以下で未満なぼくたちは
それから数日。1年生たちの怪我が回復してから1年生&2年生の合同鍛錬がはじまった。本日は伏黒くんは遅れてくるとのことで、一応私は連絡を貰っていた。そのことを真希ちゃんに伝えると、なんとも言えない顔をしていた。

「なんか、大事な用事みたいだよ…?」
「あ?鍛錬より大事な用事ってなんだよ?」
「いや、私はそこまで聞いてないから…」
「随分と恵の肩をもつじゃねえか」
「なんでそんな怒ってるの…」

私は、パンダくんと野薔薇ちゃんが追いかけっこしているのを眺めている狗巻くんを、盾にするようにして、その背に隠れた。

「あっ、コラ!棘を盾にすんな!」
「いやだって…真希ちゃん怒ってるじゃん…」
「怒ってねーよ!」
「おかか」
「あ?だから、棘は毎回梓に甘すぎなんだよ!!お前ら2人で近接やってろ!!」
「わ、わかった!!行こう狗巻くん!!」

真希ちゃんは他人に厳しくて、自分にはもっと厳しいような人だ。だから、呪力を持たないのにも関わらず、あれだけの強さを誇っているのだけど。とりあえず、これ以上、彼女を刺激したくはない。座っていた狗巻くんの腕を無理やり掴んで、校庭へとダッシュする。

「えと、ではお手柔らかにお願いします?」
「…高菜?」

_そっちから来なよ?
チョイチョイ、と手招きをされる。コレは多分、タックルしては投げられ、タックルしては投げられってなるパターンだと思うんだ。かと言って、狗巻くんから来てもらったとしても、それはそれで突き飛ばされて終わると思うんだ。近接やれって言われたけど、身体能力に差がありすぎて、これ、私ダメなやつじゃない?サーッと顔が青くなった。

「ククッ…高菜?」

___来ないの?

こちらの考えなんてお見通しなのだろう狗巻くんは、悪戯っ子のような目をして笑っている。

「、行きます!!やあーーーっ」

勢いよく地面を蹴って、狗巻くんのお腹に目掛けてタックルをする。けれど狗巻くんの方が力もあるし体感もしっかりしているので、ビクともしない。身長は狗巻くんの方が少し高いくらいなのに、やっぱり男の子だなぁなんて、呑気なことを考えていると、投げられた。

「うげっ、」

とりあえず、顔から行かないように両手を付くので精一杯だった。なんとか起き上がった途端、今度は狗巻くんからのタックルが襲ってきた。それを何度も何度も繰り返す。狗巻くんに膝をつかすことはできず、一方的に私がやられる状態だ。

「うぐ!!まっ、むりっ…」

そもそも組み合わせがおかしいと思うんだ。普通はパンダくんと狗巻くんで、私と野薔薇ちゃんが組むべきじゃないかな!心の中で、そんなこと言っていてもはじまらないけれど。それにしても、容赦ないなこの人!いや、容赦なんてするはずないんだけど!体調がよろしくない私には、少しキツイんだけど、あんまりそうも言ってられない。

「わあっ…!うべ、」

腰に手を添えられて、ひょーいっと投げられる。不意にこの間、真希ちゃんがアプローチがどうのこうのとか言ってた事が過ったけど、あれは絶対真希ちゃんの勘違いだと思うんだ。この人容赦なさすぎだと思うんだ。

「ちょっ…タンマ!」
「おかか!」
「いや、ちょっと…これ以上、は、無理…頭痛いっ…」

頭がクラクラしてきた。すると、流石に察してくれたらしい、座り込んだ私の顔色を窺ってくれる。

「!ツナマヨー」

そして、狗巻くんはこっちを見ていた真希ちゃんを呼んだ。

「あ?もう、バテたのか?」
「おかか、ツナマヨー」

__違う、具合が悪そうだ

「おい、梓。お前、もしかして、まだ体調良くならないのか?」
「いや…あの…だいぶ良くなってるんですけど…」
「おかか!こんぶ!」
「棘の言う通り、そんな顔で言われてもな」

狗巻くんの首に腕を回される。反対側は真希ちゃんだ。2人に支えられながら、校庭の端へと移動する。端に着いたところで、ゆっくりと腰を降ろされた。そして、真希ちゃんの手が私の額に触れる。

「…熱はないです」
「うっせ、黙れ」
「ええ…」
「ツナマヨ?」

__大丈夫?

「うん…ごめん…」

真希ちゃんの手が温かく感じたところで、真希ちゃんの眉間に更に皺が寄る。あれ…?私、あれだけ動いておいて、なんで、真希ちゃんの方が体温が高いんだろう。真希ちゃんも全く同じことを思ったようだ。

「お前、雪女か?」
「ひどい…」
「おかか!」
「んだよ。そんなに言うなら、触ってみろよ棘」

真希ちゃんの手が狗巻くんの手を掴んで、その手が私の頬に触れた。真希ちゃんの手よりも熱い。コレが多分、普通なんだと思う。チラリと狗巻くんの方へ視線を移すと、彼の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。でも、目があった途端、

「めんたいこ、こ、こんぶ!!」

__冷たっ、い、医務室!!

「いや、大丈夫だから落ち着いてください…」
「おかか!!」
「動揺しすぎじゃない…?貧血だから…」
「いや、マジでキツかったら医務室行っていいぞ」
「ううん…大丈夫…」

折れない私を見た2人に溜息を吐かれた。そんな話をしていると、後ろからザクザクと足音が聞こえてくる。この場に遅れてくるとしたら、ただ1人だ。

「おっせぇよ、恵。何してた」
「こんぶ」
「なんでもいいでしょ。それより、須藤先輩はどうしたんですか?」
「梓は貧血でダウン」

後輩に情けないところを見られてしまった…と頭を抱える。

「……禪院先輩は、呪術師として、どんな人たちを助けたいですか?」
「あ?別に私のおかげで、誰が助かろうと知ったこっちゃねぇよ」

伏黒くんは、ボソリと聞かなきゃ良かったと呟いたけれど、真希ちゃんには、ばっちりと聞こえていたようで、ああ?と睨まれていた。視線が私や狗巻くんの方へ向いたところで、

「伏黒ォ!!面接対策みたいな質疑応答してんじゃないわよ!!交代!!もう学ランはしんどい!!可愛いジャージを買いに行かせろ!!」

野薔薇ちゃんの声に遮られた。

「あの2人は何してんですか?」
「オマエら+梓は、近接弱っちいからなぁ。まずは梓以外の2年から1本取れ。話はそれからだ」

遠回しに、私もまだまだと言われているようで…いや実際そうなのだけど、悔しくなった。真希ちゃんと伏黒くんは、そのまま野薔薇ちゃん&パンダくん組と離れた位置を取り、稽古がはじまる。私は疲労と頭痛と、居た堪れさなさとが重なり合い、穴があったら入りたい思いでいっぱいだった。

「…ねえ、狗巻くん」

縋るように名前を呼べば、俯いている顔を覗かれる。

「肩貸して」

フラッ…とそのまま身体が傾いて、その途端、ふんわりと温かいものに包まれる。それが何かは言わずもがな分かるけれど、動揺の声を上げる狗巻くんに申し訳なくなりながら、私は目を閉じた。

「お、おかか!!?しゃ、お、いくら!!?」
「…うん、ごめん…ちょっと15分だけ寝かせて…大丈夫だから…」
「しゃ、しゃけしゃけ」

背中に狗巻くんの腕が回る感覚がしたかと思えば、身体がゆっくり寝かされるのが分かった。後頭部が少し持ち上がってるようなので、多分膝枕してくれてるんだと思う。平常なら絶対恥ずかしいんだけど、今の私は貧血からくる思考低下で、そんなこと過る余裕がなかった。

「…は、」
「ツナマヨ?」

__大丈夫?

「うん、ありがとう…ごめんね、こんなことさせて」
「お、おかか!」

__大丈夫!

「あれ、ツナマヨじゃないんだ…」

フッと微かに笑みが溢れた。15分だけ休むと、野薔薇ちゃんと狗巻くんが交代することになって、野薔薇ちゃんは真希ちゃんの許可を得てジャージを買いに行った。それから15分して、私と伏黒くんが交代して、真希ちゃんと組み手を少しした。けれど、やはり本調子とは行かずに、少しやっただけで気分が悪くなってしまう。

「おいおい…大丈夫かよ…」
「うん…ごめん…」

少しやっただけで、組み手を終わらせた私たちを見て伏黒くんは首を傾げた後、私の顔を見てギョッとした。

「大丈夫すか須藤先輩」
「……私、今日はもう部屋で休む」
「そうしろそうしろ。1人で帰れるか?おい、棘ーっ!!」
「なんで、このタイミングで狗巻くん呼ぶの…」
「須藤先輩、気づいてないんすか!?」
「?何を…?」

なぜかわからないけれど、物凄く後輩にドン引きされた。真希ちゃんに呼ばれたので、狗巻くんとパンダくんが組み手を中止して、私たちの方へやって来る。

「梓、具合悪いから部屋に戻るって。送ってやれよ」
「しゃけ」
「いや、いいよ…1人で帰れるし…それに男子は女子寮あんま来ない方が良いでしょ」

任せろじゃないよ、なんでそうなるの。でも、拒否するのも、もうちょっと面倒くさくなってきた。しんどくて早く帰りたいのは事実だから、もうどうにでもなれって感じだ。

「もういいや…じゃあ、途中まで一緒に帰ろう狗巻くん」
「しゃけしゃけ」

満足そうに笑った狗巻くんに手を取られ、寮へと歩を進めた。






20201122
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