それだけのこと
今日は、京都校の学長が来る日…すなわち打ち合わせの日だ。それなのに、1年生の姿が先ほどから見えない。

「あり?1年ズは?」
「パシった」
「大丈夫か?」
「3歳児じゃねーんだ。お遣い位できんだろ」
「いや、そうじゃなくて、今日だろ。京都校の学長が来るの、な、梓?」
「なんで私に振るの…」

まあ、そうだけど…と私は頷く。

「特級案件に1年派遣の異常事態…悟とバチバチの上層部が仕組んだって話じゃん。京都の学長なんてモロその上層部だろ。鉢合わせでもしたらさァ」

実際、私に相性の悪い任務を当ててきたのも、それが原因じゃ無いかと私は推測している。みんなには話せていないけど、もしかしたら、一緒に任務に出てた狗巻くんは気づいてるかもしれないな…なんて彼を盗み見た。狗巻くんは、それに気づかずに相変わらず無表情だ。

「標的だった1年…虎杖は死んでんだ。恵達を今更どうこうするつもりもねぇだろ。京都のジジィだって、表だって騒ぎは起さねぇって」
「教員は立場があるけど、生徒はそうでもないよな…」

その言葉に、ようやくパンダくんがなにを言いたいのか分かった。

「………来てるって言うのか、真依が」
「憶測だよ。打ち合わせに生徒は関係ないからな。でもなァ、アイツら嫌がらせ大好きじゃん」

大阪に任務に行った後、聞いたことがある。京都の人たちにみんな良い印象を抱いてないのはどうしてか?と。京都の学長は、上層部の一員で、五条先生とは正反対な思想をお持ちな人らしい。その下で、勉学に励む生徒達と考えると、自ずと答えは出てくるはずだ。

「とりあえず、様子見に行ってみる?」

私がそう言うと満場一致で頷かれた。そして、私たちの勘は当たることになる。

「野薔薇は私が救出すっから、お前ら恵の方を頼むわ」
「喧嘩すんなよ?」

パンダくんがそう言うと、真希ちゃんは、それは真依次第だと言う。真希ちゃんは1度言い出したら聞かないので、仕方ないと言うことで、それから私たちは別行動となった。


ボボンッ

家屋が崩れる音が鳴り響く。私の"耳"がなくても、伏黒くんのいる場所は特定できた。

「やる気がまるで感じられん」
「…下手に出てりゃ偉そうに。そこまで言うならやってやるよ」

聞こえてきた会話に不味い、と察知する。目の前を走っていた狗巻くんの手を掴んだ。目でヤバイ、と訴える。交流試合を前に暴力沙汰なんてなったら、1年生まで出れなくなる。向こうが出れなくなる分には良いけれど、伏黒くんたちが出れなくなるのは困る。

「動くな」

狗巻くんの呪言が放たれて、2人の動きが止まる。とりあえず話し合いをと口を開いたところで、

「何やってんのー!!」

パンダくんが京都校の人を殴ってしまった。

「フウ…ギリギリセーフ」
「アウトだよ…何してるの…」
「おかか!」
「うんまぁ、アウトっちゃアウトか」
「いや、アウトだよ」

とは言え、パンダくんのパンチを受けたのにも関わらず、京都校の人は涼しい顔をしていた。

「………久しぶりだな、パンダ」
「なんで交流会まで我慢できないかね。帰った帰った。大きい声だすぞ」
「パンダくんも人のこと言えないんだけどね」

殴っちゃってるから、と呟くと狗巻くんが口に指を当ててシーッとした。

「言われなくても帰るところだ。どうやら、退屈し通しってワケでもなさそうだ。乙骨に伝えとけ。オマエも出ろと」
「オレパンダ!ニンゲンノコトバワカラナイ」
「………いや、なんで嘘つくの?」
「………」
「狗巻くんもなんか言って!!?」

しかし京都校の人は、こちらの返事も聞かずに立ち去ってしまった。私はため息を吐きながら伏黒くんに歩み寄る。

「大丈夫?気分悪くない?」
「はあ…まあ…」
「とりあえず、止血だね」

ズボンのポケットからハンカチを取り出して、止血するべく患部を抑える。幸いにも傷は浅そうだ。

「よしっ、医務室行こう。パンダくん、頭打ってるから気をつけて運んで」
「おう!任せとけ!」
「須藤先輩、とうとう医学の勉強もはじめたんですね」
「うん、4月からだけどね…」

まだまだ、勉強途中だけど、と言う言葉は飲み込んだ。手当や応急処置の仕方は一通り頭に入ってきてはいるが、反転術式の治癒の方は、まだ全然駄目だ。コツが掴めていないせいもあるだろうけど、うまいこと行かない。それが頭によぎって、落ち込んでいると、ポンポンと狗巻くんに背中を叩かれる。

「ありがとう、頑張るよ」
「しゃけ!」

真希ちゃんに伏黒くんを医務室へ連れて行くと連絡を入れて、私はパンダくんと狗巻くんの横に並んだ。

「そう言えば、パンダくん、あの人知り合いなの?」
「ああ、3年の東堂葵って言うんだ」
「へえ…なかなか強そう…」
「あいつ、1級だぞ」
「いっ…!?そうなの?」
「梓は、もう少し周りに関心を持った方がいいと思う」
「………お、…しゃけ」

狗巻くんが今、持たなくても良いと言おうとしたような気がするけれど、それは気付かないフリをした方が良いだろうか。でも、パンダくんの言う通り、交友関係をもう少し広げたいなと思ってたりはする。

「加茂先輩来るかな?」
「…なんでだ?」
「大阪任務の時に知り合って、お詫びがまだなんだよね」
「おかか!!」

_お詫びはしなくて良い
狗巻くんが急に不機嫌そうに否定した。

「わっ!びっくりした狗巻くん…どうしたの?」
「おかかー!!」
「なんで?そう言うわけにもいかないよ」
「おかか!」
「えー?」
「会った時にお礼を言うくらいで大丈夫だと思うぞ」
「しゃけしゃけ」
「そっかあ…分かった、そうする」

そう言うと途端に機嫌良くなる狗巻くんに、訳が分からず首を傾げた。

「もしかして、加茂先輩のこと嫌いなの?」
「おかか!!」

納得したように言った私を見た男性陣が呆れた視線を寄越した。私はさらに分からず、うーん…と首を傾げるばかりだった。










20201126
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