それでは自分はどうすれば良かったのだろうじっくりと思案してみるも、結局答えは見つからない。一つ一つの方法が最高では無いにしろ、最善で無かったとも思えない。自己否定を怖がっているという訳でもなく、自分の蒔いた種故の結果が最低最悪でも、こうやって俺はその事実をきちんと受け止めた。だからこそ昔を語る為にその行為は必要だった。


高野さんの部屋から横澤さんが出てくるのを見て以来、自分の中で怒りの沸点がとうとう超えてしまった。仕事の件で招き入れたのは高野さんかもしれない。けれどどう考えてもああいった状況を生み出す原因は横澤さんにしか見当たらない。その日から自分は高野さんへの進言という形を止めて、横澤さんへの直接攻撃に出ることにした。何を馬鹿なことをと思い返せるのはそれが過去のことだからであって、その当時は高野さんを取られまいと必死だったのだ。だからと言って到底自己弁護にはなりはしないけれど。


確かな意図を持って、横澤さんと二人だけになった時にこの人の知らない高野さんを語る。その度に横澤さんはぴくりと体を震わせ、時には大きく目を見開きながら動揺する。口では、今の俺には関係ありませんと言い切りながら。横澤さんには関係なくても、俺には関係あるんですよ、と心の中で意地悪く何度も呟く。それが高野さんと俺を繋ぐ唯一の絆だから。


見せびらかすつもり毛頭ない。ただそれがいかに強固であるかを示したかっただけだ。高野さんには俺がいる。だから横澤さんは高野さんに必要ない。何勘違いしているようですが、俺と高野さんとは何も関係ありません、と飄々と言い切る彼の演技が癪に触る。俺と高野さんの間をこれ以上邪魔するな。告げて、呆然とするのだ。俺は一体何をやっているのだろうと。


でもそんな考えをふるふると首を振って打ち消し、高野さんの前ではにこやかに笑って見せる。まるで道化師。この頃の自分はもうとっくに壊れていて、だから思いのままに動く自分の姿が、皆に、彼に、どんなふうに見られていたのかも気づきもしなかった。ここで止めておけばと今でも思う。悔いは先に立たないから、それを人は後悔と呼ぶのだけど。


誰かを想う気持ちが正常でも、行き過ぎた愛は異常だ。本当の狂気は、自分が異常であることに気づかないこと。愛しすぎて、自分以外何も見えていないという自覚が一切ないこと。俺がそうだった。


無意味な牽制をし続けて三ヶ月。時は冬。もうすぐ高野さんの誕生日を迎えようとしている時期だった。大学で出会って以来、二人の誕生日にはお互いが揃って祝うのが恒例だった。料理不得意な自分は勿論豪華な食事を作れるわけもなく、とりあえずケーキと丸焼きチキンだけはその予約を手配する。うーん、今年の高野さんへのプレゼントは何にしよう。去年はマフラーと手袋にしたから、衣服系は避けるべきかなあ。だったら家具とかはどうだろう?でも高価なものだとかえって嫌がられるしなあ。本っていうのも面白みがないし、だったらいっそ童心に返って大きな熊のぬいぐるみとかどうだろう?渋った顔で高野さんに邪魔だとか言われそうだ。でも結局気に入って、捨てられるに捨てられなくなるのだ。あの人は変なところで情が深いから。


頭の中野の空想に楽しくなって、ふふと笑いながら扉が開いたエレベーターの中に足を踏み出す。扉がゆっくりと閉まり始めると、大きな掌によってその進行が止められた。力任せに開かれた空間。随分強引な乗り方だな、と見やればそこには高野さんの姿。本当にタイミングと期待を裏切らない人だ、と噴き出して笑えば、何がそんなに面白いんだよと呆れたように高野さんは嘆息する。もしかしたら上手く乗れたという安心のそれだったかもしれないけれど。


丁度いい。今後の予定を彼と一緒に話そう。この年になってお誕生会とかしなくて良いってと愚痴愚痴という割には、十年欠かさず行われている催しには彼は全て皆勤賞だ。嫌といいながら、準備したのなら物体無いから参加してやる、と良く分からない持論を繰り広げ。仕方なく呼ばれてやったという癖に、実は俺以上に楽しんでいるのだこの人は。


「クリスマスツリーは実家に置いてあるのを持ってきますし、飾り付けも俺に任せてください!」
「子供かよ」
「あ、ケーキは前に高野さんが美味しいって感想言ってた店にしましたからね」
「嘘。あの店そういうイベント物は売らないはずじゃなかったのか?」
「権力とお金でなんとか」
「お前、最低だな」
「冗談ですよ。本当はお店の人に頼み込んだだけです。特別に、と約束してもらえました」


微笑みを浮かべて言えば、高野さんの表情が次第に柔らかくなっていく。それがとてつもなく嬉しくて。


重力が下がる中、胸の中でその幸福感を噛み締める。うん、俺、やっぱり高野さんが好きだ。気づくのはいつも何気ない瞬間で、日常の一欠片が自身の宝物になっていく。そうっと破片を抱きしめる時に湧き出る感情。それが自分なりの彼への愛だった。


「それで、今年の誕生日プレゼントは何がいいですか?」


サプライズをするほどのものでもないし、ある程度大人なら本当に欲しいものを贈ってしかるべきだ。嫌がらせにぬいぐるみをおまけしてつけるかもしれないけれど。どうせなら高野さんが一番に喜べるものであればいい。その方が俺も嬉しいし。だから率直にどれを選んで欲しいか本人に尋ねることにする。目的地に到着したエレベーターが、チンと音を立てた。


出口を見た先には、横澤さんの姿。おかしくも、三人まとめて瞠目する。どう考えても喜劇としか思えない状況に。





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