見えない色がある

自分の副作用(サイドエフェクト)を好きになれる人なんているのだろうか。そう過ぎった疑問を消化できることなく生きていた。けれど、それが覆されたのは高校2年生の時だった。村上くんがボーダーに入ってきた時、彼の副作用(サイドエフェクト)について知った。"強化睡眠記憶"その名の通り、睡眠時に記憶する能力が人より優れているその能力は誰も傷つかない素晴らしいものだと思った。だけど、

「……え、村上くん??」

体育座りをして、頭を抱えて蹲っている村上くんを見た時に、それも違ったのだと知った。

「相原か」

村上くんの副作用(サイドエフェクト)は、村上くん自身を傷つけていた。彼は、とてもやさしい人だと思う。それでいて、ちょっぴり繊細なのかもしれない。自分のその能力におごることなく、むしろ、人と違うそれがズルだと考えているようだった。みんなが1日や2日をかけて覚えてしまうことを、寝てしまえば覚えて学習してしまう。みんなのような苦労を自分は知らない。そう言って悲しそうにする姿を見たときに、今まで感じていたもの全てが、とても失礼なことだったと思えて申し訳なくなった。

「私ね、自分の副作用(サイドエフェクト)が嫌いなの」
「……?」
「だからね、ちょっぴり村上くんのことが羨ましかったんだ。村上くんのその力は、誰も傷つけないって思ってたから」

意図も容易く人を追い越して、その人のやる気を削いでしまう辛さは、経験したことがない。

「昔ね、私を助けてくれたお兄ちゃんが言ってたの」

友達を失って泣いていた私に、やさしく手を差し伸べてくれた従兄のおにいちゃん。

__それは、自分次第だよ。翠

「自分次第なんだって」
「……?」
「私もあんまり意味がよく分かってないんだけど、味方からすれば、私たちの副作用(サイドエフェクト)は頼もしいって思える瞬間があるかもしれないよってことらしい」

私は、村上くんの副作用(サイドエフェクト)は素晴らしいものだと思う。だけど、副作用と呼ばれるだけあって、みんな、それに苦しんでいる。そういった部分では、私も村上くんも一緒なのだ。自分の副作用(サイドエフェクト)の良さが分からない。他人が、どれだけ凄いとか素晴らしいとか思って伝えたとしても、本人がそうだと思わなければ、意味が無いのだ。

「私は、自分自身のこの力の良さを一生分かる気がしないんだけど、」
「……そんなことないだろう」
「ふふっ、それは、こっちの台詞だったりするんだけど」
「………」
「だから、一緒に探そうよ。自分が納得できる理由」

久しぶりに、自分から差し出したその手は手袋で覆われている。それを見た途端、一瞬だけ村上くんは不思議そうな顔をした。だけど、手袋をとってくれとか、理由を問い詰めてきたりはしなかった。それが、彼のやさしさだ。そういうところが、とても素敵だと思う。そして、ふんわりと口元を緩ませて「ありがとう」と言ってくれたのだ。久しぶりに他人から感謝されたことに、心が少しだけ高鳴った。こんな私でも、人の役に立てるんだって。そう思ったからだ。

「オレは、相原のその能力の良さを既に知っているけどな」
「それは、私の台詞なんだけどなあ」

繋いだ手から、じんわりと温かい体温が流れ込んできた。結局、先を越されてしまったのだけど。村上くんは、もう既に自分の強みを見つけてしまっている。だけど、わざと私に言ってこないのも気づいている。彼は、とてもやさしい人だから。だから、いけないんだって、思う。

「相原、今日良いか?」
「うん…」

そうやって、毎回毎回手を差し伸べてくれるのだ。







村上くんと私は、定期的に2人で"自分の副作用(サイドエフェクト)について話そうの会"を設けている。言いはじめたのは村上くん。名称をつけたのは私だ。

「相原の副作用(サイドエフェクト)って、」
「過去視だよ」

従兄のお兄ちゃんと正反対の能力だ。悠一くんは不特定多数の人間の未来が視える。対する私は、触れた人間の過去が見えるのだ。未来は、足掻いたら変えられるけど、過去を変えることは出来ない。人の知られたくないことばかり視えてしまう。この能力のせいで、人間の醜い部分や汚い部分を全部知った。人は簡単に裏切るし、都合の良い時だけ自分の味方でいてほしいと思うのだ。

「どう頑張ったって変えられない過去を知ったところで、私に出来る事なんてあるのかな」
「……相原、それは、」
「その人が知って欲しいと思っていたとしても、受け取る側は知られたくないって思ってたりする。私は、そういうのが上手に理解出来ないから」

だから、傷つけて。嫌われた。謝ったけど許してくれないまま、一生会えなくなってしまった。とても素敵な子だったのに。気持ち悪いって言われた私を、守ってくれた子だったのに。そんな大切な子の気持ちが分からなくて踏みにじったのだ。

「前から気になっていたんだけど、相原が副作用(サイドエフェクト)を嫌悪するのには、何か別の理由があるのか?」

その問いの答えは、イエスだ。だけど、どう答えたら正解かが分からなくて俯いた。そんな私に呆れたりせず、また、村上くんは優しい言葉をくれるのだ。

「……悪い。言いたくないなら言わなくていい」
「ごめんね」
「いや、オレが迂闊だっただけだ」

そういうことの1つや2つあるよなって、励ましてくれる言葉が、苦しいのだ。

「ねえ、村上くん。いいんだよ。こんな私に構ってくれなくて」
「………」
「本当は、見つけてるんでしょ。納得できる理由」
「……それは、」

村上くんは嘘が吐けない人なんだなって思う。口では何とでも言えるから、簡単に否定してしまえば良いのに。言葉がつっかえてしまった様子を見てしまったら、肯定しているようなものだ。

「オレだけが見つけても意味ないからな」
「……え?」
「"一緒"にって言ったのは相原だろう。だから、相原が見つけるまでは、終われない」

どうして、そこまで優しいのだ。泣きそうになった。

「相原のことが好きだから」

こんな人間なんかよりも、相応しい人がいるだろうに。ダメだよと心の中で泣き笑った。




20210622






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