白布賢二郎(4)と幼馴染(5)

宮城県のとある田舎の町に、とても仲良しな女の子と男の子がいました。

「なまえちゃん…ご本読んで?」

お母さんから貰った絵本を持って、女の子の方に擦り寄っていく男の子の名前はけんじろうくん、4才。甘え下手なところがありますが、とっても優しい男の子です。外で遊ぶのも好きなけんじろうくんですが、仲良しのなまえちゃんがお部屋で過ごす方が好きな女の子なので、それに合わせています。

「うん、良いよ」

対するなまえちゃんは、けんじろうくんより1つ年上の5才。真面目でしっかり者の性格で、自分より年下の年中クラスや年少クラスの子の面倒見もとても良いです。保育園では、そんななまえちゃんに、みんなが懐いているそうです。

「むかしむかし、あるところに…」

けんじろうくんとなまえちゃんは、家が隣同士のご近所さん。そして、お母さん同士がとても仲良しで、よくお互いの家を行ったり来たりしています。「そろそろ、うちの次男もおつかいにだそうかしらねー」「あら、うちの娘もそうしようかと思ってるのよー」なんて、お母さん同士で話していたそう。それを聞いていたお父さんたちが、「2人で行かせてみるかー?」なんて言ったのをきっかけに、2人でおつかいに行かせてみることにしました。







おつかいに行ってきて、とお母さん2人に頼まれたけんじろうくんとなまえちゃん。2人して、同じ言葉をお母さんたちに返しました。

「なまえちゃんがいっしょなら良いよ」
「けんくんと2人なら行く」

こんな時まで仲の良い2人に、お母さん達はご満悦でした。「もう、あんたたち結婚しなさいよ!」なんて言っています。その言葉に、モジモジと恥ずかしそうに俯くなまえちゃん。それに対して「……なまえちゃんが、およめさん」とボソボソとそう呟くけんじろうくん。耳まで真っ赤です。

「なに買い行くのー?」

なまえちゃんがお母さんに問いかけます。実は今日は、けんじろうくんのお兄ちゃんの誕生日でした。白布家と苗字家のみんなでお祝いをします。

「クラッカーだよ」

お母さん同士が話し合って、重いものや食材はやめようということになりました。クラッカーは、パーティーでよく使われる物です。軽くて子供でも持ち運びしやすいので安心ですね。それに、もし買って来れなくても、少し寂しいだけで済みます。

「わかった!」

車に気をつけてねーとお母さん達が2人を見送ります。それに元気よく返事をして、2人は手を取り歩き始めました。こうして仲良しコンビのおつかいがスタートです!







「なまえちゃん、疲れてない?」
「だいじょうぶだよ」

1つ上のなまえちゃんを気にかけるけんじろうくん。年は下だけど、オレは男なんだぞ!だから、なまえちゃんを守ってやるんだ!と言うような顔をしています。実は、お父さんに言いつけられていました。「男なら、大好きな女の子はちゃんと守るんだぞ!」と。それを証拠に車道側を歩いているのはけんじろうくんです。この頃から教育をしっかりされているようで…白布くんの家のご両親に頭が上がりません。対するなまえちゃんは、ニコニコと笑いながら、その横を歩いています。とても、楽しそうです。

「なまえちゃん、嬉しそう」
「うん!けんくんと、2人でお出かけ嬉しいなー」

その言葉に、再び真っ赤になるけんじろうくん。

「けんくんは嬉しくないの?」
「う、うれしくないこともない…!」
「ふふっ、どっち?」

年上のお姉さんに素直になれないけんじろうくん。

<<この先苦労するで?>>
<<既に尻に敷かれている…>>

そんな2人は、終始和やかに仲良く歩いていましたが…

「うわっ…」

けんじろうくんに少し気を取られていたなまえちゃん。大きな石に躓いて、頭から転んでしまいました。今日は、お母さんに買って貰ったピンクの花柄のワンピースを着ていました。膝の辺りが少し破れてしまいます。その上、擦りむいたところから血が出てきてしまいました。

「……ふぇっ、」

なまえちゃん、泣くのを必死に堪えます。目の前に居るのは年下の男の子。兄弟のいないなまえちゃんは、けんじろうくんのことを弟のように可愛がっていました。お姉ちゃんなんだからしっかりしないと!というのは、なまえちゃんの最近の口癖です。蹲るなまえちゃんに寄り添うけんじろうくん。どうして良いか分からず、オロオロとしています。

「なまえちゃん、立てる?」

その言葉に、フルフルと首を横に振るなまえちゃん。

「待ってて」

けんじろうくんは、道の端になまえちゃんを座らせた後、何処かに走って行きました。慌てて1人のカメラマンが、その後ろ姿を追いかけます。一方、1人置いてけぼりになったなまえちゃん。待っててという言葉に頷きはしたものの、とても不安そうです。「このまま、戻ってこなかったらどうしようっ…」と心の声が漏れます。それでも、待っててと言われたのを忠実に守るなまえちゃん。しかし、1時間が経ってもけんじろうくんは戻ってきませんでした。

<<えーーー!!?>>
<<何処行ったの、けんじろうくん>>

なまえちゃんを見守るカメラマンも、頭を抱えています。近くにいたスタッフたちは、けんじろうくんの方を追いかけたスタッフに電話をかけます。けんじろうくんの様子を聞いた途端、ようやく肩の力が抜けました。

「けんくん…」

とうとう、なまえちゃんは泣き出してしまいました。1時間も待って我慢していたのです。お姉ちゃんだって、泣きたくなります。もう待ってられない、と立ち上がろうとしたとき、なまえちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。けんじろうくんが戻ってきたのです。

「けんくんっおそいっ!!さみしかった!!」
「ごめん、」

何十年ぶりかに会ったかのように、なまえちゃんはけんじろうくんに抱きつきました。そんななまえちゃんを見て、何度も「ごめん」というけんじろうくん。なにやら、大きな袋をかかえています。

「おつかい終わらせたの?」
「うん。なまえちゃん、歩けないみたいだったから」

なんと、けんじろうくんは1人でクラッカーを買ってきていました。

「ごめんね…。私の方がお姉ちゃんなのに、私何もできなかった…」
「べつに、そんなの関係ない。オレは男の子だから、女の子を守るのは当たり前なんだよ」

そう言って、袋の中をガサガサと漁るけんじろうくん。けんじろうくんが買ってきたのは、クラッカーだけではありませんでした。クラッカーが売っている100円ショップの横には薬局があります。けんじろうくんは、薬局のお姉さんに「転んで血が出たときには、どうすれば治りますか?」と聞きました。けんじろうくんは、お姉さんのお話をきちんと聞いて、クラッカーを買った後に貰ったお釣りを渡します。しかし、怪我の手当をするための消毒液や絆創膏は買えませんでした。悲しそうに眉を下げたけんじろうくんを見た薬局のお姉さんは、100円ショップでハンカチを買ってきてくれました。1枚は水で湿らせて、もう1枚は濡らさず乾いたままです。

「けんくん?」

けんじろうくんは、まず、湿らせたハンカチでなまえちゃんの膝を拭いてあげます。もう既に血は止まっていて、怪我の手当をするには大分遅くなっていましたが、それでも、やってあげました。染みるのかなまえちゃんの顔が歪みます。

「いたい…」
「ごめん」

吹き終わった後、濡らしていないハンカチを、なまえちゃんの膝に巻いてあげます。

「ん。遅くなったけど」
「けんくんすごいね。ありがとう」
「うん…」

本当はなまえちゃんが転びそうになったときに、支えてあげたかったけんじろうくん。でも、なまえちゃんよりも身体が小さいけんじろうくんは、それが出来ませんでした。「オレが怪我すれば良かったのに」と悔しそうに、そう薬局のお姉さんに言っていたそうです。それを全て、けんじろうくんを追いかけたカメラが撮っていました。

「立てる?」
「うん」

けんじろうくんの手を握りしめるなまえちゃん。ゆっくり立ち上がって、家までの道を歩いて行きます。けんじろうくんは、そんななまえちゃんの歩くスピードに合わせてあげていました。いつもなまえちゃんに助けて貰っているけんじろうくんが、この日、はじめてなまえちゃんを助けてあげたんです。

「オレ、はやく大きくなりたい」
「え?」
「大きくなって、なまえちゃんのこと守るから」

小さなヒーローは、ちょっぴり年上の大好きな女の子を守る為に、そう誓いました。


(なまえ、怪我したの!?)
(けんじろう?なんで泣いてるの?)
(怪我したけど、けんくんのおかげで痛くないよ)
(お母さんがっ、お金もっとくれてたらっ、お薬買えたのに!お母さんのバカ!!)



After Story→あれから25年




20210208






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