影山飛雄(4)と幼馴染(5)

宮城県のとある街に、バレーボールが大好きな仲良し2人組がいました。

「なまえ」
「はあい!とびおくん!」

ボールを抱えたまま女の子の方へとトコトコ歩いて行っているのは、とびおくん。女の子よりも1つ年下の4才。そんなとびおくんを見て、ニコニコと笑いながらぎゅーっと擦り寄っていくのはなまえちゃん、5才。2人ともおじいさん同士が仲が良く、よく宮城県のとある体育館に着いていっては、2人でバレーボールをして遊んでいるそうです。

「あら…困ったわ」

なまえちゃんの家のお庭で2人で遊んでいると、なまえちゃんのお母さんが眉を下げて溜息を吐きました。そのことになまえちゃんが、すぐ気がつきます。

「おかあさん…どうしたの…?」
「んー?じいじ、お弁当を忘れて行ってるのよ」
「えー!!?じゃあ、なまえとどけにいこうか?」
「なまえ、届けてくれるの?」
「うんっ!まかせて!」

なまえちゃんの言葉を聞いて、今度はとびおくんが眉を下げました。しかし、

「あっ!とびおくんもいっしょにいこう」
「………」
「いや?」

こてり、と可愛らしく首を傾げるなまえちゃん。とびおくんは、頬をちょっぴりと赤くして目を逸らした後、か細い声で「……いやじゃない」と言いました。2人の意見がまとまったところで、はじめてのおつかいのスタートです。







なまえちゃんはお弁当を、とびおくんはバレーボールを抱えて体育館までの道のりを歩きます。なまえちゃんのお母さんが、ボールを持っていくことを止めたのですが、2人は言うことを聞きませんでした。「これは、お弁当届けて広い体育館で遊ぶつもりだな?」お母さんの予想はきっと、当たることでしょう。

「あっるこうー、あっるこうー!わたしはーげんきー!あるくのー?」
「………」
「だいすきー!どーんどーんいこうっ!ふふっ」

元気にスキップを刻み、時折鼻歌も混ぜて先へ行くなまえちゃん。その後ろを静かに、トコトコついていくとびおくん。傍から見ている我々には、とても微笑ましく癒やされる光景です。

「こんにちはー!」
「………」
「こんにちは、なまえちゃん、とびおくん。おでかけ?」
「あのねあのね!じいじがお弁当わすれたから、とどけにいくの!」

ご近所さんに声かけられると、きちんとご挨拶を返す名前ちゃん。それに反してとびおくんは、困ったようになまえちゃんの後ろに隠れてしまいます。実はとびおくんは、とっても人見知りなんです。だけど、ここは流石なまえちゃん。しっかりととびおくんの手を握ってニコニコ笑っています。

「……なまえ」
「んー?なあに?」
「……なんで、そんなにわらってるんだ?」
「ええー?とびおくんといっしょだからかなー」
「おれといっしょだったら、わらうのか?」
「うんっ!なまえね、とびおくんといっしょだとたのしいから、ニコニコだよー」

繋いだ手をブンブンと振り回して、先を急ぐ2人。そんな2人の背中を後押しするように、道端に咲いたタンポポが揺れています。終始おだやかな様子に周りに居るスタッフも、仕事中だと言うのに力が抜けていくようです。

「あっ、」
「………」

と、此処で問題が発生しました。そんな2人の間に分かれ道が現れます。この分かれ道、どちらからも行けるのですが、右から行く方が人通りも多く近道です。なのですが、

「うーん、とびおくんどっち?」
「……こっち」

とびおくんが指したのは正反対の左側。そっちは上り坂も多くて遠回りだよ!と教えてあげたいのに、それが阻まれます。

「うん!じゃあ、こっちからいこう!」
「……いいの?」
「うん!いいよ!」

おやおや?この感じだと、2人ともこっちの道が遠回りだと気がついているのかな?

「なまえは、とびおくんがいれば、なんでもできるからね!」
「……うん」

<<可愛いーっ!!>>
<<とびおくん、うれしそうだねー>>

急な上り坂も、決して手を離すこと無く難なく登っていく2人。後ろを着いてくスタッフは、もうゼエゼエと肩で息をしています。たったの4才と5才だというのに、2人とも恐ろしいほどの体力をお持ちなようです。

「……なまえ」
「んー?」
「こっち、とおまわりなんだ」
「しってるよー」
「……うん。いやじゃなかったのか?」
「?いやだったら言ってるよ??」
「……うん」

口数が多い方では無いとびおくんの真意を読み取るのは、親御さんでも難しい時があるそうです。疲れ果てた顔で2人を眺めるスタッフも、我々視聴者も分からない疑問を、目の前の小さな少女だけは知っているのでしょうか。

「……なんで?」
「なんで?とびおくんがこっちが良いって言ったから」
「……おかあさんは、いつもイヤがる」
「わたしは、とびおくんのおかあさんじゃないもーん」
「……うん」
「もしかして、聞いてほしいの?」

どうして、こっちの道を選んだの?って。そう言った途端、ぱああっととびおくんの目が輝きます。

「こっち」

今度はとびおくんがなまえちゃんの腕を引き始めました。先程とは、逆になります。それでも2人に流れる空気は変わりません。

「コレ…なまえは、すき?」

とびおくんが寄ったのは公園でした。そこにはシロツメクサがたくさん咲いています。前におじいちゃんとお姉さんと此処に寄って、四つ葉のクローバーを探したそうです。その時にお姉ちゃんが「女の子はこういうの好きなんだよ」と言っていたのを、とびおくんは覚えていました。

「四つ葉さがすの?」
「……きらい?」
「きらいじゃないよ。でもね、四つ葉はなくてもなまえはしあわせだから」
「……しあわせ、」
「四つ葉さがしは、今度しよう?おじいちゃん、お腹ペコペコだよ」

幸せを運ぶと呼ばれる四つ葉のクローバー。なまえちゃんには、そんなの無くても小さな騎士がいるから幸せなのかもしれません。

「とびおくん、これからもずっとなまえといっしょにいてね」
「……うん。ずっと、いっしょにいる」




After Story→あれから18年


((きみがいてくれるなら、これいじょうのしあわせはいらないよ))



20210405






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -