辻新之介(5)と幼馴染(5)

(辻ちゃんの辻は、点1つが正しいですが、変換で出てこないため此方を使用させていただいています)

「もーういいかーい??」
「も、もう、いいよ…っ」

三門市にある幼稚園で、園児達がかくれんぼをして遊んでいました。そんな中、1人見つかっていない子がいます。さて、どこにいるかなー?

「せんせー!しんのすけくんいない!!」
「そうね…どこいったんだろうね??」

探されている男の子の名前は、しんのすけくん。とっても人見知りで大人しい男の子です。ちょっぴり内気なため、なかなかクラスの子と馴染めません。そんな、しんのすけくんのことを心配したご両親が、今回おつかいに出してみようと言い出しました。こうして、我々としんのすけくんが出会うことになったのです。
 しかし、とっても人見知りなしんのすけくん。ご両親も1人で行かすのには抵抗がありました。お兄ちゃんか弟を一緒に行かせるか?と悩んでいたとき、幼稚園で同じクラスの女の子のお母さんが名乗りを上げました。「うちの子と行かせてみてはどうですか?」と。それがきっかけで、お友達になれたら良いね。そんな願いがあります。

「しんのすけくん、見つけたー!!」

遠くから声が上がります。そちらに目を向けると、1人の女の子が嬉しそうに瞳を輝かせていました。この子の名前は名前ちゃん。先程言った女の子とは、この子の事です。
名前ちゃんは、とっても活発な女の子でクラスの人気者です。3人姉弟の1番上で、とても、しっかりしています。正反対なこの2人のおつかいは、果たしてどうなるのでしょうか。







とことこと歩みを進める2人。全く喋りません。いつもは、おしゃべり大好きな名前ちゃんですが、今日はどうやらとても緊張しているようです。あんまり話したことないしんのすけくんの様子をチラチラと見ています。対するしんのすけくんは、ずーっと地面を見つめ続けながら歩いています。

<<危ないで!!>>

「……痛っ」

ハラハラと見守っていた矢先でした。ゴツン、と電柱に額をぶつけてしまったしんのすけくん。あまりの痛さに、その場に蹲りました。その様子を、オロオロしながら見守っていた名前ちゃんですが、近くに公園があるのが見えたので駆け出します。

<<どこいくの!!?>>

放って行かれたと勘違いしてしまったしんのすけくんは、とうとう瞳から涙がこぼれ落ちました。ポロポロと零れる涙は、地面を濡らしていき、やがて勢いも増していきます。このままでは、水溜まりが出来てしまいそうです。ハラハラしながらスタッフが、そんな様子を見守っていると、なまえちゃんが戻って来ました!!右手には濡らしたハンカチを持っています。

「しんのすけくん!」
「……なまえちゃ、」
「いたいのいたいのとんでけー!いたいのいたいのとんでけー!だよ」

怪我をしてしまったときに、よくお母さんがおまじないをかけてくれます。今日は、なまえちゃんが、それをしんのすけくんにやってあげました。そのおかげか、いつの間にか、しんのすけくんの瞳から流れ落ちる雫が止まっていました。

「あの……あ、りがと。なまえちゃ、ん」」
「うん!あのね、なまえね。きょうりゅう好きなの!!」
「え??」

<<……恐竜??>>
<<唐突やなあ!>>

実はなまえちゃんは、幼稚園でしんのすけくんが、恐竜の本や図鑑を読んでいるところを、よく見ていました。そんななまえちゃんのお父さんが恐竜が好きで、去年、博物館に連れて行ってもらってから、なまえちゃんも恐竜が大好きになったそうです。でも、まわりのお友達は、恐竜が好きな子は、あまりいませんでした。だから、

「だから、ね。あのね、なまえね、しんのすけくんとおともだちになりたかったの!!」

声を大にして叫ぶなまえちゃん。それを言った途端、これでもかと顔を真っ赤にさせていました。幼稚園で人気者のなまえちゃんは、お友達もたくさん多いです。ですが、実は、あまり自分から「お友達になろう!」とは言ったことが無いようでした。子供って不思議な物で、「友達になろう!」って言わなくても自然と仲良くなっていますよね。なまえちゃんも、その内しんのすけくんと仲良くなれると思っていたそうですが、なかなか距離が縮められずに困っていたとか。
 だから、今回、しんのすけくんのご両親がおつかいの話をしたときに、チャンスだと思ったのだと、後からなまえちゃんのご両親が教えてくれました。なまえちゃんのお父さんとしては、恐竜好きが周りに増えるので大歓迎だとか。

「えっと……?」

困ったように首を傾げるしんのすけくん。なまえちゃんが言った言葉が理解出来ていない様子です。なまえちゃんの瞳が不安そうに揺れます。ぎゅうううっと服の裾を掴んで、唇を噛みしめました。ドキドキとした胸の高鳴りが、こちらにまで聞こえてくるかのようです。ですが、もう1度。なまえちゃんは、ゆっくり大きく口を開きました。今度は、そっと両手を差し出して、しんのすけくんの手を握りしめます。

「あのね、あのね…っ!!つじしんのすけくん!!わたしは、苗字なまえです!!わたしと、おともだちになってくだしゃ、い!!」

今度は、しんのすけくんが、お顔を真っ赤にさせました。言葉を理解した途端、恥ずかしそうに俯いてしまいます。ですが、そんな彼の微かな表情を、近くにいた女性カメラマンは、しっかりと捉えていました。

<<……あ、>>

微かに上がった口角。細められた目尻。とっても、嬉しそうです。

「つ、つつつ、つじしんのしゅけ、で…す。お、おれも、おともだち、に、なりたいです…」

ボソボソとか細い返答。マイクで拾えたかどうか怪しい声音。それでも、しっかりとなまえちゃんの耳には届いていました。嬉しそうに顔を綻ばせて、しんのすけくんに抱きつきます。びっくりしてよろけたしんのすけくん。そのまま、地面へと2人は大分しました。

「「いたいっ……」」

今度は、手のひらとお顔が地面にごっつんこ。とっても痛いはずなのに、何処吹く風な2人は、とっても嬉しそうに笑い合いました。

「これから、よろしくね!」
「う、うんっ…」

打ち解けた2人は、手を取り歩き始めます。その様子を見て、安心したように見守っていたスタッフたちの肩から、少しだけ力が抜けました。みなさん、忘れてはいけません。まだ、おつかいは終っていませんよ!!でも、1つ大きな絆が出来たこの2人なら、きっと大丈夫だね。なまえちゃん!しんのすけくん!!



20210703


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