見つけてくれる人

あれから12年の月日が流れました。あの日、おつかいに出たことによって、とっても仲良くなった2人のことを、みなさんは覚えているでしょうか。あの2人は、今、どうしているのでしょうか。
 2人が住んでいたのは三門市と言います。その名前を聞いて、ハッとなられる方も多いのではないでしょうか。そうです。近界民と呼ばれるモンスターに襲われたあの街です。

「……名前」

1人の青年の声が聞こえてきました。黒髪で、シュッとした切れ目が特徴的な彼は、あの日のしんのすけくんの面影があります。もしかして…?と思い、カメラを寄せました。その瞬間、恥ずかしそうにモジモジとしながらぺこりと頭を下げています。女性カメラマンは、慌ててお辞儀をしました。

「あ、あの……、しゅ、取材、か…なにか、ですか…」

たどたどしく言葉を紡ぐ姿は、あの日とそっくり。ですが、その瞳に何か熱いものを秘めているように見えます。

「……す、いませ、ん。あう、えと……そっと、してあげて、くれませんか」

あの先にいるのは、きっと__。







「名前。もう誰も居ないよ」

新之助くんは、そう言って奥へと入っていきます。確かに聞こえた"名前"という名前。あの先に、名前ちゃんがいるのは間違いありません。

<<やめろ、そっとしてあげろ言われてたでしょ>>
<<でも、気になるよね>>

後から取材して聞いた話ですが、新之助くんと名前ちゃんは、あの悲しい出来事をきっかけに、ボーダーと呼ばれる近界民から市民を守る組織へと入隊しました。新之助くんも名前ちゃんも、攻撃手(アタッカー)と呼ばれるポジションで闘っているそうです。
 しかし、名前ちゃんには欠点がありました。

「ごめんなさい…ごめ、んなさい…」
「泣かないで。大丈夫だから」

近界民には、モンスターのような造形をしているものと、人型をしているものとあるそうですが、名前ちゃんは人型近界民を斬ることができません。我々からしてみれば、その感覚は"普通"だと感じるのですが、ボーダー隊員は市民を守る為に"それ"が認められている存在です。正当防衛と同じ感じでしょうか。

「名前。良いんだよ」
「……え?」」
「斬れなくても大丈夫。そこが名前の良さだから。そういう優しいところが、俺は、す、好き、だよ」
「……ん、」

隠すように前に立っていた新之助くんの背中に、名前ちゃんの腕が回りました。新之助くんは終始冷静で、まるで、そうなることが分かっていたかのように、彼女を抱きしめ返します。

<<かっこええなあ、新之助くん>>
<<あれ、でも、耳まで真っ赤よ??>>
<<シーッ>>

「名前が、例え人を斬れなくても、名前は人の役に立ってるよ」
「……そんなわけない」
「ある」
「……なんで言い切れるの」
「俺がそうだから」
「へ?」

ポンポンと、名前ちゃんの頭をやさしく撫でた新之助くん。その手が、ゆっくりと頬へと伸びていき、涙を拭います。そーっと顔を近づけたところで、急にスイッチが入ったかのように、プシューっと湯気を立てたように固まった新之助くん。その様子を見た名前ちゃんは、クスクスと笑い出します。実は、新之助くん。女性が、とっても苦手な男の子になっていたのです。

<<ええええええええっ>>
<<小さい頃から、人見知りではあったけどな>>

「ねえ、新之助…。私だよ?」
「いや、それは…まあ、その…うん…そ、そうなんだけど」
「傷つくなー??」
「む、昔から、大切な女の子が、更に大切って気づいたばかり、だから、ま、まだ慣れないだけで、ちゃ、ちゃんと好き、だから、」
「……うん」

こちらが恥ずかしくなるくらいまで、きっと顔を赤くさせているであろう2人。辛い出来事を、2人で乗り越えてきたんでしょうか。あの日、生まれた絆は、更に固く強くなっていました。

「お、俺が…名前のこと、守る、から…。だから、そうやって笑ってて」

__名前が笑ってくれるなら、俺はもっと強くなれるから。




20210703








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