生駒達人(5)と幼馴染(5)

(※京都弁につきましては、温かい目で見守っていただけると幸いです)

今回の舞台はこちら!日本の伝統を体現するような町、京都府。町を歩く人々は、どこか優雅で美しいです。そんなおしとやかな町に、とっても元気いっぱいの女の子と男の子がいました!

「おかあーさーん!転んでしもたー!!」
「わあっ!!?きゃーーー!!なまえ、どろんこやない!!」
「へへへっ、どろんこー!!みてみてー!!」
「待って、なまえ!怪我しとらんよね!?」
「しとらーん!」

幼稚園のお迎えに現れたお母さんは顔面蒼白。そんなお母さんの様子を全く気にしていない女の子。この子が、今回のターゲットの1人であるなまえちゃん、5歳です。とってもお転婆で、毎日お母さん達を困らせています。そんななまえちゃんは、1人の男の子と元へと駆けていきます。

「……たっちゃんやで」

<<どこに決めポーズしてんねん!!>>
<<いやでも、この子天才だわ…カメラ目の前だもん…>>

隠しカメラに気づいているのか気づいていないのか。自分の名前をボソリと呟き、顎の下で親指と人差し指を広げて決めポーズ!!こちらが、たっちゃんこと、たつひとくん。なまえちゃんと同じく5歳です。

「なんやなまえちゃん」
「みてみて、どろんこー!」
「わあ、すごいなあ!」
「おそろいするー?」
「ええなあ!!おれもどろどろー?」
「「あかんあかんあかんー!!!??」」

どろどろのお洋服のまま、たつひとくんにぎゅーっと抱きつくなまえちゃん。なまえちゃんのお母さんは、真っ青な顔を更に青くして、たつひとくんのお母さんに謝ります。もうそれは、土下座する勢いです。たつひとくんのお母さんは「まあ、子供がしたことやから…」と苦笑しておりますが、頭の中は、きっと洗濯の心配をしていることでしょう。世のお母さん達、本当にお疲れ様です。というか、なまえちゃん。どういうふうに転んだらそんなドロドロになるんでしょうか?

「なまえ、帰るで!!」
「えー!?まだ、たっちゃんとあそぶんやあ!!」
「遊ばれへん!明日冒険行くんやから、今日は家でおとなししとき!」
「ああーーーー」
「なまえちゃん、またなあー」

今世の別れのように手を振り合う2人。そんな2人見ていた周りのお友達や保護者の方達は、「わああ!なかよしだ!」「あいらぶゆー!かあ!」「そんな難しい言葉何処で覚えたの!?」などと盛り上がっています。なんだか、映画のワンシーンを見ているかのようです。

「……なまえちゃんと、おれの冒険。お楽しみにや!」
「たっちゃん、それ誰に向かって言ってるの…」

夜空に向かって拳を掲げたたつひとくん。今回は、とってもやる気満々な2人のおつかいをおいかけます!!







おつかいの内容は、とっても簡単です。スーパーのお魚屋さんコーナーで、イカを買ってくることです。なぜイカなのかというと、なまえちゃんのこんな一言からでした。

「なまえは、なになまえさんや?」
「んーっとね、なまえはね、苗字なまえさんや!!」
「せやせや、上手に言えたなあ。お名前はなまえで、苗字は苗字やで!じゃあ、たつひとくんはなにさんやろな?」
「んーっとね、たっちゃんはね…お名前がたっちゃんでな…あ、た、たちゅひと、くんや。苗字はね、……えっとな、イカさんや!!」

<<……!?>>

なまえちゃん、いつまで経ってもたつひとくんの苗字が覚えられません。たつひとくんの苗字は生駒と言います。ご両親は、その苗字からイコさんっていうあだ名で呼ばれることもあるのだとか。イコさんとイカさんが、なまえちゃんの中では似てるのでしょうか?

「なまえ、イカさんは食べ物や。たつひとくんは、食べれんやろ?」
「イカさんは食べ物…。たとひとくんは、イカま、さん…?いかまさんや」
「ちゃうちゃう、いこまさんや」

この光景を見たたつひとくんのお父さんが「大変や!!前代未聞の大事件や!!」と騒いだことにより、今回イカを買いに行くおつかいに出ることになりました。

<<んな大げさな>>

きっと、スタジオは大爆笑につつまれていることでしょう。何故分かるか?それは、カメラマンが笑いを堪えながら2人の様子を撮影しているからです!!

<<仕事しろ!!>>







「さかなーさかなーさかなー!さかなーをたべーるとー!」
「あたまーあたまーあたまー!あーたーまーがー」
「「よくーなるーー!!」」

そんな我々スタッフの様子なんて露知らず。なまえちゃんとたつひとくんは、仲良く手を繋ぎながら駆けていきます。あまりのスピードにカメラマンは、

『速い速いっ……』
『っ、ど、どっちいった…?』
『もうスーパーの手前の曲がり角まで来てるって!』
『ぜえ…ぜえ…っ、げほっ、ゴホゴホッ、おえっ』

悲鳴を上げています。元気いっぱいの2人の体力には、ビール腹を抱えるカメラマンたちにとっては、毒でしかありません。

<<やめてさしあげて…>>
<<ははっ……スタッフ頑張れ!>>

「なあなあ、なまえちゃん。なに買うん?」
「えっとな、イカマさんや」
「イカマさん?なんやそれ、うまいんか?」
「おん。たっちゃんの名前と似とるから、きっとおいしいで」

<<どんな原理や!!??>>

「せやな。おれやもんな」

<<なんで、納得するんだ!!??>>

「けど、おれ、イカマさんわからへん…。食べたことないわ」

たつひとくん。イカマなんていう食べ物は存在しません。ですが、ここにいるのは疲れ果てて屍のようになっているスタッフしかいません。誰も、訂正できないのです。

「イカマさんは、どんなんしとるん?」
「えっとな、しろくてなー、おさかなさんこーなーにあるんやて」
「おさかなさんこーなー?」

たつひとくん。お願いだから気づいて下さい。イカマとは、イカだと。

『……っ、は、もう俺ダメです。走りすぎと笑いすぎで、もう仕事できません』

大丈夫です。ナレーションを担当している私も、原稿を持つ手が震えています。

<<会場大爆笑>>

「ほんでな!ちょっとかたくてな!」
「おんおん。おさかなさんこーなーの、おさしみのとこにあるんとちゃう?」
「おん!そうや!!おいしいから、買ってたべよな!」
「………おん」

ここで、たつひとくんが頭を抱えました。たつひとくんは、とっても混乱しているようです。心情が簡単に想像出来ます。「イカマって、イカやないんか?」きっと、こう言いたいはずです。安心して下さい、たつひとくん。なまえちゃん以外の見ている全員が言いたくてたまらないはずです。

「……マ、絶対いらへん」

たつひとくん、カメラに向かって言ってもダメなんです。というか、あなたカメラに気づいてますか!?先程から、ずっとカメラ目線です。我々に助けを求めてもいけません。

「たっちゃん、どないしたん?」
「なまえちゃん、マ、いらんのや」
「マ?マは買ってこい言われてないから、だいじょうぶやで?」
「……お、おん。せやな、マはいらんくてええんや。おん?」
「おん!」
「お、おん」
「おんおん♪ふふっ、おもろいなあ」

たつひとくんが、がっくりと肩を落としたところで、スーパーに着きます。2人はおさかなさんコーナーまで、猛ダッシュ。体力がなくなってヘロヘロになっているカメラマンは、1人だけ先回りして、おさかなコーナーで待機していました。ナイス対応です。

「「こんにちはー」」

おさかなコーナーに立っている店員さんに、きちんとご挨拶。ここまでは順調です。

「はい、こんにちは!今日は、何をお求めですか?」

おつかい?えらいわねーと言われて、2人のテンションはマックスです。

「あんなあんな、イカマください!!」
「…マ、いらんのや!」
「マは買わんよ!イカマだけや!!」

<<あっかーーーんっ>>

「イカマ……?」

ぽかん、と口を開ける店員さん。すみません、店員さん。出来れば!出来れば!たつひとくんの声を聞いて下さい!正しいことを言っているのはこの子だけです。店員さんは、何かと勘違いしていることを、すぐ察してくれました。そして、かまぼこやカニカマなどを2人に見せます。

<<カマがつく食べ物だと思ったんだね…>>

「ちゃうんや…マがいらんのや…」
「マは買わんよ?」
「おん、マなんて食べ物ないんやでなまえちゃん…」
「……??」
「あかーーーーーーん」

終始ひたすら、マはいらんと訴えるたつひとくん。その言葉が、ようやく店員さんに伝わりました。

「もしかして、イカかな?」
「……!!おんっ」
「イカ、…イカさんは、食べられへんって?イカさんは、たつひとくんの、みょうじや、て、おん?」
「ちゃうちゃう!いこまたつひとくんやで!」
「いかまたつひと」
「いこま!」
「いか、ま」
「こ!」
「こ?」
「いこさんや!!」
「い、こ、さん!!」

ひらめいた!という顔になるなまえちゃん。ようやく伝わって息を吐くたつひとくん。いいですか、なまえちゃん。お願いですから覚えて下さいね。イカとイコは別物です。イカはとっても美味しい。イコはなまえちゃんに優しくしてくれる人たちです。

「いかさん!!いこさん!!」
「おん!!イコさんやで!!」
「でも、いややあ。イコさんやなくて、たっちゃんや」

どちらもなまえちゃんにとっては、だいすきなものに変わりはありません。でも、なまえちゃんは、イコさんって言えるようにならなくても良いのかもしれませんね。

__たっちゃんて、呼んでいいんは、なまえだけやろ??



20220406


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