▼03
【…ちょっと、待ってよ】
起きてよ、ねぇ、隊長。そういって軽く女性の体を揺する子供を痛ましげにみる兵士たち。
その中で子供と最も仲がよかった兵士が、ゆっくりと女性の亡骸と子供に近寄っていく。
【…エリュシオン、もう…休ませてやろう】
隊長も、この戦いで、隊長職で疲れたんだ。だから、もう眠らせてやろう。
そういわれた子供はしばらく黙って女性の服を握っていたが、しばらくすると失礼します。とだけ言うと彼女の羽織っていた白から赤に変色したマントを取り外した。
持っていた布で彼女の顔についていた血を拭い、患部の血も布で抑え血で汚れないようにすると、防具用の黄色のマントで彼女を包みこんだ。
【…隊長を運んでいただけませんか。僕では運べないと思うので】
子供のその言葉に兵士たちは泣顔を引き締めながら女性を抱えた。
去っていく同僚たちを見送った後、子供は女性の血でできた水たまりを見てまた、涙を流した。
【…隊長、貴方はこうなることを知っていたのですか…?】
だとしたら、あまりに…。
そう言ってゆっくりと膝を折りしゃがみ込んでしまう子供。鎧の中に来ているズボンに女性の血がしみていくのがわかった。
【…エリュシオン】
行こう。そういって手を差し伸べてくる同僚に、子供は…エリュシオンはしばらくそのままでいたが、ハンカチで涙をふくとそれを捨て、ゆっくりと立ち上がる。
【…そうですね、行きましょう。】
にっこり、と笑ったエリュシオン。ムリして作ったような笑顔を浮かべるエリュシオンに兵士はそっとその幼く小さな頭を撫でた。
【…以上が、事の全てでございます。】
膝をつき、アーメットをかぶったままそう報告するエリュシオン。
その姿に、先程のよわよわしい雰囲気はない。
【そうか…シェリーが戦死したか】
王はそういうと顔を上げよ。とエリュシオンに声をかけた。
はっ、と短く返事をしゆっくりと顔を上げると、こちらをじっと見てくる陛下。
【シェリーからの、最後の言葉は。】
【…お傍に入れず、申し訳ございません…と。】
そうか…。
重いため息をつきエリュシオンをひたすら見つめる陛下。
ふむ、としばらく考えた後に陛下が言葉を紡いだ。
エリュシオンには衝撃の言葉を。
【…エリュシオンよ。そなたがもしよいのならだが…】
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「…ん」
目を覚ますと見えたのは天上。
知らない天上だ…とぼそりと呟きつつ周りを見渡すために起き上がろうとするとくいっと何かが引っかかるような感覚がした。
そちらのほうを見ると、黒髪が見える。
(マグナス…?何故…)
彼が引っ張っているのは僕の上にかかっていた布団のようで、そっと離すと小さくため息を吐いた。
(ずいぶんと懐かしい夢を見たな…)
最初の夢を除いて、自分にとってはすごく懐かしい過去。
暗いようで優しかった、とてもいとしい過去。
(久しぶりに怪我なんてしたからだろうか…この夢を見たのは)
ふっと笑みを浮かべながらそう思っているとううん…と耳に届く唸り声。
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