まっくろ混沌でできてて世界
2年生に進級してから数ヶ月が経った。後輩が入ってきたとは言え、その後輩は五条先生繋がりで知り合いのため、新しい出会いはない。生活で変わったことといえば、乙骨くんが海外に行ったことと、私と狗巻くんが準一級に上がったことくらいだろうか。あと、狗巻くんのヘアスタイルがツンツンからマッシュルームに変わった。こちらの方がかっこいいと思ったのは内緒だ。

「長期任務ー?」
「うん…大阪の方に行く事になったよ…」
「はあ?関西は向こうの管轄だろ?」

向こう、と言うのは京都の人たちだ。私たちが通う呪術高専は東京と京都の2つに部署が分かれている。真希ちゃんの言う通り大阪なら、京都の人たちが対応するのが通常だ。だけど、今回は…

「私の術式が使いたいらしくて…」

大阪にある劇場が調査対象の場所だ。

「お前、ここんとこ夜もあんまり寝れてないのに大丈夫かよ?」
「…いくら?」
「そうなのか?」
「え…なんで…真希ちゃん知ってるの…うるさかった?」

夜な夜な起きているのは別件なんだけど、その話をみんなにしていなかった。

「そりゃ、部屋隣なんだから、分かるだろ」
「うう…ごめんね…気をつける…」
「いやいや、そうじゃねーだろ」
「おかか!」
「何で眠れてないんだ?大丈夫か?」

心配したように私を見つめる3人に苦笑した。相変わらず、優しい人たちだ。

「いや、普通に勉強してただけ」

そう告げると、更に怪訝な顔をされるから困ったものだ。ストッパーという名の癒しである乙骨くんが、この場にいないことが恨まれる。

「………反転術式の勉強をしてるの」

本当は習得してから、みんなに言うつもりだったのに…と文句を隠す事なく言葉を続けた。こうまで言わないと、みんなは、無理矢理にでも私を寝かそうとするだろう。真希ちゃんに至っては、きっと部屋まで乱入してくる。

「へえ?」
「ツナ」
「梓、頭良いもんな。怪我した時は頼りにしてるからな」
「頭の良さはあんまり関係ないと思うけど…」

真希ちゃんがニヤニヤとした目でこちらを見つめてくる。狗巻くんとパンダくんは感心したように頷いていた。変に期待させたくなかったから、黙っていたのに。この人たちは、私ができない可能性が頭に過ぎらないのだろうか。

「だから最近、難しそうな医学書ばっかり読んでんのか」
「それは、あんまり関係ないよ。術式で治せるなら、そっちの方が手っ取り早いし。ただ、術式を使えない場面でも、救える命があるなら、救いたいから」

呪力なんて信じていない一般の方の治療もできるようになりたいと思っている。

「そうそう、包帯を巻く練習もしているから、暇がある人は付き合ってください」

そう言うと、みんな二つ返事で了承してくれた。

「問題は家入さんの説明がよくわからないところなんだよね。狗巻くん語より難しいよ…」
「お前は棘を何だと思ってんだ」
「おかか」

最近、狗巻くんとの会話は昔と比べると大分スムーズだ。何となく考えそうなことや言いそうなこと、狗巻くんの趣味趣向がわかって来たからかもしれない。今まで、如何に他人に対する興味が薄かったかが突きつけられているような気がする。

「でも、梓。無理はするなよ。少なからず大阪に行っている間は、医学の勉強は一休みしたらどうだ?」

パンダくんの言葉に、同調するように真希ちゃんと狗巻くんが頷いた。

「京都の奴らになんかされたら言え。倍返しにしてやるからな」
「真希ちゃんの中で京都の人のイメージどうなってるの…」
「おかか」

なんだかんだ京都の人と会うのは、初めてだったりする。私のタイミングが悪い(そう言う時に限って任務が入ったりする)からだ。

「まあ、お土産楽しみにしてるわー」
「くれぐれも、気をつけてな」

そう言って真希ちゃんとパンダくんが席を立った。2人はこれから任務に行くらしい。ひらひらと、狗巻くんと一緒に手を振って見送った後、私も自室に帰ろうかなと思い席を立ったところで、静止するように狗巻くんに声をかけられる。

「…こんぶ」
「ん?どうしたの?」
「ツナマヨ、いくら?」

__もう少し、話がしたい。

じぃ…と、その澄んだ瞳に見つめられて、一瞬だけドキンと胸が高鳴った。何だこれは、と思いつつも再度腰を下ろす。改めて気づいたけれど、狗巻くんって綺麗な顔立ちをしてらっしゃるから、ドキドキしてしまう。顔だけで言うなら、多分、私のドストライクだ。それにヘアスタイルが変わってから、格好良さにさらに磨きがかかって…って何考えてるんだろう、私。

「………いいよ、なんの話する?」

先ほどまでしていた話題は、もう尽きただろう。首を傾げてそう問い掛ければ、再び視線が混ざり合う。ぱっちりとした目が、パチパチと数回瞬きを繰り返した。

「ツナ、ツナマヨ明太子?」
「うん、いいよ。でも、それ狗巻くんがしんどくない?」

__長期任務に行ってる間、たまに電話しても良い?

「おかか、高菜?」
「私は全然苦じゃないよ…狗巻くんと話すの楽しいし…」
「ツナマヨ」

__ありがとう。

そう言って笑う狗巻くんの顔がとても輝いて見えて。何だか直視できなくて目を逸らしてしまった。

「あ、でも…電話でも狗巻くんが言ってる事わかるかな?」
「おかか」
「そんな、むっとした顔しないでよ。たまにね、ジェスチャーないと不安な時があるだけだよ…?いずれは、誰よりも狗巻くんが言うことをわかる人になる予定だから…!」
「しゃ、しゃけ…」

あれ、なんか今、めっちゃ恥ずかしいこと言ったような気がする。それを証拠に、狗巻くんは恥ずかしそうに目を逸らした。

「…こんぶ?」
「!それ良いね、どうせなら、やっぱり顔が見たいし!」
「しゃけしゃけ」

__ビデオ通話にする?
満足げに笑ってピースする狗巻くんに倣って、私もピースを返した。







新幹線で大阪まで辿り着くと、一緒に任務に向かうのだろう人と補助監督と思われる方がいた。

「こんにちは。東京校2年の須藤梓です」
「京都校3年の加茂憲紀です」
「!よろしくお願いします」

加茂と言えば呪術界のエリート家系である御三家のひとつだ。それに先輩のようだし、失礼のないようにしなければならない。それにしても、雰囲気から柔和な感じの人で、安心した。

「今回の任務は、大阪府にある劇場の調査です。数ヶ月前より呪いと思われる類の情報や行方不明者が出ているのですが、奇妙なことに、呪霊の姿を見た窓がいないんです」

補助監督さんの言葉に耳を傾ける。

「気配から察するに、2級以上の呪霊がいることは間違いないと思われます」

その言葉に、同意するように頷いた。今回、私が此処に呼ばれた理由は、多分2つ。呪力感知の高さを買われたことと、見えない呪霊に対抗できるかもしれない"音"を司るからだ。

「分かりました。では、行くとしよう」

加茂先輩の言葉に頷いて、その背を追いかけた。







結果的に言えば、呪霊はカメレオンの呪いで、準1級相当だった。私が助太刀する間も無く加茂先輩が祓ってしまったので、私は"耳"を貸しただけで終わった。長期任務なんて言われていたので、気が張っていたけど、まさかの1日で片付いてしまった。

「私、来た意味ありました?」
「まあ、そう言わず。須藤さんのおかげで早く片付いたよ」
「そうですか…なら、もう戻っても良いですかね…?」

慣れない土地に長期で滞在するのは、気が滅入る。しかも、親しい仲間も近くにいないし。

「1つ、質問をしても?」
「はい。答えられることなら…ですけど…」

一瞬、加茂先輩の目つきが鋭くなったような気がして、身体が震えた。御三家の方が、私の何を聞きたいのだろうか。

「歌沢家のことを、君はどこまで知っているのか」

その質問に、息を呑んだ。この人が、何を考えてこの質問をしているかが分からない。でも、はぐらかすことは許されないような雰囲気を纏っている。

「歌沢の一族は、10年前に呪詛師によって殺されています…」
「そうだね、君以外は」
「……ショックで記憶障害に陥っているので、それくらいしか。術式のことは五条先生に教えていただいてます」
「そう、ねえ…もし君は、」

告げられた内容に目を見開いた。その日、私は加茂先輩に、なんて返したのだろうか。




20201115
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