とけだした感情
任務が終わり、報告書の提出をしようと職員室を訪れると担任の日下部はおらず、代わりに胡散臭い笑みを浮かべた悟がいた。

「やっほー、棘。元気?」
「ツナ」

適当に返事をしつつ、日下部先生のデスクの上に報告書を置く。そして、職員室を後にしようとしたところで、腕を掴まれた。

「ねえ棘、梓のこと好き?」
「お、……しゃ、け」

急に投げかけられた問いに目を見開く。否定しようとしたところで飲み込んだ。目の前の此奴には、俺の想いなんて筒抜けだろうし、今更、否定するのも癪に障る。目の前に本人が居ないのだから、認めてしまっても良いだろう。

「なら、ちゃんと見張っててよ」
「高菜?」
「ようやく人に甘えることを覚えてきたみたいだけど、未だに生き急いでるからねー」

深いため息を吐きながら、ケラケラと笑う悟を睨み付ける。そして、どう言う意味だと問いかけた。

「いくら?」
「優しすぎるんだよ、梓って。そんで、呪術師に向いてないくらい健気。それは、棘も分かってるデショ?」
「しゃけ」

彼女の優しさに惹かれた。そして、それが危ういとも思っていた。一緒の任務に出たことも多いが、自己犠牲精神の強い彼女は、いつか消えてしまうのでは無いかと思わせる儚さがある。

「まあ、1人で行っても問題はないんだけどさー、壊れる可能性があったから気になっててね。でも、まあ、2年全員で行くって言い出して良かった良かった」
「……こんぶ」

壊れるってどういうことだ。その言葉が引っかかる。もしかしたら、目の前に居る此奴は、須藤よりも須藤のことを知っているのかもしれない。その上で、彼女に何かを隠していると言うことか。

「梓の記憶障害は、自分で起しているのが1つ。そして、呪詛師によって消されているのが1つの2通りあるんだ。棘も、過呼吸を起した梓は見たことあるだろ?今回、実家に行くことによって、前者がフラッシュバックする可能性は高いからな」
「おかか!」
「うーん…言ったところで、解決にはならないさ。これは、梓が自分で乗り越えなきゃね。というか、女の子は弱っているときに優しくされたら、コロってなるよ?」
「おーかーかー!!」

そんなこと望んでいない。愛情というものが1番よく分からない彼女に、それを無理に求めたくはない。

「え、なに…恋人になりたいとか思わないの?棘、お前、意外と奥手だな?」
「おかか!!」
「さっきから、おかかしか言ってないけど大丈夫?」
「お……しゃけ!」

呪術師は、いつどうなってもおかしくはないから、後悔のない死はない。それは常日頃から理解している。だからといって、死に際に、この想いを告げないことを後悔するわけがない。俺は俺が傍に居られる間、彼女のことを守りたいだけだ。

「んー、欲がなさすぎだよ棘。本当に高校生?ちんこ生えてる?」
「しゃけ!」
「押してダメなら押しまくるんだよ、ああいうタイプは」
「ツナ」

なんてこと言うんだお前。それでも教師かと睨み付ける。余計なお世話だ。

「じゃないと壊れるぞって言ったら、棘は動いてくれる?」

目隠しの裏が、真剣味を帯びている気がした。攻防を繰り返していたが、閉口する。

「自己犠牲が強い彼奴を、お前が生へと繋ぎ止めてよ。棘になら出来るからさ」
「……ツナマヨ」

肝心な所は教えてくれないのは、悟の悪い所だと思う。だが、それに救われてきたことがあるのも事実なので、こいつにはこいつなりの考えがあるのも理解している。どうしようもないくらいの馬鹿で胡散臭い奴だが、最強という点だけは抜かりないのだ。

「頼んだ、棘」
「しゃけ」

悟になんて言われなくても、須藤のことは、俺が守る。








20210113

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