのかな。流石、雅人くんのチームというべきか(本日2回目)。

「今日は調子は平気なの?」
「今日は割と。冬場が苦手なので、2月のランク戦があんまり出れないかも…任務も多分日によっては…」
「そうなんだね。無理せずにやって行こうね!」

パンパンと優しく背中を叩かれる。なんて優しい人たちなのだろうかと思った。

「ささっ!座って座って!」
「ねえ、カゲさん何処か行ったみたいだけど」
「なーに!?可愛い従妹置いて、どこいったんだアイツ!」

結構前から居ないけど、と思ったが黙っておくことにした。隊長としての威厳もあるかもしれないし。

「叶ちゃんは、好きな物ある?」
「好き…お花、かな…」
「なんだそれ、女子!!!!」
「はいはい、叶さんは女子だから」
「はあ!アタシが女子じゃねーってか!?」

もぎゃあーと怒り声を上げながら、光先輩がユズルくんをポカポカと殴る。

「お花が好きなんだねー。作戦室にも持ってきて良いよ。花があると華やかになるよね!ゾエさん嬉しいなあ」
「いいの?観葉植物置きたい!!」
「良いよ良いよ。此処はもう叶ちゃんの場所でもあるからね。好きに使ってね」

そう言ってくれたゾエさんの笑顔に癒される。そして、何を置こうかなーと頭を悩ませた。とりあえず、サボテンは絶対に持って来たい。今日帰るときに、ガーデニングショップ行こう。よし、と1人で意気込んだ。なんだか、これからが凄く楽しみだ。早く仲良くなれるように頑張らなきゃって気負ってたし、どうなるか不安だったけれど、この人たちならきっと大丈夫かな。ありがとう、雅人くんと心の中で感謝したのだった。












20200523

 

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